GGR Issue Briefings / Working Papers

経済的平穏と貿易協定

著書名パク ジヨン
出版日2023年1月16日

要旨2021年10月、インド太平洋地域の豊かで安全かつ開かれ連携した発展を実現するために、そして、クリーンエネルギーなどの21世紀の課題に向けて行動を調整するために、インド太平洋経済枠組み(Indo-Pacific Economic Framework: IPEF)が米国によって提唱された。しかし、期待できる利益が莫大である一方、途上国に対する効果的な経済的成果の欠如がこのフレームワークに懸念を投げかけている。本稿では、世界経済が低迷している中でのIPEFの発足と期待される成果、そして世界経済の低迷が各国の貿易や経済協力に与える影響について、国際政治経済学の理論と実証に基づいて検討する。それにあたって、国際交渉という形での貿易自由化の要求とその実現(国内批准過程)を区別し、その結果として貿易自由化の要求が強まっても自由化が必ずしも自動的に進むわけではないことを示す。

民主主義・人権プログラム

コミットしないセンテニアル世代は民主主義を脅かすのか?

著書名サッシャ・ハニッグ・ヌニェズ
出版日2022年12月26日

要旨今日の世界は、ウクライナ侵攻、新型コロナウイルス感染症の蔓延、人権侵害、偽情報、そして民主主義に対する不信感の高まりなどに直面している。そのため、自由主義社会の将来に対する不安が拡大している。将来の行方は若者に託されているが、彼らの意識に関する研究は限定的である。本稿では、複数のデータベースをもとに、自由が保障された国家における若者の民主主義に対する意識を比較分析する。分析の結果、18~28歳のセンテニアル世代の間に、政治的無関心、反社会的行動、あるいは権威主義への支持といった懸念すべき傾向が見られた。また、この年齢層の間でテクノクラシーに関する意識が分かれている点も興味深い。テクノクラシーへの支持は、民主的な制度や民主主義それ自体への信頼を高めるために有用である一方で、それを放置すれば権威主義への支持にも繋がりかねない。

民主主義・人権プログラム

ポーランドにおけるLGBTQ+コミュニティの現状と保護

著書名スクビシュ ミハウ
出版日2022年10月6日

要旨本稿では、ポーランドにおけるLGBTQ+の人々の状況を、将来実現可能な政策を議論する素地を提供するために人間の安全保障の観点から分析する。最終的な目標は、ポーランドのLGBTQ+コミュニティが直面している状況を改善し、抱えている問題を解決することに加えて、当問題の二つの主要アクターである現ポーランド政府とLGBTQ+コミュニティの両方にとって受け入れ可能な望ましい政策提言を行うことである。そのために、本稿ではまず、ポーランドのLGBTQ+コミュニティの現状を、その法的地位、現行の政策、及び与党の政治家の行動を分析して説明する。また、解決すべき問題への理解を深めるために、現状がLGBTQ+の人々に与える影響についても検証を行う。その次のステップでは、3つの異なる政策オプションを、その功罪とともに紹介し、各アクターの予想される反応から、どの程度実現可能なのかを探る。最後に、両方のアクターにとって有益であり、かつ実現可能な政策提言を行う。すなわち、LGBTQ+をヘイトクライムから法的に保護し、完全な平等を与えない一方、同じ市民としての理解を促進するという妥協案である。これは、LGBTQ+のコミュニティにとって最も望ましい結果ではないかもしれないが、LGBTQ+の人々にとっては個人の安全が増し、保守的な現ポーランド政府にとっても好都合な結果をもたらす可能性を意味するものである。

民主主義・人権プログラム

ミャンマーは「ディストピア」か?

著書名ニン・テ・テ・アウン
出版日2022年8月31日

要旨ミャンマーではこれまで機能的な民主化をもたらそうとする動きが見られたこともあったが、権威主義的、さらには「ディストピア」的な政権が維持されてきた。本稿はこのミャンマーの政治的変遷における国軍の役割について分析する。ジョージ・オーウェル(George Orwell)の小説『1984年(Nineteen Eighty-Four)』や映画『アウトブレイク(Outbreak)』などのディストピア・フィクションでは、人間の尊厳の侵害や政治的抑圧が描かれている。これらのフィクションとミャンマー政権の現状は、情報や国家統制などの面で類似している。ディストピアにおいて、世論を動かすための代表的な工作が偽情報の利用である。経済危機の中で軍事政権がどのような政策を打ち出し、一般市民にどのような影響をもたらすかを評価する。

