その他の研究成果

民主主義・人権プログラム

ミャンマー国軍が囚人を解放した意図は ーASEANに求められる姿勢

著書名市原麻衣子
出版日2022年11月24日

要旨2022年11月24日、朝日新聞に一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授の記事が掲載されました。ミャンマー国軍が長い間拘束していた日本人の映画作家久保田徹さんが、11月17日に国軍の「恩赦」対象者5800名のうちの一人として釈放されました。市原教授は、この「恩赦」釈放の裏にはASEANがミャンマー軍事政権指導者を「ミャンマー政府トップ」として認識し、ASEAN会議に招く道を開こうとしている国軍の意図があると指摘しました。また、メディアの関心から外れつつあるミャンマーの問題に注目を集め、ASEANを中心としてアジア外交を展開するためには、地域の国が一体となってミャンマー軍事政権を包囲する必要があると強調しました。最後に、民間アクターと協力しながら、ミャンマー難民の受け入れを加速することによってASEANの中心性を主張できるとしました。

グローバルリスク・危機管理プログラム

リアリズムの誘惑、リベラリズムの憂鬱 問われる核の役割

著書名秋山信将
出版日2022年11月18日

要旨2022年11月18日に世界のあらゆる問題を取り上げる雑誌『アステイオン』がウクライナ戦争の特集号を出版し、秋山教授の論文が掲載されました。ロシアのウクライナ侵攻によって核兵器の使用及びその役割について多くの議論が展開されてきました。教授はまず、戦時に核保有がもたらす影響を考えるための枠組みを解説し、これを踏まえてロシアのウクライナ侵攻における核戦力の運用を検討しました。ロシアは核の存在を強く意識させるシグナルを何度も送り続けたと指摘し、このシグナリングが米欧の行動をある程度抑止してきたと主張しました。しかし、同時にロシアが作り出した「安定・不安定のパラドクス」は自国の行動を抑止するきっかけにもなっていると説明しました。次に、教授はウクライナ戦争が核軍備管理体制に及ぼしてきた影響と、米ロ双方の動きが国際秩序にもたらす長期的な影響を概説しました。その一つとして、リベラルな国際秩序の中でリアリズム的勢力均衡型秩序を温存してきたということが挙げられます。さらに、核に関する「正義」の議論がいかに相対的かということをTPNWにおける各国の姿勢を踏まえて指摘し、核が「ダブル・スタンダード」で見られていると強調しました。最後に、米ロの対立に加え、米中間でも緊張が高まっていることを考慮し、核がもたらす影響がエスカレートする中で米ロ中の競争と対立を守るためのルールが提供されるべきだと論じました。

法人は、取締役になることができないのか?(1)

著書名酒井太郎
出版日2022年7月

要旨一橋大学法学研究科の学術誌『一橋法学』の21巻2号が出版され、一橋大学大学院法学研究科教授でGGR研究員の酒井太郎教授の論文が掲載されました。日本の会社法では、法人が取締役になることは認められていません(第331条第1項第1号)。本稿では、この規定が理論的に正当化できるのかどうかを検討しています。また、法人が取締役になることに政策的な正当性、技術的な意義があるのかについても検討しています。この問題は古くから議論されてきましたが、2005年の会社法制定に伴い、議論のベースとなる規制の主要な構造が大きく変化しています。本稿では、この会社規則の変更が、これまでの議論で説明されてきた合理性に影響を与えるかどうかという観点から、株式会社の取締役適格性について議論します。

民主主義・人権プログラム

自由主義をめぐる分断と日本の役割

著書名市原麻衣子
出版日2022年11月8日

要旨2022年11月8日に岩波書店の雑誌『世界』の12月号が出版され、一橋大学大学院法学研究科の市原麻衣子教授の論文が掲載されました。教授はまず、ミャンマーやアフガニスタンの例を用いながら、世界中で人々の人権を抑圧する動きが増えていると指摘しました。その一つの要因にSNSがあるとし、その利用が拡大したことによって人々の間の分断や対立が強まっていると論じました。日本でもこのような分断の強まりが懸念される中で、中国政府の言論戦が分断に追い打ちをかけていると説明し、現代において中国政府をはじめとする権威主義的国家によって民主主義が危険に晒されていることに警鐘を鳴らしました。民主主義や自由主義に対する侵食を阻めて、アジア地域内の言論弾圧に対抗していくためには、サニーランズ・イニシアティブのような官民が連携した協力枠組みが必要だと議論しました。

グローバルリスク・危機管理プログラム

岸田首相の「理想」と「現実」 核なき世界をどう考えれば良いのか?

出版日2022年12月1日

要旨2022年12月1日、刊行された朝日新聞の「安保の行方を考える」というインタービュー連載に一橋大学国際・公共政策大学院院長の秋山信将教授のインタービュー記事が掲載されました。教授は、核不拡散条約(NPT)再検討会議に出席した岸田首相の姿勢を評価しつつ、核軍縮を追求するためにはさらなる貢献が必要だと指摘しました。特にロシアによるウクライナへの核の恫喝は「核なき世界」を遠のけた中、日本はいかに核軍縮に向けて行動していくべきかを論じました。さらに、秋山教授は核なき世界という「理想」と安全保障環境の悪化という「現実」をどう結びつけるかについてご自身の見解を述べられました。そして、今後日本で開催される重要な国際会議において日本が達成するべき核問題の目標を提言しました。

EU送還指令 ―行政裁量から法の支配へ、個人の人権遵守となるか?

