GGR Issue Briefings / Working Papers
ロシア・ウクライナ戦争でのロシアによる核の威嚇 -中国はどのように捉えたのか-
要旨中国は、ロシア・ウクライナ戦争でのロシアの核による威嚇とその結果を受け、自国の核兵器の新たな役割として「他国の直接的な軍事介入の抑止」に注目するとともに、自らの「戦略抑止」の方法に対する自信を深めた。これにより、台湾有事が発生した場合、中国が他国の直接的な軍事介入を抑止するため、核の威嚇を実行に移す可能性が懸念される。
2023年タイ総選挙 ―野党の台頭
要旨タイの総選挙が5月14日に実施される。クーデターを起こしたプラユット・チャンオチャ将軍(General Prayut Chan-o-cha)が率いる親軍政権に固執するのか、それとも別の道を歩むのか、タイ国民が決断するときが来た。親軍政党を優遇する非民主的な憲法にもかかわらず、最近の傾向では、2大野党であるプアタイ党(Pheu Thai Party)とタイ前進党(Move Forward Party)が地滑り的に勝利し、親民主的な連立政権が誕生する可能性がある。プアタイ党は、これまでの記録や最近の世論調査から、総選挙のたびに最多議席を獲得していることから、向かうところ敵なしといえる。今度の選挙でも勝利する可能性が高いと考えられる。一方、タイ前進党とその党首であるピター・リムジャルーンラット氏(Pita Limjaroenrat)の人気は、明確な政治姿勢、変化をもたらすことを望む印象的な政策、政策論争での卓越したパフォーマンスによって急上昇している。このような理由から、タイを軍事政権の遺産から救う、親民主的野党による新政権が誕生する可能性がある。
チリにおける憲法改正の否決より、民主的プロセスと裏切られた期待について何が学べるか?
要旨2022年9月、チリの有権者は、1年以上かけて起草され、三権分立などの自由民主主義の基本的要素を制限する新憲法案を、62%の反対をもって否決した。2023年11月にはチリで新たな国民投票が実施される予定であり、さらに他の多くの国々でも憲法改正が検討されている。こうした経緯を踏まえ、本稿では以下の2つの問いについて論じる。第一に、改憲プロセスの動向からどのような教訓が得られるのか。そして第二に、チリにおける憲法改正否決の主な理由は何なのか。これらの問いに答えるために、本稿ではまず、チリ国民によって共有されているナラティブを概観する。そして憲法改正が失敗に終わった背景、すなわちコミュニケーション不足や国民の信頼の喪失、そして憲法改正案に対する失望について分析する。
ウクライナ避難民の現在と未来 日本におけるウクライナ人難民政策の再検討
要旨日本の難民制度という観点から、ウクライナから逃れてきた避難民への対応は十分なのだろうか。本稿では、2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降における日本政府のウクライナ難民受け入れ政策に関する現況と今後の課題をレビューする。そこでは移民・難民に対する日本の同化主義的なアプローチの文脈から、問題の原因を明らかにする。著者は、このアプローチが難民と日本人の双方にもたらす潜在的な悪影響を強調する一方で、移民に対する日本国民の意識に基づき、楽観的な道筋を示唆している。
ミャンマーにおける市民社会の長い道のり
要旨ミャンマーの市民社会は2021年2月1日に起きた軍事クーデターによって成立した軍事政権に抵抗を続けている。植民地時代後期に起源を持つ市民社会は民主主義社会への移行に重要な役割を果たしてきた。過去数年間における活躍は十分なものだとは言い切れないものの、人々の立場に立ち続け、クーデター後も国内外の情報アクセス、暴力の防止、人道支援などの領域で積極的な活動を行っている。本稿では、市民社会がミャンマーの国家の発展と民主主義の価値の擁護において決定的な役割を果たしていると論じる。
ミャンマーの危機における人道支援活動
