その他の研究成果
岸田首相の「理想」と「現実」 核なき世界をどう考えれば良いのか?
要旨2022年12月1日、刊行された朝日新聞の「安保の行方を考える」というインタービュー連載に一橋大学国際・公共政策大学院院長の秋山信将教授のインタービュー記事が掲載されました。教授は、核不拡散条約(NPT)再検討会議に出席した岸田首相の姿勢を評価しつつ、核軍縮を追求するためにはさらなる貢献が必要だと指摘しました。特にロシアによるウクライナへの核の恫喝は「核なき世界」を遠のけた中、日本はいかに核軍縮に向けて行動していくべきかを論じました。さらに、秋山教授は核なき世界という「理想」と安全保障環境の悪化という「現実」をどう結びつけるかについてご自身の見解を述べられました。そして、今後日本で開催される重要な国際会議において日本が達成するべき核問題の目標を提言しました。
EU送還指令 ―行政裁量から法の支配へ、個人の人権遵守となるか?
要旨2022年9月、中西優美子教授が責任編集の『EU法研究』の最新号が発行され、佐藤以久子GGR客員研究員が執筆したEU返還指令に関する論文が掲載された。本稿は、不法滞在の第三国国民の退去強制に関する法的曖昧さを送還指令が埋め、行政裁量から法の支配へ、人道的な退去強制への転換をもたらしたかという問題を考察したものである。本稿は、まずEU送還指令の背景と範囲を説明した上で、EU基本権憲章と欧州人権条約の法的根拠に基づいて、欧州連合司法裁判所と欧州人権裁判所の判例を参照しながら、送還指令の解釈と人道的送還手続について分析する。こうした判例法は、指令採択当初は不明確であった条項を明確化し、適切な行政措置に導く司法審査として機能している。また、退去前収容に関する手続上の義務を示すなど人道的送還に進展があった一方で、特にノン・ルフールマン原則については、人道的理由との関係も含め条文の曖昧さが課題であると指摘している。
〈多思彩々〉アジアの「反抑圧」官民連携で
要旨2022年10月30日に刊行された信濃毎日新聞の〈多思彩々〉コラムに一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授の記事が掲載されました。教授は、アジアで拡大している言論弾圧の動きに対して、各国の政府は民間の協力を得ながら反抑圧を押し進める必要があると説明しました。第二次世界大戦後、アジア各国の政府は内政不干渉原則のもとで他国との関係性を保ってきた一方で、現代は権威主義的な政府に反対する民間リーダーが数多く活躍しています。市原教授は、本年日本で開催されたサニーランド・イニシアティブを例に取り、言論弾圧に晒される人々をサポートするためには、このような官民の連携が欠かせないと指摘しています。
フィールドへのアクセスに制限がある中でのフィールド調査 ー日本からの教訓
要旨2022年8月11日、ケンブリッジ大学出版局が『PS:Political Science and Politics』の8月号を発行し、GGR研究員で、一橋大学大学院法学研究科に所属しているウ・ユジン准教授が共著した論文が掲載されました。当論文はウ准教授と、日本におけるフィールド調査の経験がある他16名の博士課程学生や教授が共に執筆したものです。この論文では、現地へのアクセスが限られている場合、学者はどのように現地調査を行うことができるのかという問題を探究しています。まず、現地へのアクセスが制限され、不確実であることが現地調査にどのような影響を及ぼすかを明らかにし、次に、これらの課題に対処するための提言を行っています。著者達は、自分達の実質的な専門性を活かして、日本での現地調査実施に焦点を当てていますが、この論文で概説されている問題と解決策は、幅広く様々な国々で適用可能であると指摘しています。この論文の主な目的は、非常時に行う調査に関する知見を発展させることと、フィールド調査の最適な取り組みに関するより大きな文脈に貢献することだと述べられています。
習近平後のチリ[スペイン語]
要旨2022年11月8日、GGRアシスタントのサッシャ・ハニグ・ヌニェズ氏の記事が、イギリスのフィナンシャル・タイムズと提携しているチリの新聞「Diario Financiero」に掲載されました。この記事の中でハニグ・ヌニェズ氏は、再度中国のトップに選ばれた習近平指導者の再選がもたらす意義を説明し、中国で権威主義と予測不可能性が強まることによって、経済的協力国のチリ経済が被害を受けると警鐘を鳴らしています。チリは貿易や資金調達の面で中国に経済的に依存しているため、中国で起こったことはチリにも大きな影響を与えるという前提で、チリ政府が中国の動向を注視する必要があると筆者は主張しています。
