出版物

民主主義・人権プログラム

現実の架け橋 ―VRの操作体験が、難民に対する認識にどう影響するか

著書名アンドリュー・キルパチ(Andrey Kirpach)
出版日2024年1月24日

要旨バーチャルリアリティ(VR)は、従来の媒体とは異なる有益な性質を持っているのだろうか?本研究では、共感誘発刺激として難民に関するドキュメンタリーを視聴した場合の効果を検証し、使用した媒体(VRとコンピュータースクリーン)に基づく効果の強さを比較する。本研究の一環として実施された実験では、VRが「イメージ他者」の視点を持つ課題に対してより効果的に共感を引き出すという証拠は得られなかった。一方で、パースペクティブ・テイキングのタイプ自体が重要な要因である可能性が示される。考察部では、実験結果を批判的文化研究(critical culture studies)の観点から国際関係の文脈におけるVR体験の批評と統合し、VR体験がどのように形成され、体験を生み出す権力構造によってどのように制限されるかを浮き彫りにする。

民主主義・人権プログラム

指数型分布族埋め込みで可視化するレコード・チャイナの言説

著書名呉 東文
出版日2023年12月25日

要旨本稿では、ベイズ機械学習の手法である指数型族埋め込みを利用して、レコード・チャイナ(Record China)から出版される記事の中にどのような言説が含まれているかを分析する。具体的には、指数型族埋め込みを利用してレコード・チャイナ記事の中の単語の意味を推定する。推定の結果、中国が自国の民主主義が優れているという主張と、アメリカこそが脅威になっているという言説が定量的に確認できた。今後データ量が拡張されれば、レコード・チャイナの言説の変化やレコード・チャイナの言説と日本の一般的なメディアの言説の違いなどの可視化も可能になるだろう。(論稿の内容はあくまでも個人の見解であり、著者が所属するディップ株式会社とは一切関係ない。)

民主主義・人権プログラム

「ボリックと彼の中国批判の蜃気楼」に関する論説 [in English]

著書名ハニグ ヌニェズ・サッシャ
出版日2023年10月24日

要旨2023年10月24日、エル・エスペクタドール紙に、法学研究科博士課程在籍のサッシャ・ハニグ・ヌニェズ氏による「ボリックと中国批判の蜃気楼」と題する論説が掲載されました。この記事は、チリ大統領の普遍的人権に関する立場と、彼が中国を訪問した1週間後にスピーチを急遽変更した事例、これらの批判に報復する国々に対抗する際に中小国が負うリスクに関する内容です。ヌニェズ氏は、今日の小国には明確な立場を取る余地があり、人道的紛争においてもそうする権利を持つものの、強力な国際社会なしには不可能であると論じています。また、発展途上国は、自国の経済的潜在力、自由、国際関係に影響を及ぼす可能性のある立場を取ることに慎重な場合が多く、このことは、チリや他の国々がニカラグアやベネズエラの人権問題を批判する明確な立場をとりながら、中国の人権問題を批判しないことの説明にもなるとコメントしました。この記事は8カ国で、『ラ・ナシオン』や『エル・ピタソ』など10のメディアに掲載されています。

民主主義・人権プログラム

構造トピックモデルを用いたレコード・チャイナの分析

著書名呉 東文
出版日2023年12月13日

要旨本稿では、レコード・チャイナ(Record China)のテキストデータを使用して、運営者がどのような言説を広めようとしているのかを分析する。分析を通じて、レコード・チャイナというサイト名を持っているものの、日韓関係の負の側面に関連する記事が多いことが判明した。具体的には、慰安婦問題や旭日旗をめぐる韓国の日本に対する批判や、韓国側の行動に関連する記事が見られる。また、中国関連の報道に関しては、中国が国際協調で影響力を発揮していることや、中国の経済力と技術力の高さを強調する内容が目立つ。これはいずれも中国がアメリカと対等な関係にあるか、もしくはアメリカを越えていることを見せようとしている意図が背後にあると思われる。これはいずれも一橋大学の市原麻衣子教授の過去の別手法・別データを使った研究でも実証されたことであるため、信憑性は高いといえよう。ただし、ここで強調しておきたいのは、本記事は二年間かつ単独のメディアのみを使った分析であるため、エビデンスの強さに限界がある。例えば、分析で判明した傾向は果たしてレコード・チャイナにしか見られない傾向なのか、それとも他の日本語のメディアにも見られるような言説なのかがわからない。これは、今後データを追加することでよりはっきり識別できる。

民主主義・人権プログラム

2023年マレーシア州議会選挙 —「統一政府」の展望—

著書名ムハマド・タキユディン・イスマイル
出版日2023年11月27日

要旨2022年11月に行われた前回のマレーシア総選挙(GE15)以降、マレーシアの政治情勢は大きく変化し、特にパカタン・ハラパン=バリサン・ナショナル(PH-BN)連立政権といった新たな政治連合の形成が注目された。しかしながら、「統一政府」と呼ばれ、アンワル・イブラヒム(Anwar Ibrahim)率いるPH-BNは、マレー系有権者から確実な支持を得ることはできなかった。2023年8月に行われたマレーシア州議会選挙の結果は、PH-BNがペリカタン・ナショナル(Perikatan Nasional:PN)に精神的敗北(moral defeat)を喫したことで、このシナリオをさらに裏付けるものとなった。マレー系有権者をなだめるためにマレーシア政府がより保守的になるかどうかは、現時点では不明である。

