民主主義・人権プログラム
コミットしないセンテニアル世代は民主主義を脅かすのか?
出版日2022年12月26日
書誌名Issue Briefing No. 13
著者名サッシャ・ハニッグ・ヌニェズ
要旨 今日の世界は、ウクライナ侵攻、新型コロナウイルス感染症の蔓延、人権侵害、偽情報、そして民主主義に対する不信感の高まりなどに直面している。そのため、自由主義社会の将来に対する不安が拡大している。将来の行方は若者に託されているが、彼らの意識に関する研究は限定的である。本稿では、複数のデータベースをもとに、自由が保障された国家における若者の民主主義に対する意識を比較分析する。分析の結果、18~28歳のセンテニアル世代の間に、政治的無関心、反社会的行動、あるいは権威主義への支持といった懸念すべき傾向が見られた。また、この年齢層の間でテクノクラシーに関する意識が分かれている点も興味深い。テクノクラシーへの支持は、民主的な制度や民主主義それ自体への信頼を高めるために有用である一方で、それを放置すれば権威主義への支持にも繋がりかねない。
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コミットしないセンテニアル世代は民主主義を脅かすのか?

―定着した民主主義においてテクノクラート的政策決定が生まれる可能性

サッシャ・ハニッグ・ヌニェズ

(一橋大学国際・公共政策大学院 修士課程)

2022年12月26日

はじめに

ウクライナ侵攻、新型コロナウイルスの拡散、人権、偽情報、あるいは民主主義に対する人々の不信感の増大といった現在の世界情勢の影響で、自由主義社会の将来が不透明になっている。ラリー・ダイアモンド(Larry Diamond)をはじめとする専門家は以前から、民主主義の侵食の要因を明らかにし、警告してきたフリーダム・ハウス(Freedom House)、エコノミスト(The Economist)、ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)などの指標によれば、特にこの10年間、世界的に民主主義に対する関心が薄れている。

これらの傾向は人口全体の指標であるが、18~28歳の「センテニアル世代(ズーマー、Z世代)」が最も懸念すべき変化を示している。それにもかかわらず、ミレニアル世代と比較してこの年齢層に関する先行研究は非常に少ない。その意味で、彼らの現在の価値観を分析することは、現在の国際的な危機が将来にどのような影響を及ぼすかを理解することに繋がる。また、情報へのアクセス、教育の「標準化」、文化のグローバル化により、若い世代は均質であると思われるかもしれないが、認識、参加、価値観などの点において、重要な(そして測定されていない)細かな差異が存在する可能性がある。

ミレニアル世代、センテニアル世代、そして世代の問題

「若い世代」という言葉には、ある特定の期間に生まれた全ての個人が元来世界中で共通の考え方をするという前提がある。しかし実際はより複雑である。現在の「30歳未満」の投票者層は、センテニアル世代とミレニアル世代という2つの特徴的な世代で構成されている。

世代間の問題」として提示されたマンハイム(Mannheim)の理論に基づくと、ミレニアル世代は高学歴でありながら経済的な機会恵まれず、不満を抱える世代として説明される。なぜなら、2008年の経済危機による期待と現実とのギャップに大きな影響を受け、彼らの人生選択と社会に対する不満を形成させたからである。したがって、他の世代と比較してミレニアル世代は政治体制に対してより批判的であり、一部の国ではより修正主義的な傾向がある。

一方で、若いセンテニアル世代は経済危機後の世界に対応し、特徴的な行動パターンを見せている。例えば、ある国では政治や民主主義にはあまり関与せず、また別の国では、よりテクノクラート的である。さらに、この世代の見解はコロナ時代の環境から影響を受けており、政策決定における科学の役割や、危機的状況における偽情報の役割などにも反映されている。

このような違いはいくつかの国で測定可能である。例えば、日本のシンクタンクである言論NPOの調査によると、ほとんどの日本人は民主主義を信頼しておらず、30~39歳の年齢層では「信頼する」という回答はわずか17%に過ぎない。対照的に、若年層の市民はより多くのコミットメントを示しており、18~20歳で36%、20代では25.5%の信頼に達している。

また、インターネット上やデジタル化された議論に触れることが、若い世代の文化的特質として取り上げられ、国境を越えて価値観を同質化する要因だされている。インターネットに費やす時間と行動との関係については、スウィガー. N(Swigger, N., 2013)が取り上げており、「テクノロジーは、基本的な民主的価値に関するアメリカの態度を変えているかもしれない」と提唱している。情報アクセス、政治参加、民主主義の文化の間には議論の余地があり、また、長期的には社会によって民主主義に相互作用(および転換)が生じる可能性がある。

民主主義へのコミットメントが低いセンテニアル世代を抱える先進国がある一方、新興民主主義国家が若者のコミットメント向上への鍵を握っているかもしれない

世界価値観調査(World Value Survey: WVS)による29歳以下の人々の態度を示すデータは、この世代と民主主義の関係性についてより良い理解を与えてくれる。サンプルの選定は、フリーダム・ハウスが行った2021年の年次報告書で「自由」とされている38カ国を掛け合わせたものである。