民主主義・人権プログラム

終わりなき戦いのなかにある希望なき地の人々

著書名ニン・テ・テ・アウン
出版日2022年8月29日

要旨70年間にわたるミャンマー内戦によって、これまでに多数の国内避難民が発生してきたが、2021年以降その数は急増している。筆者は、国内避難民やその支援者にインタビューを行い、戦火によって普段の生活を追われた多くの人々が、居住地や食料、インフラ、そして教育など様々な面において非常に困難な状況に直面していることを報告する。

グローバルリスク・危機管理プログラム

福島 –処理水の海洋放出を非政治化する

著書名秋山 信将
出版日2022年7月5日

要旨2021年4月13日、日本政府は福島第一原子力発電所の処理水を海洋放出する方針を発表したが、これについて中国と韓国からは、近隣諸国との適切な協議がされていないとの批判の声が上がった。今回の放出は科学的知見に基づいた国際基準の下で行われるため、過度に感情的になったり政治問題化したりすることは、東アジア地域への風評被害、外交関係の悪化といった影響を及ぼしかねない。日中韓3ヵ国が取り組むべきなのは、東京電力が環境基準を守りながら海洋放出を行うための枠組みの創出、および原子力に対する安全・緊急時対応に関する地域間協力の制度化であると筆者は論じる。海洋放出問題を脱政治化させ、本当に必要なアプローチをとることが、3ヵ国全体にとっても望ましいと議論する。

民主主義・人権プログラム

アジアからの警鐘 ー揺らいでいるとはいえ、米国の民主主義はその経験を活かしてアジアの民主派を支援できる

著書名市原麻衣子、リン・リー(Lynn Lee)
出版日2022年7月2日

要旨アジア地域の安定化要因として貢献してきた民主主義とルールに基づく秩序が脆弱になっており、共通の規範と価値を維持する地域的多国間枠組みの必要性が高まっている。こうした認識を受けて発足した枠組の一つが、1.5トラック・アプローチを目指す「サニーランズ・イニシアティブ(Sunnylands Initiative)」である。これを効果的なものとするためには、アジア諸国は当事者意識を高める必要がある。

民主主義・人権プログラム

インターネットの遮断と表現の自由

著書名ニン・テ・テ・アウン
出版日2022年5月27日

要旨インターネットは情報の源であり、それにアクセスすることで老若男女を問わず、世界中の大多数の人々が言論の自由を享受できる。しかし世界の一部の地域では、住民がインターネットの遮断により苦しめられている。2021年2月1日のクーデターをきっかけに、ミャンマーは全国的なインターネットの停止に見舞われた。著者は、インターネットの自由を維持することは民主主義を獲得するために重要であり、更にテクノロジーは自由な経済・政治的選択を可能にしてくれると主張する。インターネットへのアクセス制限は、表現の自由、民主的プロセスのみならず国家の経済問題にも悪影響を与えかねないことを考慮した際、独裁者はこの問題について真剣に検討するべきだと著者は述べている。

民主主義・人権プログラム

総選挙後における岸田首相の重責 −国内と世界政治における民主主義の推進

著書名尹在彦
出版日2022年5月11日

要旨2021年10月31日の総選挙では自民党が261議席を確保し、絶対安定多数を維持した。そのような中、著者は、絶対安定多数にある岸田政権が取り組むべき課題として、国内政治における民主主義の回復、および世界政治における民主主義促進のための現実的な外交政策実施の二つを指摘する。国内的には、森友・加計問題や桜を見る会を巡るスキャンダルなど、「報道の自由」に関する問題を改善する必要性を指摘している。また、国際的には岸田政権が「消極的な現実主義」から「現実的な積極的平和主義」に転じることで、国内政治と国際政治の双方において民主主義に貢献する可能性があると論じる。ひいては、これが国際社会における日本の威信の向上に繋がる可能性にも言及している。

米中関係を外交史の視点から読む

著書名石塚英樹
出版日2022年4月20日

要旨米中関係を長期的なスパンで客観的に見た場合、一般的に焦点が当てられる「対立」的側面以外にもさまざまな要因が確認できる。本稿は、外交文書を丁寧に読み解き、実態としての米中関係を捉えることの重要性を指摘する。公式文書から見られる米中双方にとっての「核心的利益」の一致点と相違点はなにか、米中関係を見る際に我々の目を曇らせる「バイアス」とはなにか、そして日中関係に先駆けた米中関係とはどういったものであったのか。本稿は、史実をもとにこれらの疑問に解を与えている。