民主主義・人権プログラム
新型コロナウイルスワクチンを巡る偽情報への対抗ナラティブに関する一考察
出版日2023年9月5日
書誌名Issue Briefing No. 34
著者名大井創世, 上川伶, 前田知哉
要旨 ワクチン躊躇/接種控え(vaccine hesitancy)が広まる原因の一つにはインターネット上での誤情報の拡散があり、いわゆる「自然派」の人々の間でSNS上での根拠のない情報のやりとりが行われていることが問題になっている。こうした懸念をいかに解消しうるかを検討するため、本稿は、偽情報を発信する主体がターゲットとしているペルソナを分析する。そしてそれに対する有効な対抗ナラティブの発信手法を検討したうえで、手法の懸念点や社会実装する上での留意点に言及する。
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新型コロナウイルスワクチンを巡る偽情報への対抗ナラティブに関する一考察

大井創世
(北海道大学公共政策大学院 専門職学位課程)
上川伶
(放送大学教養学部選科履修)
前田知哉
(東京大学法学政治学研究科 修士課程)

2023年9月5日

第1節 はじめに

「ワクチン接種のサービスが利用できるにもかかわらず、接種を受容するのが遅れたり、接種を拒否したりすること」をワクチン躊躇/接種控え(vaccine hesitancy)という[1]。2019年には世界保健機関(World Health Organization: WHO)が接種控えを「グローバルヘルスに対する10の脅威」の一つに挙げ、世界的な問題として取り上げた。接種控えが広まる原因の一つにはインターネット上での誤った情報の拡散があるとされる。日本における新型コロナウイルスワクチンに関する調査報告は、SNSやネットニュースを介した偽・誤情報への接触がワクチンの接種行動に影響を与えている可能性を示唆している[2]

2021年に行われたインターネット調査によると、日本における新型コロナウイルスワクチンの接種非希望者は全体で11.3%であり、年齢・性別で層別化すると15~39歳の女性が15.6%と最も高い[3]。若年女性にワクチン躊躇者が多い背景としては、ヒトパピローマウイルス(Human Papilloma Virus: HPV)ワクチンの副作用に関する情報がメディア報道やSNS上で大量に流されたことにより、ワクチンに対する不信感が高まったことが指摘されている[4]。また、新型コロナウイルスワクチンをめぐる流言・デマに関するインターネット調査では、全体に比べ女性のほうが高い割合で「接種をやめようと思ったことがある」もしくは「しばらく様子を見ようと思ったことがある」と回答しており、ワクチンをめぐる流言やデマが接種の意思決定に際して接種控えを誘発していることが報告されている[5]。加えて、いわゆる「自然派」の親はワクチン接種を控える傾向にある。今日に至るまで、子どもと接する時間が長い親は現在の日本では母親である傾向があり、なかでも「自然派」の母親は、育児において添加物の子どもへの悪影響を心配し、無添加・無農薬の食品や製品へのこだわりがある。このようなこだわりから、子どもが病気を患ったときにも病院に行って人工的に作られた医薬品の処方を受けることを避けることがある。このような「自然派」の母親どうしで、SNS上での根拠のない情報のやりとりが行われていることが問題になっている[6]。また、そのような「自然派」でワクチン接種を躊躇している母親層の支持を集めようとする新興の国政政党が一定の支持を集めている。

以上のような状況から、「自然派」の母親層のうち新型コロナウイルスワクチンの接種に消極的な人々が、様々な媒体を通じてワクチンに関する偽情報に触れ、ワクチン接種を避けるようになる恐れがある。この場合、母親は自らワクチンの接種を避けるだけでなく、子どもに対してもワクチンを打たせないようにすることが考えられる。こうした懸念を対抗ナラティブの発信を通じていかに解消しうるのか検討する[7]

有効な対抗ナラティブを形成する手法は、一橋大学グローバル・ガバナンス研究センターにおける集中セミナーで学んだプロセスに基づいて検討する。まず、第2節では偽情報を発信する主体がターゲットとしているペルソナを設定する。第3節では、そのようなペルソナを設定した根拠を示す。第4節から第6節では、第2節で設定したペルソナに対し、偽情報の発信主体がいかなる情報を発信しているのかを確認した上で、それに対する対抗ナラティブとして有効と考えられる手法を具体的に検討する。第7節では、本論で検討した手法の懸念点や社会実装する上での留意点に言及しながら、全体をまとめ、今後の展望を述べる。