最初の分析項目は「民主主義の重要性」であり、この制度に対する国民の支持を測る最も重要な質問としてしばしば引用されている。権威主義的な国でも「民主主義は重要でない」と答える人は少ない(図1)。しかし、「民主主義の重要性」の平均値を「29歳未満」の世代別で比較すると、関連する相違点が浮かび上がってくる(図2)。まず、ほとんどの若年層が民主主義を平均より低く評価しているが、チュニジア、モンゴル、リトアニア、スロバキア、チリ、そして特にブルガリアなどが外れ値であり、29歳未満の世代は10%高い数字となっている。興味深いことに、ギリシャは報告書の上位に位置していないにも関わらず、若年層の民主主義対する支持が最も高い。

一方、定着した民主主義国の中には、この数値が大きく減少した国もあった。日本については、前述の言論NPOの調査と同様、重要度が低いと回答するのではなく「わからない」と回答した人の割合が21%を占めていることから、平均に比べて23%以上低い支持率となっていた。言論NPOの調査では、民主主義への信頼を問う質問に対して、「わからない」と答えた人が30%以上となり、若い世代ほど民主主義に対するコミットメントが弱いことが判明した。また、世界的に最も懸念されている国の一つであるアメリカでは、19%以上低い数字となり、その分20%が「中立」に傾いている。

民主主義国でテクノクラートを支持する若者が専門家の「賢明な」政策決定をサポートする可能性、独裁的な道を支持する可能性

フランスのシンクタンクであるイノベーション政策財団(Fondation pour l’innovation politique)は、2019年の民主的価値に関する調査で、若い市民(35歳未満)の48%が市民の教育レベルによって投票を制限する制度に支持を表明していることを発見した。これは新しいことではなく、政策決定メカニズムにおいて若者がフィルターを支持することは、他の研究でも報告されている。こうした傾向は、若い有権者が意思決定において、どちらかといえばテクノクラート的、あるいはエピストクラシー的なアプローチを追求する可能性を示唆している。

図3の分析では、29歳未満の層は有権者の平均よりも専門的な政策決定を支持する傾向があり、特にオランダ、ニュージーランド、カナダなどの西洋の強固な民主主義国で大きな格差が見られることを示している。これらの国の若者は前の世代と異なり、伝統的な制度から離れ、選挙で選ばれた指導者ではなく、専門家に政策決定を仰ぐ傾向がある。

なぜこのように若者は政治家の能力を拒絶するのか。理由の一つは、極端に二極化が進んだ社会では、政策決定の根拠が事実そのものではなく、しばしば政治的解釈(とイデオロギーの争い)に置かれるためだと考えられる。その上、偽情報やフェイクニュースは事実や現実にさらなる不確実性をもたらす。こうした欺瞞の策略に高い意識を置く世代にこれが影響を及ぼしていること、さらに政治家がこうした構造を利用していることが伺える。直近のコロナ対策は、その一例である。フェイクニュースが蔓延し非科学的な反応を示す社会があれば、健康上の緊急事態を利用し、現実の一面だけを解釈して権力を乱用する政府もあった。

一方で、テクノクラート的な政策決定に対する支持が最も低いのはギリシャの若者であり、スロベニアが僅差でギリシャに続く。また、テクノクラートへの支持という点で、全体平均と若者の差が最も乖離している国がルーマニアである。これらの若い国民は、現在の政府をより信頼しているのではなく、テクノクラートの力を弱めるべきだと考えている。権威主義体制下では、テクノクラートは政府の一方的な行動を正当化するための「盾」として使われることがある。そのため、ソ連の産業主義を例にとると、定着した民主主義国よりも新興民主主義国の方がこの性質をよく理解している。

反社会的行動は、民主主義への支持よりも将来の結果予測に重要

先行研究は、世界価値観調査のデータを用いて、若い世代の民主主義的態度について詳述している。ロベルト・フォア(Roberto Stefan Foa)とヤシャ・モンク(Yascha Mounk)は、ミレニアル世代の態度を強調しながら、西洋の民主主義諸国の市民が「政治システムとしての民主主義の価値についてよりシニカルになった」と主張している。一方、エリック・ボーテン(Erik Voeten)は、若年層が常に民主主義に対してより批判的な傾向を持ち、民主主義に対する一般的な態度は歴史データと比較して「均一」だと論じる。一方、他の地域でも興味深い特徴が浮かび上がっている。ラテンアメリカにおける2016年度調査では、3分の2以上の学生が、経済的利益や安全をもたらすならば独裁政権を支持することが示された。Howe(2017)は、米国の民主主義に対する態度の憂慮すべき変化について警告し、民主主義が侵食されている重要な要因として、社会における脱税や贈収賄への支持といった反社会的行動を挙げている。

