出版物
信頼性と説得力のある、普遍的な人権外交 そのために必要なものとは
要旨2023年2月1日、朝日新聞に一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授の記事が掲載されました。市原教授はまず、近年人権を軸とした自由主義的な価値観が弱体化しているとして警鐘を鳴らし、世界各地で起こっている人権侵害問題について説明しました。また、岸田政権のもとで日本が人権外交に乗り出したことを一定程度は評価しつつも、自民党保守派の道具としてこれを扱うべきではないと論じました。最後に、日本が人権外交を推進するためには、国内においても更なる人権尊重を目指す必要があると強調しました。
クーデター2年、ミャンマーの明日は? 自国民に銃口、遠のく民主化 避難民増加 目を向けて
要旨2023年1月30日、一橋大学大学院法学研究科の市原麻衣子教授が中日新聞に掲載された記事に登場しました。ミャンマーでクーデターが起こってから2年経った現在でも、ミャンマー国内において国軍と国民の間で対立が続いています。市原教授はこのミャンマーの現状に関して、日本のASEANに対する姿勢がいかにミャンマー国内に影響を及ぼしているかについて論じました。ASEANの議長国が変わる今年、日本はミャンマー国軍に対して効果的な働きかけができるようにASEAN諸国と共同歩調を図るべきだと主張しました。最後に教授は、岸田政権はウクライナからの避難民は積極的に受け入れてきた一方で、ミャンマーからの避難民はさほど受け入れていない現状を指摘しました。そして、日本が海外に発信するメッセージの一貫性を保つために、ミャンマー難民の受け入れ態勢も整えるべきだと強調しました。
日本における偽情報への対処法 -ロシア・ウクライナ戦争からの教訓[英文]
要旨2022年12月に『アジアの民主主義に対する偽情報の影響(英語名:Impact of Disinformation on Democracy in Asia)』レポートが出版され、一橋大学大学院法学研究科の市原麻衣子教授の論稿が掲載されました。教授はまず、ロシア・ウクライナ戦争に関するロシアの偽情報やプロパガンダが、いかに日本の言説空間を混乱させているかを示しています。この情報操作の影響は日本では前例がなく、情報操作の課題と適切な対応策を分析する上で有益なケーススタディであると指摘しています。このような背景から、本稿では、ロシア・ウクライナ戦争に関連する日本の情報操作の状況、現在の情報操作への対策、および課題を克服するための推奨政策について論じています。
ミャンマーの危機における人道支援活動
要旨本稿では、2021年2月以降、ミャンマー軍事政権による人道支援の阻止に対し、ASEAN加盟国や関係者がどのように資金調達を試みてきたかを分析する。日本の外交政策は、軍事政権と協力するかどうかという倫理的ジレンマを抱え、日本人だけでなく多数の在日ミャンマー人が、日本の政府開発援助を批判している。本稿では、国際人道支援組織の役割に着目する。国際人道支援組織は重要なステークホルダーの役割を担っており、人道支援を必要としている人々に届けるために、現地で財政支援を行っている。また、本稿では、民主的なチャンネルの利用など、ASEAN や国際機関による人道支援政策を提案する。
流行っています:テクノクラシー 〜ジェネレーションXのテクノクラシー的統治への嗜好は、将来の権威主義への新たな道が開けることにつながるか?[英語]
要旨2022年12月2日にGGRアシスタントのサッシャ・ハニグ・ヌニェスの記事が、自由民主主義の促進と擁護を目的とする英文雑誌『American Purpose』に投稿されました。本稿でハニグ・ヌニェス氏は、若い世代が選挙で選ばれた政治家よりもテクノクラシーを好む傾向があることを指摘し、こうした傾向が非自由主義的あるいは権威主義的な政府を正当化し、選挙で選ばれた議員の重要性を損なわせることになると警告しました。また、フェイクニュースや偽情報がいかに民主主義における政治家の拒絶に寄与しているか、そして最近のパンデミックがこの傾向をさらに推し進めたかを示しました。民主主義の崩壊を防ぐために、テクノクラートへの支持を潜在的な脅威として完全なる排除を目指すのではなく、民主主義国家の軸として再認識し、活用すべきだとハニグ・ヌニェス氏は主張しました。