第2節 ペルソナ設定

偽情報に対抗するためには、情報を発信する主体がターゲットとしているオーディエンスのペルソナを特定することが必要になる。ペルソナを特定しなければ、偽情報に対抗する主体が、誰に対してどのようなカウンターナラティブを発信するのか、有効な策を講じることができないためである。

ここでのペルソナは、偽情報を発信する主体が当該情報を届けようとしている対象としての具体的な個人を意味する。そのような個人の特定のために、年齢、居住地、職業、学歴などの属性はもちろん、普段接している情報の媒体や内容、価値観、目的や動機、ニーズ、感情などの諸要素を考慮する。このとき、ペルソナは一定の傾向こそあれ、必ずしも思想信条において固い信念を有する者ではないことに留意しなければならない。これは、有効な対抗ナラティブの形成を検討する際、固い信念を有する者に対抗ナラティブを発信しても思考の変化に影響を与えるのが困難だからである。

ワクチン躊躇者のなかで想定されるペルソナを、以下のように仮定する。「綾里湧海」(仮名)は、30歳の主婦で、子育てをしている。いわゆる「自然派」の母親であり、育児における添加物の子どもへの悪影響を心配し、無添加・無農薬の食品や製品へのこだわりがある。そのため、子どもが病気を患ったときも病院に行って人工的に作られた医薬品の処方を受けることを避け、自然治癒に任せる傾向にある[8]。このような傾向から接種控えへと発展していく。子どもへの愛情がないわけではなく、むしろこれは心配から生じた行動といえる。テレビやSNSを通じてニュースなどに接していて、ママ友同士での交流が多い。特定の強い思想信条を有しているわけではない[9]。なお、このペルソナは、育児に携わるのは女性であるというステレオタイプに基づいて設定したものではなく、あくまで「自然派」とされる母親が偽情報にさらされやすい環境にあるという理由から設定したものである[10]

第3節 ペルソナ設定の根拠

以上のようなペルソナ設定の根拠は、以下の通りである。

まず、子育てをしている母親と設定した根拠を述べる。ある調査によると、日本国民のうちワクチンを控える人の割合は全体で11.3%であるところ、若年(15~39歳)女性でワクチンを控える人の割合は15.6%であり、全体の割合や、高齢男性の当該割合が4.8%であることなどに比べるとその割合が高いことについては既述の通りである。現在における日本の社会構造に鑑み、若年女性は未就学児の育児を行っていることが多いと想定され、未就学児の育児を行う女性が593万人いると推計されている(2012年)ことを前提に、日本でワクチン接種を控えている育児中の女性は約89万人存在すると推計できる[11]。以上から日本ではワクチン接種を控えている育児中の若年女性が少なくないことがわかる[12]

次に、「自然派」で、特定の固い思想信条を有しているわけではない母親をペルソナとして設定した根拠を論じる。このような母親は政治家や政党の発信に影響を受けている。以下に示す具体的な事例は、ペルソナが、ワクチンに関する偽情報ないし誤情報を発信している政治家や政党のオーディエンスに該当することを示している。鳩山由紀夫元総理は、2022年9月14日、自身のX(旧Twitter)アカウントで、「アンチエイジングの権威」である白澤卓二氏が「WHOがワクチンで重症になる確率はコロナで入院する確率の3倍とWHOが認めたのは事実」と言ったと、画像を添付して主張した[13]。ワクチンで重症になる確率は新型コロナウイルス感染症で入院する確率の3倍であることは事実に反する上、このようなことをWHOは発表していない。この虚偽の投稿に対し、2023年5月20日現在、556件のリポスト(旧リツイート)および1,415件のいいねがついている。これらのリアクションを行ったアカウントのうち、主婦であることや子育て中であることをプロフィール欄に記載しているアカウントが多く見受けられる。また、参政党は新型コロナウイルスワクチンの危険性(特に未成年者への摂取の危険性)を訴えるとともに[14]、化学物質を使用しない安全な食と医療の実現を訴える[15]。大手新聞社の世論調査によると、2022年の参議院選挙の争点として子育て・教育政策を特に重視したとの回答をした人は、各政党のうち参政党に投票した人の割合が最も多い[16]。子育て・教育以上に他の政策課題に関心を持っているわけではない母親が政治家から影響を受けていることがわかる[17]