世界はもっと、良くできる、朝日地球会議2022
要旨2022年10月16日からオンライン配信が始まった「朝日地球会議2022」に一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授が参加し、コロナによるアジアの民主主義の変化と今後日本がとるべき行動について指摘しました。教授は、他の登壇者と共に議論しながら、コロナ禍において政府に権力が集中するようになったことや、複雑な社会情勢を乗り越えるためには、歴史を参照する必要があることを強調しました。最後に、新しい価値観が増える世の中において、日本は、民主主義推進のために米国などの同盟国に頼るばかりでなく、自ら積極的にこれを実施していく必要があると論じました。また、本記事では市原教授が参加した討論だけでなく、「朝日地球会議2022」の他の対話も含まれています。
最近の石垣島に於ける媽祖宮の建立計画について ― トポスの歴史と「ホリスティック・ツーリズム」の可能性
要旨2022年10月にホリスティックサイエンス学術協議会会報誌の最新号が発行され、GGR研究員で、一橋大学大学院法学研究科に所属している石塚英樹教授の論文が掲載されました。当論考は教授による現地調査を踏まえ、沖縄県石垣島で近年進んでいる媽祖宮の建立計画について記録し、数世紀にさかのぼってその歴史的背景を考察するものです。また、八重山の精神風土が開かれた海洋文化に支えられていること、また、その故に、ホリスティック・ツーリズムの可能性を秘めていることを論じています。
歴史の参照はムダか SNS情報過剰時代にデータベース化する過去
要旨2022年10月16日からオンライン配信が始まった「朝日地球会議2022」に一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授が参加しました。教授は、コロナ後の時代に関する仏独の2人の専門家へのインタービューをもとに、民主主義と今後の経路について他の参加者と共に討議しました。また、他の登壇者と共に議論しながら、ロシアによるウクライナ4州の併合を例にとって、選挙の正当性を使った自由を抑圧する動きが各地で起こっていると主張しました。さらに、混沌とした世の中を理解するためには、過去から学ぶことが重要だと指摘しました。最後に、新しい価値観が増える世の中において、日本は、民主主義推進のために米国などの同盟国に頼るばかりでなく、自ら積極的にこれを実施していく必要があると論じました。
安倍晋三の葬儀で日本が分裂[スペイン語]
要旨2022年9月27日にスペインの新聞EL PAÍSに安倍晋三元首相の国葬についての記事が掲載され、GGR研究員、かつ一橋大学法学研究科/国際・公共政策大学院教授である竹村仁美教授のコメントが紹介されました。記事では、安倍政権の主要な出来事や成果が紹介されており、それらと葬儀に対して多くの人々が抗議する理由の関連性についても言及されています。そして、最も長く在職した首相の国葬が迅速に行われた一方で、一部の法律家は国葬の正当性に疑問を呈したことが紹介され、国葬実施に対する反対の声も取り上げられています。さらにこの記事は、安倍首相を殺害した山上徹也容疑者の生い立ち、統一教会との関係性、そして彼が受ける可能性のある刑罰について考察しています。その中で竹村教授は、精神鑑定の結果によって山上容疑者が受ける可能性のある刑罰が異なる点を論じています。
日本のジレンマ 核廃絶を主張しながら核抑止力に依存
要旨ロシアによる核兵器使用の現実味が増している中、秋山信将教授が核使用を法的観点から説明し、核軍縮や核廃絶に向けて日本が取るべき行動について解説しました。教授は、ウクライナ戦争におけるロシアの核をめぐる言動に関して、核を使用すること自体は法的に禁じられていないとしつつも、この一連の行動は核抑止論、核廃絶論の両方を強化したと指摘しました。また、来年の5月にG7サミットを主催する日本が、核に依存しない世界を構築するために、核兵器について考える場を提供することが大事だと主張しました。日本は、核禁止条約への加盟を最終目標とするべきだとしつつ、北東アジアを核のない地域にするためには慎重かつ地道に取り組む必要があるとしました。最後に、8月下旬に行われたNPT再検討会議における各国の動向を踏まえ、改めて核保有国と核廃絶国が集まって議論する国際会議の意義を示しました。