民主主義・人権プログラム

ミャンマー紛争地への人道支援 ―現地の状況

著書名今村真央
出版日2023年11月28日

要旨ミャンマーでは、人道支援活動の内容と効果の検証が求められている一方で、検証する方法が欠如しているという状況が長らく続いた。ヒューマニタリアン・アウトカムズ(Humanitarian Outcomes: HO)の調査は遠隔アンケートを用いて、ミャンマーで実施されている多様な人道支援活動の効果について有用な示唆に富んでいる。国際機関が展開する公式の援助プログラムが厳しい制限を受けていること、一方でインフォーマルな支援活動がミャンマーの広い範囲において既に浸透していることをHOの調査結果は示している。

民主主義・人権プログラム

アメリカにおけるESG投資の拡大と論争 ―グローバル・ガバナンスへの示唆

著書名御代田 有希
出版日2023年11月3日

要旨2015年に持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)が採択されて以来、環境(Environment)、社会(Social)、コーポレート・ガバナンス(Corporate Governance)から構成されるESG投資が注目を集めている。ESG投資には、持続可能な社会を実現しようとする社会的な使命を持つ人々、リスクに敏感な投資家、学界などのさまざまなステークホルダーから関心が寄せられている。しかしアメリカではESGに反対する動きが拡大しており、共和党議員はESG関連の財務リスク管理を妨げ、ESG投資の成長を阻害しようとしている。本稿は、アメリカにおけるESG投資を巡る対立の背景と理由を探り、グローバル・ガバナンスに対する示唆を検討する。

民主主義・人権プログラム

EU法上のロシア人兵役拒否者の扱い

著書名佐藤以久子
出版日2023年10月24日

要旨欧州連合(European Union: EU)は、2022年9月のロシアの部分動員令によるロシア人の EUへの流入が急増したことから、安全保障上のリスクを理由に新たに渡航査証を要求するなどシェンゲン協定国への入国を制限した。EUはノン・ルフールマン原則を遵守しロシア人兵役拒否者を受入れているのであろうか?庇護申請については、短期査証発給の査証規定上申請の機会はある。また、EU 共通基準を示した国際的保護の資格指令と EU 司法裁判所の解釈上、条約難民としての受入は可能である。しかし、EU の庇護審査基準が未だ示されておらず、庇護審査の根拠となる事実関係が流動的でありまたその確認が課題であることから、各国の庇護審査は進まず実態は不明である。とはいえ、現状では、ノン・ルフールマン原則を遵守し、ロシアの兵役拒否者はEU法上送還できない。

民主主義・人権プログラム

日本での香港特別行政区パスポートの更新・住民登録における香港人の「国籍」問題

著書名パトリック・プーン
出版日2023年10月20日

要旨日本に住む香港人は、住民登録やパスポートの更新の際に独自の問題に直面する。公式文書の国籍欄には「香港」ではなく「中国」と表記されるなど、香港人の国籍をめぐる混乱は、在日香港人にとって現実的な困難と安全上の懸念を生み出している。本稿では、香港と中国の法律的・政治的な違い、香港特別行政区のパスポート保持者が享受している独自のビザの取り決めや免除、そして香港の国家安全維持法が在日香港人に与える影響に焦点を当てる。特別扱いを求めずとも、香港人の人権を考慮し、危険にさらされている香港人コミュニティに対してより良い支援、サポート、保護を提供することが重要である。

民主主義・人権プログラム

2023年スペイン総選挙 ― 極右含むポピュリズムの後退と世界の自由民主主義への教訓 ―

著書名加藤伸吾
出版日2023年10月19日

要旨本稿は、2023年7月23日に実施されたスペインの総選挙、特に下院の選挙結果及びその前後の状況についてのブリーフィングと、その結果が国内外に持つインプリケーションについての検討を行うものである。概況としては、どの政党も下院350議席の過半数176議席を取ることができず、連立政権を目指すにせよ単独与党で閣外協力を仰ぐにせよ、政党間の政権協議が不可欠となっている。今後のシナリオとしては、選挙前与党の左派連立が2期目に入る確率が少々高いと見られるが、政権協議不調による出直し総選挙の可能性も否定されない。選挙結果の一つの特徴としては、左右特に右派系のポピュリズム政党の後退が挙げられる。リーマン・ショック後のスペイン政治は、他の西欧あるいは先進諸国と、程度やイシューの差こそあれ、同様に両極化(polarization)の様相を示しており、それはポピュリズム政党の伸長と並行していたが、今回総選挙ではその「対立疲れ」が選挙民の間で見えたものかもしれない。これに加え、地方議会選挙での極右進出から間髪入れずに行われた前倒し総選挙のタイミングは、両極化と極右進出に各国の自由民主主義体制が向き合う上での実践例として参照されて良い事例となる可能性がある。