最後に、「自然派」の母親の性格や、属するコミュニティの性質について、取材記事の記述を要約する[18]。一般に、母親は、妊娠出産において精神的に不安を抱える状況が多くなり、日本ではとりわけシングルマザーが社会的に孤立しやすい傾向にある[19]。母体が子どもの健康に与える影響を心配し、農薬や添加物が子どもの健康に影響を与えるといった情報(しばしば誤情報ないし偽情報である)に接すると、ますます不安になる。ここからいわゆる「自然派」になることがある[20]。そこで情報収集に努めようとし、LINEやInstagram、その他のSNS上でのオンラインコミュニティや、母親どうしのコミュニティに参加する。そこに、医療デマを発信するネットワークビジネス団体が関わっていることも考えられる。

第4節 偽情報拡散者によるナラティブ

以上のように設定したペルソナに対し、いかなる対抗ナラティブを発信すれば新型コロナウイルスワクチンに関する偽情報に有効に対抗することができるか、具体的な方策を検討する。本節では前提として、新型コロナウイルス感染症に関する偽情報ないし偽情報を伴うナラティブがどのような内容、態様で発信されているのかを特定する。その上で第5節以降では有効な対抗ナラティブの具体的な手法を考える。

偽情報拡散者は、第3節で挙げた内容の情報を拡散している。政治家や政党によるSNS上での誤情報ないし偽情報の拡散、クローズドな対面あるいはオンライン上の「自然派」ママ友コミュニティ(ネットワークビジネス団体が営利目的で開いたコミュニティも含む)での誤情報ないし偽情報の拡散である。

これにより第2節で設定したペルソナに対し形成しようとしているナラティブは、新型コロナウイルスワクチン接種による母体や子どもの身体への悪影響を訴えかけることで当該ペルソナが抱える不安を増幅させ、過剰なオーガニック志向、さらには接種控えを助長するものである。

第5節 対抗ナラティブ拡散プラットフォームとしてのSNS

第4節への対抗ナラティブを使用する媒体として、一つにはX(旧Twitter)やInstagram、TikTokを使用することが想定される[21]。ペルソナはクローズドなコミュニティに参加していることが多いが、当該コミュニティ内でどのような情報交換が行われているのか明らかでなく、対抗ナラティブを発信するのは困難である。

一般に、対抗ナラティブにはシンプルであること、意外性があること、具体性があること、信頼できること、感情に訴えかけるものであること、物語性があることといった要素が求められる。今回検討する対抗ナラティブにおけるポイントは四つある。第一にデマであることをはっきりと伝え、第二にワクチン接種により重症化を防げると示す。第三に図表を用いてデータをわかりやすく示し、第四にワクチン接種の目的は「子どもを守るため」と感情に訴える。以上により、偽情報の拡散者がナラティブをもって煽ろうとしている、新型コロナウイルスワクチン接種による母体や子供の身体への悪影響に対する不安を和らげることができよう。

さらに、ワクチン接種を促すようなナラティブも検討した。これもX(旧Twitter)を利用したものである。ポイントは三つあり、第一に信頼できる人物の意見を伝えること、第二に他の信頼できる機関の意見を伝えること、第三に医師や赤ちゃんの写真を添付することで視覚にも訴えることである。また、より効果的な発信にするため「自然派」のHPがどのようなデザインや色を使っているかも分析することも有効である。