すべてのセンテニアル世代が不正行為を支持しているわけではない

「税金のごまかし」について分析すると(図4)、まず顕著なのは、国による違いである。オランダ、台湾、日本、スウェーデンの若い世代は、平均値よりも不正行為に対して強い抵抗感を示している。一方で、ブラジル、カナダ、エストニア、モンゴルのような国の若者は、このような行為を過小評価している。これらの結果から民主主義国家全体の傾向を見出すことは非常に困難であり、同じような行動を取る国の集団に対象を絞って提言を行う必要がある。

カナダの若者は政治的暴力を容認する傾向が強い

もう一つの反社会的行動として、政治的暴力がある(図5)。ここでも、カナダの若年層は、キプロスに次いで大きなギャップを示しており、世代間における態度の劇的な変化を警告している。全体的に若年層は平均と比べて「より暴力的」であるが、一部例外として、スロバキア、日本、オーストリア、チュニジアの若者は暴力を強く非難している。

政策提言

これまで分析してきた通り、若者の意見は、世界のあらゆる社会的、民族的、世代的集団と同様、微妙な意味の違いがあり、一枚岩ではない。例えば、日本のような国では「民主主義に対する支持」に大きな隔たりがあったが、若い世代は反社会的な行動を支持しない。以上を踏まえると、提言は、民主主義へのコミットメントの度合いや、最も懸念される反民主的な態度などに分類できる。

第一に、テクノクラートへの支持の強さは、力として利用できる。若者が政治家ではなく専門家による政策を好む国は、必ずしも民主的な意識が低いとはいえない。とはいえ、それは従来の民主的な政策決定に対する信頼の欠如、またはより全体主義やエリート主義的な政府への支持を示唆しているかもしれない。この場合、今後の研究において、若い世代が反社会的行動をとるかどうか追加的に調査する必要がある。

このような若者の専門家に対する選好を利用する価値はあるかもしれない。新型コロナウイルス感染拡大の際に、政策決定において「科学」を考慮するという点でいくつかの社会が行ったガバナンスに劇的な変化が見られた。そのため、政策決定プロセスにおいて専門家の議論や数字を公開したり考慮したりすることにより、ファクトベースの効率的な民主主義の構築が可能になる。

第二に、反社会的な若者を抱える古い民主主義国は、直ちに価値を再認識する必要がある。現在の傾向に歯止めをかけるには、カナダや米国のような国を厳密に調査し、確固たる長期的な戦略に取り組む必要がある。このような若者層との関わりを模索する政策は、民主的な価値の定着にも目を向けるべきである。さらに、政策立案者が市民文化や政治文化の問題を認識し、若者を取り巻く環境の中で民主的な価値を促進する取り組みを高めることが必要である。ソーシャルメディアも問題の原因の一つとして検討されるべきであり、また上述のような問題意識を広めるツールとしても利用できる。つまり、民主主義を守るどころか侵食してしまう非公式な手段や反社会的な手段から若者を遠ざけ、民主主義の侵食への対策を制度化する必要がある。

第三に、民主主義の定着に向けて、新興民主主義国おける若者の働きが重要である。ギリシャ、ブルガリア、チュニジアなど、フリーダム・ハウスの報告書で最高位には位置していないものの全体平均と比べてより民主主義に関与する若者がいる国では、若者は国の将来の発展に貢献する可能性が高い。若い世代にツールを提供し、国内および国際社会を通じた自由民主主義への支持を拡大することは、民主主義国の将来を危うくする非自由主義的な傾向に対抗する上で役立つだろう。さらに、これらの鍵となる年齢層とのネットワークを形成することは、これらの国のセンテニアル世代が他の世代より民主的ガバナンスに関与することでもたらす変化を理解するうえでも役立つだろう。

総じて、若い世代は国ごとに、あるいは国内の社会ごとに異なるが、将来のリーダーシップや社会を強化するために政策立案者が取り組むべき状況的な要素は存在し、それは世界中で民主主義をより強固なものにし得る。政策決定者は、テクノロジーとの関係性や非自由主義的な動きがもたらすさまざまな国際的脅威など、共通の特徴を理解する必要がある。

 

【翻訳】
田中秀一(一橋大学大学院法学研究科 博士後期課程)
土方祐治(一橋大学国際・公共政策大学院 修士課程)

プロフィール

JICA奨学金留学生として一橋大学国際・公共政策大学院グローバル・ガバナンスプログラムの修士課程に在籍。チリ出身。国際関係のアナリスト、金融記者としての経験もある。現在複数の組織でコンサルティングを行うほか、Instituto Desafíos de la Democraciaのアソシエイト・リサーチャー、一橋大学グローバル・ガバナンス研究センターのアシスタントも務める。主な研究分野は中国の世界的影響力、科学技術の社会的影響力。アドルフォ・イバニェス大学で修士号を取得。学術的な関心に加え、3ヶ国語で出版された5冊の小説を持つフィクション小説家であり、En el Fin del Mundoポッドキャストの共同ホストとしても活躍している。