「情報戦」の時代に注目されるファクトチェックの可能性
要旨インターネット・SNS上で拡散する偽情報・疑情報への対策を巡り、世界中でファクトチェックが行われている。日本でもコロナ禍で偽情報・誤情報が拡散し、ファクトチェックの力量が試されている。2010年代以降、韓国ではいわゆる「レガシーメディア」を含め、多くのユーザーが閲覧するオンラインニュースなどにファクトチェックのコーナーが設けられるなど、様々な主張が自由な言論空間で検証されている。「情報戦」の脅威が語られている時代、日本メディアもファクトチェック報道の全面的な導入を前向きに検討すべきであろう。
ミャンマー国軍が囚人を解放した意図は ーASEANに求められる姿勢
要旨2022年11月24日、朝日新聞に一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授の記事が掲載されました。ミャンマー国軍が長い間拘束していた日本人の映画作家久保田徹さんが、11月17日に国軍の「恩赦」対象者5800名のうちの一人として釈放されました。市原教授は、この「恩赦」釈放の裏にはASEANがミャンマー軍事政権指導者を「ミャンマー政府トップ」として認識し、ASEAN会議に招く道を開こうとしている国軍の意図があると指摘しました。また、メディアの関心から外れつつあるミャンマーの問題に注目を集め、ASEANを中心としてアジア外交を展開するためには、地域の国が一体となってミャンマー軍事政権を包囲する必要があると強調しました。最後に、民間アクターと協力しながら、ミャンマー難民の受け入れを加速することによってASEANの中心性を主張できるとしました。
日本への影響を試みる中国の巧妙さ
要旨中国では、中国共産党によって今まで多くの情報が統制され、国の影響力を拡大するために様々なメディアコンテンツに対する工作がなされてきた。しかし、近年は影響工作の勢いが行き過ぎてしまい、かえって党に対する信頼を損なわせている。この現状を変えるために、共産党は独立したメディア機関を自身の情報ネットワークに取り込み、党にとって不利益となる情報の一部を認めつつ、巧妙な情報操作によって損なわれた信頼を取り戻す動きを活発化させている。著者は、この動きが日本に及ぼす影響と危険性を示し、日本政府は速やかに対抗措置を取らなければならないと主張する。具体的な措置として、影響工作の客観的な分析と人々が触れる情報の裏にある権威主義国家の狙いを見抜くためのプラットフォームを提供する必要性を指摘している。
自由主義をめぐる分断と日本の役割
要旨2022年11月8日に岩波書店の雑誌『世界』の12月号が出版され、一橋大学大学院法学研究科の市原麻衣子教授の論文が掲載されました。教授はまず、ミャンマーやアフガニスタンの例を用いながら、世界中で人々の人権を抑圧する動きが増えていると指摘しました。その一つの要因にSNSがあるとし、その利用が拡大したことによって人々の間の分断や対立が強まっていると論じました。日本でもこのような分断の強まりが懸念される中で、中国政府の言論戦が分断に追い打ちをかけていると説明し、現代において中国政府をはじめとする権威主義的国家によって民主主義が危険に晒されていることに警鐘を鳴らしました。民主主義や自由主義に対する侵食を阻めて、アジア地域内の言論弾圧に対抗していくためには、サニーランズ・イニシアティブのような官民が連携した協力枠組みが必要だと議論しました。
コミットしないセンテニアル世代は民主主義を脅かすのか?
要旨今日の世界は、ウクライナ侵攻、新型コロナウイルス感染症の蔓延、人権侵害、偽情報、そして民主主義に対する不信感の高まりなどに直面している。そのため、自由主義社会の将来に対する不安が拡大している。将来の行方は若者に託されているが、彼らの意識に関する研究は限定的である。本稿では、複数のデータベースをもとに、自由が保障された国家における若者の民主主義に対する意識を比較分析する。分析の結果、18~28歳のセンテニアル世代の間に、政治的無関心、反社会的行動、あるいは権威主義への支持といった懸念すべき傾向が見られた。また、この年齢層の間でテクノクラシーに関する意識が分かれている点も興味深い。テクノクラシーへの支持は、民主的な制度や民主主義それ自体への信頼を高めるために有用である一方で、それを放置すれば権威主義への支持にも繋がりかねない。