では、ペルソナが信頼できる人物とはいかなる人物か。WOMマーケティング協議会(Word of Mouth Japan Marketing Association)による若年層女性への調査によると、SNS利用者の利用頻度が高い人は、広告よりもインフルエンサーによる紹介を信頼する傾向にあるという(図1)。したがって、SNS上でワクチンに関する偽情報を信じているペルソナには、テレビCMなどの広告よりもインフルエンサーによる発信が効果的であり、またテレビやインターネットによく出演している教育評論家が発信するのが望ましいといえる。さらに、総務省の調査によれば、オンラインで出会った人は実際に会うことで信頼感が増すという[22]。そのため、SNSのフォロワーが多く、全国各地で講演を行っている人物ならば、より効果的といえよう[23]。年齢の高い、優しそうで子育て層からの信頼が厚い人物が想定されるが、効果的な発信者の詳細な人物像に関してはまだ研究が進んでいないため今後の課題である。加えて、インフルエンサーが具体的にどのような形で発信するのが効果的かについても検討しなければならない[24]

図1. SNS利用頻度別イメージ比較

出典:MarkeZine編集部「若い女性は広告より“インフルエンサー”を信頼/YouTuber活用の施策、浸透度は?【WOMJ調査】」MarkeZine(2018年11月8日)<https://markezine.jp/article/detail/29684>(2023年7月29日参照)。

第6節 ブログを使った対抗ナラティブの発信

対抗ナラティブではSNSを用いているため、情報量に限界がある。より効果的に偽情報に対抗していくために、接種控えをしていた人に実際の体験談をブログなどで書いてもらうことで、同じペルソナとしてより意見を受け入れやすくなると考える[25]。第5節で検討したようなインフルエンサーのなかで、当初はワクチン接種に懐疑的であったが後に考えを改めるに至ったという人がいれば、インフルエンサーが執筆したブログ、もしくは注18のように、ワクチンを躊躇していた人々を取材した記事やストーリーを描いた記事を執筆することも有効であろう。

第2節で検討したように、「自然派」の母親はワクチンを躊躇する傾向にある。そして第4節では偽情報の発信主体のナラティブのなかには、「自然派」の母親に対しワクチンの母子への悪影響を煽るものが存在することを指摘した。これに対する対抗ナラティブとして、オーガニック食品やオーガニックなオムツなどを提供している企業の通販ブログサイト(および公式SNSアカウント)での発信で、「自然派」のインフルエンサーが母子でワクチンを接種しにいく様子やワクチン接種の経験談をブログや動画で紹介することが考えられる。ペルソナが自身に親しみのあるインフルエンサーのワクチンを接種している様子を見ることで、ワクチン接種による母子の健康への不安が和らぐと考えられる[26]。「自然派」の母親が普段よく見るウェブページで、自社製品を愛用している顧客がワクチンを接種しており、かつ健康であれば、その企業はワクチン接種を推進することで継続的な売り上げを見込めるだろう[27]。オーガニック食品を提供している企業や団体の周りでワクチンに関する偽情報が拡散しているため、ワクチン接種に懐疑的な人(団体内部の者はもちろん、消費者なども含む)が多く、内発的にこのような取り組みを行うことを期待できない場合も想定することができる。そのような場合、政府や自治体がこのような企業や団体に対し広報を行うなどの対応がありうる[28]

おわりに

ここまで、新型コロナウイルスワクチンに関する偽情報にいかに対抗するか、ペルソナとして特に「自然派」の子育て中の母親を念頭におき、具体的な対抗ナラティブ形成の手法を検討した。第5節および第6節で検討した手法は、実証的な裏付けがあるわけではなく、偽情報対策に対抗するナラティブの形成方法に関する一般的な説明に基づき想定しうるものである。今後、本論で検討したような手法が個人、企業、政府において実践されることを期待する。もちろん、国内外において政府によるインフルエンサーの活用など一部実践されていた例はあるため、そのような事例を収集して効果を検証することは有益だといえる。しかし、これまで社会的に孤立している子育て中の(「自然派」の)母親にいかに手を差し伸べ、不安を和らげるかという視点からのナラティブ形成は十分に行われてこなかった。第一には家庭内での対話が求められるが、それを超えて企業や政府が適切な情報発信ないしナラティブ形成を行うことも求められる。ここで問題となっている感情は母子の健康への不安であり、それに対しては、不安を煽るような高圧的なナラティブではなく、不安を和らげる温和なナラティブの形成が必要である。これは、一定の社会的地位にある個人や団体がナラティブを形成する際に留意すべき点である。

 


[1]MacDonald NE; SAGE Working Group on Vaccine Hesitancy. Vaccine hesitancy: Definition, scope and determinants. Vaccine. 2015 Aug 14; 33(34): 4163.