要旨本稿では、2021年2月以降、ミャンマー軍事政権による人道支援の阻止に対し、ASEAN加盟国や関係者がどのように資金調達を試みてきたかを分析する。日本の外交政策は、軍事政権と協力するかどうかという倫理的ジレンマを抱え、日本人だけでなく多数の在日ミャンマー人が、日本の政府開発援助を批判している。本稿では、国際人道支援組織の役割に着目する。国際人道支援組織は重要なステークホルダーの役割を担っており、人道支援を必要としている人々に届けるために、現地で財政支援を行っている。また、本稿では、民主的なチャンネルの利用など、ASEAN や国際機関による人道支援政策を提案する。
「情報戦」の時代に注目されるファクトチェックの可能性
要旨インターネット・SNS上で拡散する偽情報・疑情報への対策を巡り、世界中でファクトチェックが行われている。日本でもコロナ禍で偽情報・誤情報が拡散し、ファクトチェックの力量が試されている。2010年代以降、韓国ではいわゆる「レガシーメディア」を含め、多くのユーザーが閲覧するオンラインニュースなどにファクトチェックのコーナーが設けられるなど、様々な主張が自由な言論空間で検証されている。「情報戦」の脅威が語られている時代、日本メディアもファクトチェック報道の全面的な導入を前向きに検討すべきであろう。
日本への影響を試みる中国の巧妙さ
要旨中国では、中国共産党によって今まで多くの情報が統制され、国の影響力を拡大するために様々なメディアコンテンツに対する工作がなされてきた。しかし、近年は影響工作の勢いが行き過ぎてしまい、かえって党に対する信頼を損なわせている。この現状を変えるために、共産党は独立したメディア機関を自身の情報ネットワークに取り込み、党にとって不利益となる情報の一部を認めつつ、巧妙な情報操作によって損なわれた信頼を取り戻す動きを活発化させている。著者は、この動きが日本に及ぼす影響と危険性を示し、日本政府は速やかに対抗措置を取らなければならないと主張する。具体的な措置として、影響工作の客観的な分析と人々が触れる情報の裏にある権威主義国家の狙いを見抜くためのプラットフォームを提供する必要性を指摘している。
経済的平穏と貿易協定
要旨2021年10月、インド太平洋地域の豊かで安全かつ開かれ連携した発展を実現するために、そして、クリーンエネルギーなどの21世紀の課題に向けて行動を調整するために、インド太平洋経済枠組み(Indo-Pacific Economic Framework: IPEF)が米国によって提唱された。しかし、期待できる利益が莫大である一方、途上国に対する効果的な経済的成果の欠如がこのフレームワークに懸念を投げかけている。本稿では、世界経済が低迷している中でのIPEFの発足と期待される成果、そして世界経済の低迷が各国の貿易や経済協力に与える影響について、国際政治経済学の理論と実証に基づいて検討する。それにあたって、国際交渉という形での貿易自由化の要求とその実現(国内批准過程)を区別し、その結果として貿易自由化の要求が強まっても自由化が必ずしも自動的に進むわけではないことを示す。
コミットしないセンテニアル世代は民主主義を脅かすのか?
要旨今日の世界は、ウクライナ侵攻、新型コロナウイルス感染症の蔓延、人権侵害、偽情報、そして民主主義に対する不信感の高まりなどに直面している。そのため、自由主義社会の将来に対する不安が拡大している。将来の行方は若者に託されているが、彼らの意識に関する研究は限定的である。本稿では、複数のデータベースをもとに、自由が保障された国家における若者の民主主義に対する意識を比較分析する。分析の結果、18~28歳のセンテニアル世代の間に、政治的無関心、反社会的行動、あるいは権威主義への支持といった懸念すべき傾向が見られた。また、この年齢層の間でテクノクラシーに関する意識が分かれている点も興味深い。テクノクラシーへの支持は、民主的な制度や民主主義それ自体への信頼を高めるために有用である一方で、それを放置すれば権威主義への支持にも繋がりかねない。