出版物

民主主義・人権プログラム

「情報戦」の時代に注目されるファクトチェックの可能性

著書名尹 在彦
出版日2023年1月19日

要旨インターネット・SNS上で拡散する偽情報・疑情報への対策を巡り、世界中でファクトチェックが行われている。日本でもコロナ禍で偽情報・誤情報が拡散し、ファクトチェックの力量が試されている。2010年代以降、韓国ではいわゆる「レガシーメディア」を含め、多くのユーザーが閲覧するオンラインニュースなどにファクトチェックのコーナーが設けられるなど、様々な主張が自由な言論空間で検証されている。「情報戦」の脅威が語られている時代、日本メディアもファクトチェック報道の全面的な導入を前向きに検討すべきであろう。

民主主義・人権プログラム

ミャンマー国軍が囚人を解放した意図は ーASEANに求められる姿勢

著書名市原麻衣子
出版日2022年11月24日

要旨2022年11月24日、朝日新聞に一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授の記事が掲載されました。ミャンマー国軍が長い間拘束していた日本人の映画作家久保田徹さんが、11月17日に国軍の「恩赦」対象者5800名のうちの一人として釈放されました。市原教授は、この「恩赦」釈放の裏にはASEANがミャンマー軍事政権指導者を「ミャンマー政府トップ」として認識し、ASEAN会議に招く道を開こうとしている国軍の意図があると指摘しました。また、メディアの関心から外れつつあるミャンマーの問題に注目を集め、ASEANを中心としてアジア外交を展開するためには、地域の国が一体となってミャンマー軍事政権を包囲する必要があると強調しました。最後に、民間アクターと協力しながら、ミャンマー難民の受け入れを加速することによってASEANの中心性を主張できるとしました。

民主主義・人権プログラム

日本への影響を試みる中国の巧妙さ

著書名ティモシー・ニーベン、市原麻衣子
出版日2023年1月4日

要旨中国では、中国共産党によって今まで多くの情報が統制され、国の影響力を拡大するために様々なメディアコンテンツに対する工作がなされてきた。しかし、近年は影響工作の勢いが行き過ぎてしまい、かえって党に対する信頼を損なわせている。この現状を変えるために、共産党は独立したメディア機関を自身の情報ネットワークに取り込み、党にとって不利益となる情報の一部を認めつつ、巧妙な情報操作によって損なわれた信頼を取り戻す動きを活発化させている。著者は、この動きが日本に及ぼす影響と危険性を示し、日本政府は速やかに対抗措置を取らなければならないと主張する。具体的な措置として、影響工作の客観的な分析と人々が触れる情報の裏にある権威主義国家の狙いを見抜くためのプラットフォームを提供する必要性を指摘している。

民主主義・人権プログラム

自由主義をめぐる分断と日本の役割

著書名市原麻衣子
出版日2022年11月8日

要旨2022年11月8日に岩波書店の雑誌『世界』の12月号が出版され、一橋大学大学院法学研究科の市原麻衣子教授の論文が掲載されました。教授はまず、ミャンマーやアフガニスタンの例を用いながら、世界中で人々の人権を抑圧する動きが増えていると指摘しました。その一つの要因にSNSがあるとし、その利用が拡大したことによって人々の間の分断や対立が強まっていると論じました。日本でもこのような分断の強まりが懸念される中で、中国政府の言論戦が分断に追い打ちをかけていると説明し、現代において中国政府をはじめとする権威主義的国家によって民主主義が危険に晒されていることに警鐘を鳴らしました。民主主義や自由主義に対する侵食を阻めて、アジア地域内の言論弾圧に対抗していくためには、サニーランズ・イニシアティブのような官民が連携した協力枠組みが必要だと議論しました。

民主主義・人権プログラム

コミットしないセンテニアル世代は民主主義を脅かすのか?

著書名サッシャ・ハニッグ・ヌニェズ
出版日2022年12月26日

要旨今日の世界は、ウクライナ侵攻、新型コロナウイルス感染症の蔓延、人権侵害、偽情報、そして民主主義に対する不信感の高まりなどに直面している。そのため、自由主義社会の将来に対する不安が拡大している。将来の行方は若者に託されているが、彼らの意識に関する研究は限定的である。本稿では、複数のデータベースをもとに、自由が保障された国家における若者の民主主義に対する意識を比較分析する。分析の結果、18~28歳のセンテニアル世代の間に、政治的無関心、反社会的行動、あるいは権威主義への支持といった懸念すべき傾向が見られた。また、この年齢層の間でテクノクラシーに関する意識が分かれている点も興味深い。テクノクラシーへの支持は、民主的な制度や民主主義それ自体への信頼を高めるために有用である一方で、それを放置すれば権威主義への支持にも繋がりかねない。