[2]国際大学グローバル・コミュニケーション・センター「Innovation Nippon 報告書「わが国における偽・誤情報の実態の把握と社会的対処の検討 ―政治・ コロナワクチン等の偽・誤情報の実証分析―」」(2022年4月)<http://www.innovation-nippon.jp/reports/2021IN_report_full.pdf>(2023年7月29日参照)

[3]国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター「新型コロナウイルスワクチン忌避者は1割。忌避者の年齢・性別差、 理由と関連する要因を明らかに:日本初全国大規模インターネット調査より」(2021年6月25日)<https://www.ncnp.go.jp/topics/2021/20210625p.html>(2023年5月19日参照)

[4]Hosoda M. Vaccine Hesitancy in Japan: From a Perspective on Medical Uncertainty and Trans-Scientific Theory. F1000Res. 2023 Jan 11; 11: 1103.

[5]福長秀彦「新型コロナウイルスワクチンと流言・デマの拡散」『放送研究と調査』第72巻第1号、2022年、2-23頁。

[6]水野梓「偏った情報あふれ…発信始めた」朝日新聞(2019年3月29日)<https://www.asahi.com/sp/articles/SDI201903281552.html>(2023年5月19日参照)、國枝すみれ「新型コロナ 「反ワクチン派」は何を考えているのか」毎日新聞(2021年7月8日)<https://mainichi.jp/articles/20210707/k00/00m/040/134000c>(2023年5月19日参照)

[7]HPVワクチンに関する誤情報ないし偽情報の拡散が、新型コロナワクチンの接種控えに与えた影響については本論では検討できていない。

[8]母親自身がワクチン接種を躊躇するのか、子どもへのワクチン接種を躊躇するのか、両者が重なることが多いのか、本論では明らかになっていない。

[9]ここで、職業に関するペルソナ設定を主婦としているが、果たしてこのような設定が実情に即しているか、適切か、本来は慎重に考えるべきである。また、学歴や居住地について本論では検討していない。

[10]ワクチン躊躇の主な測定尺度やその構成要因は、町田征己・井上茂「Vaccine hesitancy(ワクチン躊躇)の現状,関連要因,評価,対策」(2023)に詳しい。

[11]国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター、同上、株式会社NTTデータ経営研究所「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査報告書」(2016年3月)<https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/pdf/ikuji_printing_01.pdf>(2023年6月3日参照)

[12]厳密に考えると、ワクチン躊躇者のなかには1回目の接種からすでにワクチンに対して躊躇する人がいると想定しうる。この調査では、上記のインターネット調査ではワクチン躊躇者のうち70%以上が「副反応が心配だから」と回答していることから、2回目以降の接種をためらうものであったといえる。ただし、本論では両者については区別せず、広くワクチンを接種することに対してためらいを覚える人をワクチン躊躇者として扱うこととする。

[13]鳩山友紀夫(由紀夫)[hatoyamayukio](2022年9月14日)「勉強会で白澤卓二先生にあらためて訊きました。WHOがワクチンで重症になる確率はコロナで入院する確率の3倍とWHOが認めたのは事実ですかと。河野太郎大臣はデマと否定されましたがと。白澤先生は事実ですと答えられました。私はアンチエイジングの権威の白澤先生の言葉を信じます」[投稿(旧ツイート)]<https://twitter.com/hatoyamayukio/status/1570033189388943361>(2023月5月19日参照)

[14]参政党「新型コロナ・ワクチン政策【2022年10月改訂】」<https://www.sanseito.jp/news/5105/>(2023年7月29日参照)、参政党「質問主意書」<https://www.sanseito.jp/question/>(2023年7月29日参照)

[15]参政党「3つの重点政策」<https://www.sanseito.jp/prioritypolicy/>(2023年7月29日参照)