著書名佐藤以久子
出版日2022年9月

要旨2022年9月、中西優美子教授が責任編集の『EU法研究』の最新号が発行され、佐藤以久子GGR客員研究員が執筆したEU返還指令に関する論文が掲載された。本稿は、不法滞在の第三国国民の退去強制に関する法的曖昧さを送還指令が埋め、行政裁量から法の支配へ、人道的な退去強制への転換をもたらしたかという問題を考察したものである。本稿は、まずEU送還指令の背景と範囲を説明した上で、EU基本権憲章と欧州人権条約の法的根拠に基づいて、欧州連合司法裁判所と欧州人権裁判所の判例を参照しながら、送還指令の解釈と人道的送還手続について分析する。こうした判例法は、指令採択当初は不明確であった条項を明確化し、適切な行政措置に導く司法審査として機能している。また、退去前収容に関する手続上の義務を示すなど人道的送還に進展があった一方で、特にノン・ルフールマン原則については、人道的理由との関係も含め条文の曖昧さが課題であると指摘している。

民主主義・人権プログラム

〈多思彩々〉アジアの「反抑圧」官民連携で

著書名市原麻衣子
出版日2022年10月30日

要旨2022年10月30日に刊行された信濃毎日新聞の〈多思彩々〉コラムに一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授の記事が掲載されました。教授は、アジアで拡大している言論弾圧の動きに対して、各国の政府は民間の協力を得ながら反抑圧を押し進める必要があると説明しました。第二次世界大戦後、アジア各国の政府は内政不干渉原則のもとで他国との関係性を保ってきた一方で、現代は権威主義的な政府に反対する民間リーダーが数多く活躍しています。市原教授は、本年日本で開催されたサニーランド・イニシアティブを例に取り、言論弾圧に晒される人々をサポートするためには、このような官民の連携が欠かせないと指摘しています。

フィールドへのアクセスに制限がある中でのフィールド調査 ー日本からの教訓

出版日2022年8月11日

要旨2022年8月11日、ケンブリッジ大学出版局が『PS:Political Science and Politics』の8月号を発行し、GGR研究員で、一橋大学大学院法学研究科に所属しているウ・ユジン准教授が共著した論文が掲載されました。当論文はウ准教授と、日本におけるフィールド調査の経験がある他16名の博士課程学生や教授が共に執筆したものです。この論文では、現地へのアクセスが限られている場合、学者はどのように現地調査を行うことができるのかという問題を探究しています。まず、現地へのアクセスが制限され、不確実であることが現地調査にどのような影響を及ぼすかを明らかにし、次に、これらの課題に対処するための提言を行っています。著者達は、自分達の実質的な専門性を活かして、日本での現地調査実施に焦点を当てていますが、この論文で概説されている問題と解決策は、幅広く様々な国々で適用可能であると指摘しています。この論文の主な目的は、非常時に行う調査に関する知見を発展させることと、フィールド調査の最適な取り組みに関するより大きな文脈に貢献することだと述べられています。

民主主義・人権プログラム

習近平後のチリ[スペイン語]

著書名サッシャ・ハニグ・ヌニェズ
出版日2022年11月8日

要旨2022年11月8日、GGRアシスタントのサッシャ・ハニグ・ヌニェズ氏の記事が、イギリスのフィナンシャル・タイムズと提携しているチリの新聞「Diario Financiero」に掲載されました。この記事の中でハニグ・ヌニェズ氏は、再度中国のトップに選ばれた習近平指導者の再選がもたらす意義を説明し、中国で権威主義と予測不可能性が強まることによって、経済的協力国のチリ経済が被害を受けると警鐘を鳴らしています。チリは貿易や資金調達の面で中国に経済的に依存しているため、中国で起こったことはチリにも大きな影響を与えるという前提で、チリ政府が中国の動向を注視する必要があると筆者は主張しています。

民主主義・人権プログラム

世界はもっと、良くできる、朝日地球会議2022

出版日2022年10月17日

要旨2022年10月16日からオンライン配信が始まった「朝日地球会議2022」に一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授が参加し、コロナによるアジアの民主主義の変化と今後日本がとるべき行動について指摘しました。教授は、他の登壇者と共に議論しながら、コロナ禍において政府に権力が集中するようになったことや、複雑な社会情勢を乗り越えるためには、歴史を参照する必要があることを強調しました。最後に、新しい価値観が増える世の中において、日本は、民主主義推進のために米国などの同盟国に頼るばかりでなく、自ら積極的にこれを実施していく必要があると論じました。また、本記事では市原教授が参加した討論だけでなく、「朝日地球会議2022」の他の対話も含まれています。