民主主義・人権プログラム

〈多思彩々〉アジアの「反抑圧」官民連携で

著書名市原麻衣子
出版日2022年10月30日

要旨2022年10月30日に刊行された信濃毎日新聞の〈多思彩々〉コラムに一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授の記事が掲載されました。教授は、アジアで拡大している言論弾圧の動きに対して、各国の政府は民間の協力を得ながら反抑圧を押し進める必要があると説明しました。第二次世界大戦後、アジア各国の政府は内政不干渉原則のもとで他国との関係性を保ってきた一方で、現代は権威主義的な政府に反対する民間リーダーが数多く活躍しています。市原教授は、本年日本で開催されたサニーランド・イニシアティブを例に取り、言論弾圧に晒される人々をサポートするためには、このような官民の連携が欠かせないと指摘しています。

民主主義・人権プログラム

習近平後のチリ[スペイン語]

著書名サッシャ・ハニグ・ヌニェズ
出版日2022年11月8日

要旨2022年11月8日、GGRアシスタントのサッシャ・ハニグ・ヌニェズ氏の記事が、イギリスのフィナンシャル・タイムズと提携しているチリの新聞「Diario Financiero」に掲載されました。この記事の中でハニグ・ヌニェズ氏は、再度中国のトップに選ばれた習近平指導者の再選がもたらす意義を説明し、中国で権威主義と予測不可能性が強まることによって、経済的協力国のチリ経済が被害を受けると警鐘を鳴らしています。チリは貿易や資金調達の面で中国に経済的に依存しているため、中国で起こったことはチリにも大きな影響を与えるという前提で、チリ政府が中国の動向を注視する必要があると筆者は主張しています。

民主主義・人権プログラム

世界はもっと、良くできる、朝日地球会議2022

出版日2022年10月17日

要旨2022年10月16日からオンライン配信が始まった「朝日地球会議2022」に一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授が参加し、コロナによるアジアの民主主義の変化と今後日本がとるべき行動について指摘しました。教授は、他の登壇者と共に議論しながら、コロナ禍において政府に権力が集中するようになったことや、複雑な社会情勢を乗り越えるためには、歴史を参照する必要があることを強調しました。最後に、新しい価値観が増える世の中において、日本は、民主主義推進のために米国などの同盟国に頼るばかりでなく、自ら積極的にこれを実施していく必要があると論じました。また、本記事では市原教授が参加した討論だけでなく、「朝日地球会議2022」の他の対話も含まれています。

民主主義・人権プログラム

歴史の参照はムダか SNS情報過剰時代にデータベース化する過去

出版日2022年10月16日

要旨2022年10月16日からオンライン配信が始まった「朝日地球会議2022」に一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授が参加しました。教授は、コロナ後の時代に関する仏独の2人の専門家へのインタービューをもとに、民主主義と今後の経路について他の参加者と共に討議しました。また、他の登壇者と共に議論しながら、ロシアによるウクライナ4州の併合を例にとって、選挙の正当性を使った自由を抑圧する動きが各地で起こっていると主張しました。さらに、混沌とした世の中を理解するためには、過去から学ぶことが重要だと指摘しました。最後に、新しい価値観が増える世の中において、日本は、民主主義推進のために米国などの同盟国に頼るばかりでなく、自ら積極的にこれを実施していく必要があると論じました。

民主主義・人権プログラム

ポーランドにおけるLGBTQ+コミュニティの現状と保護

著書名スクビシュ ミハウ
出版日2022年10月6日

要旨本稿では、ポーランドにおけるLGBTQ+の人々の状況を、将来実現可能な政策を議論する素地を提供するために人間の安全保障の観点から分析する。最終的な目標は、ポーランドのLGBTQ+コミュニティが直面している状況を改善し、抱えている問題を解決することに加えて、当問題の二つの主要アクターである現ポーランド政府とLGBTQ+コミュニティの両方にとって受け入れ可能な望ましい政策提言を行うことである。そのために、本稿ではまず、ポーランドのLGBTQ+コミュニティの現状を、その法的地位、現行の政策、及び与党の政治家の行動を分析して説明する。また、解決すべき問題への理解を深めるために、現状がLGBTQ+の人々に与える影響についても検証を行う。その次のステップでは、3つの異なる政策オプションを、その功罪とともに紹介し、各アクターの予想される反応から、どの程度実現可能なのかを探る。最後に、両方のアクターにとって有益であり、かつ実現可能な政策提言を行う。すなわち、LGBTQ+をヘイトクライムから法的に保護し、完全な平等を与えない一方、同じ市民としての理解を促進するという妥協案である。これは、LGBTQ+のコミュニティにとって最も望ましい結果ではないかもしれないが、LGBTQ+の人々にとっては個人の安全が増し、保守的な現ポーランド政府にとっても好都合な結果をもたらす可能性を意味するものである。