[16]読売新聞オンライン「参政党はなぜ議席を獲得できたのか…出口調査・選挙結果から見えてきた三つの要因」<https://www.yomiuri.co.jp/column/opinionpoll/20220810-OYT8T50005/2/>(2023年7月29日参照)

[17]選挙の争点として子育て・教育政策を特に重視することは、母親層が特に固まった思想信条を有しているわけではないことと論理的には直ちには結びつかないが、相対的に他の政治的課題を重視していないことを推認させる。

[18]山田ノジル「《コロナ禍で増加》SNSで話題になる“自然派ママ”とは何者なのか?「ワクチン接種はNG、自然なお産で宇宙と一体になる、キャベツで熱さまし…」 」文春オンライン(2021年12月23日)<https://bunshun.jp/articles/-/50946>(2023年5月19日参照)、大西まお「反ワクチン活動から足を洗った彼女が気づいた事 本当に欲しいのは「仲間」だったのかもしれない」東洋経済ONLINE(2021年12月19日)<https://toyokeizai.net/articles/-/474236>(2023年5月19日参照)

[19]このような根本的な問題への緩和策・解決策は、妊婦を近くで支えている夫などの親族が、孤立感や不安を和らげるべく寄り添うことである。しかし、偽情報対策として家庭に各対策を求めるのはコストがかかるため、この策については効果的な方法を含め別の機会に検討する。

[20]本論では「自然派」志向が接種控えに発展する場合を念頭においているが、ワクチンを躊躇している者が「自然派」志向にもなるケースもあると考えられる(注12)。両者のメカニズムについては具体的な解明が待たれる。

[21]SNSを使った実践研究としては、曽宮正晴・曽宮正晴・岡田玲緒奈・木下喬弘・安川康介「新型コロナワクチン啓発プロジェクト『こびナビ』のSNSを活用した科学・医療コミュニケーションの実践」科学コミュニケーション(Veb)31号、29-38頁(2022)がある。

[22]総務省「情報通信白書 平成30年版」(2018)

[23] YouTube、X(旧Twitter)、Instagramなどで情報を発信している教育評論家の親野智可等氏などは好例である。<https://www.oyaryoku.jp/lecture.html#kouen-jisseki>(2023年5月19日参照)

[24]アメリカ政府は、インフルエンサーにSNS上でワクチン接種を呼びかけるよう依頼している(Jack Kelly「1千ドル支給、「インフルエンサー軍団」動員も 米国のワクチン推進策」Forbes JAPAN(2021年8月11日)<https://forbesjapan.com/articles/detail/42771>(2023年6月3日参照))。

[25]ブログではないが、これに似た手法には実例がある(注18)。

[26]ワクチン接種とオーガニック志向が母子の健康の観点から両立できることを理解するきっかけになる点で意義がある。

[27]他方で、人工物を体内に摂取することの危険性を訴えて不安を煽ることで売り上げを伸ばそうとする態様での経済合理性の追求を行う企業もあるだろう。実態把握が求められる。

[28]より踏み込むのであれば、インターネットサイト上でワクチン接種を啓発する広告の表示を義務付けたり、広告を表示した場合には補助金や税制上の優遇を受けるような仕組みを設けたりすることが考えられる。特に前者の場合は、当該企業の消極的表現の自由の制約にあたるため慎重な検討が必要である。

プロフィール

大井創世

北海道大学公共政策大学院1年。中央大学総合政策学部卒業。公共政策による社会課題の解決に関心があり、民間の独立系シンクタンクや、衆議院議員事務所で政策の研究に携わった。デジタル社会における民主主義の維持・発展を考えるため、2023年春に実施されたGGR集中セミナーに参加。

上川伶

放送大学教養学部選科履修生。科学技術と政治の関係に広く関心がある。サイエンスジャーナリズムにおける偽・誤情報の問題について考えるため、2023年春に実施されたGGR集中セミナーに参加。

前田知哉

東京大学法学政治学研究科法曹養成専攻2年。東京大学法学部卒業。法律家になるために法学を学んでおり、公法に関わる分野に関心を持つ。個人・企業をはじめとする団体・政府などそれぞれの立場から取りうる偽情報対策、対策を講じるにつき生じる法的問題を検討するため、2023年春に実施されたGGR集中セミナーに参加。