出版物

民主主義・人権プログラム

自由主義をめぐる分断と日本の役割

著書名市原麻衣子
出版日2022年11月8日

要旨2022年11月8日に岩波書店の雑誌『世界』の12月号が出版され、一橋大学大学院法学研究科の市原麻衣子教授の論文が掲載されました。教授はまず、ミャンマーやアフガニスタンの例を用いながら、世界中で人々の人権を抑圧する動きが増えていると指摘しました。その一つの要因にSNSがあるとし、その利用が拡大したことによって人々の間の分断や対立が強まっていると論じました。日本でもこのような分断の強まりが懸念される中で、中国政府の言論戦が分断に追い打ちをかけていると説明し、現代において中国政府をはじめとする権威主義的国家によって民主主義が危険に晒されていることに警鐘を鳴らしました。民主主義や自由主義に対する侵食を阻めて、アジア地域内の言論弾圧に対抗していくためには、サニーランズ・イニシアティブのような官民が連携した協力枠組みが必要だと議論しました。

民主主義・人権プログラム

コミットしないセンテニアル世代は民主主義を脅かすのか?

著書名サッシャ・ハニッグ・ヌニェズ
出版日2022年12月26日

要旨今日の世界は、ウクライナ侵攻、新型コロナウイルス感染症の蔓延、人権侵害、偽情報、そして民主主義に対する不信感の高まりなどに直面している。そのため、自由主義社会の将来に対する不安が拡大している。将来の行方は若者に託されているが、彼らの意識に関する研究は限定的である。本稿では、複数のデータベースをもとに、自由が保障された国家における若者の民主主義に対する意識を比較分析する。分析の結果、18~28歳のセンテニアル世代の間に、政治的無関心、反社会的行動、あるいは権威主義への支持といった懸念すべき傾向が見られた。また、この年齢層の間でテクノクラシーに関する意識が分かれている点も興味深い。テクノクラシーへの支持は、民主的な制度や民主主義それ自体への信頼を高めるために有用である一方で、それを放置すれば権威主義への支持にも繋がりかねない。

民主主義・人権プログラム

〈多思彩々〉アジアの「反抑圧」官民連携で

著書名市原麻衣子
出版日2022年10月30日

要旨2022年10月30日に刊行された信濃毎日新聞の〈多思彩々〉コラムに一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授の記事が掲載されました。教授は、アジアで拡大している言論弾圧の動きに対して、各国の政府は民間の協力を得ながら反抑圧を押し進める必要があると説明しました。第二次世界大戦後、アジア各国の政府は内政不干渉原則のもとで他国との関係性を保ってきた一方で、現代は権威主義的な政府に反対する民間リーダーが数多く活躍しています。市原教授は、本年日本で開催されたサニーランド・イニシアティブを例に取り、言論弾圧に晒される人々をサポートするためには、このような官民の連携が欠かせないと指摘しています。

民主主義・人権プログラム

習近平後のチリ[スペイン語]

著書名サッシャ・ハニグ・ヌニェズ
出版日2022年11月8日

要旨2022年11月8日、GGRアシスタントのサッシャ・ハニグ・ヌニェズ氏の記事が、イギリスのフィナンシャル・タイムズと提携しているチリの新聞「Diario Financiero」に掲載されました。この記事の中でハニグ・ヌニェズ氏は、再度中国のトップに選ばれた習近平指導者の再選がもたらす意義を説明し、中国で権威主義と予測不可能性が強まることによって、経済的協力国のチリ経済が被害を受けると警鐘を鳴らしています。チリは貿易や資金調達の面で中国に経済的に依存しているため、中国で起こったことはチリにも大きな影響を与えるという前提で、チリ政府が中国の動向を注視する必要があると筆者は主張しています。

民主主義・人権プログラム

世界はもっと、良くできる、朝日地球会議2022

出版日2022年10月17日

要旨2022年10月16日からオンライン配信が始まった「朝日地球会議2022」に一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授が参加し、コロナによるアジアの民主主義の変化と今後日本がとるべき行動について指摘しました。教授は、他の登壇者と共に議論しながら、コロナ禍において政府に権力が集中するようになったことや、複雑な社会情勢を乗り越えるためには、歴史を参照する必要があることを強調しました。最後に、新しい価値観が増える世の中において、日本は、民主主義推進のために米国などの同盟国に頼るばかりでなく、自ら積極的にこれを実施していく必要があると論じました。また、本記事では市原教授が参加した討論だけでなく、「朝日地球会議2022」の他の対話も含まれています。

民主主義・人権プログラム

歴史の参照はムダか SNS情報過剰時代にデータベース化する過去

出版日2022年10月16日

要旨2022年10月16日からオンライン配信が始まった「朝日地球会議2022」に一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授が参加しました。教授は、コロナ後の時代に関する仏独の2人の専門家へのインタービューをもとに、民主主義と今後の経路について他の参加者と共に討議しました。また、他の登壇者と共に議論しながら、ロシアによるウクライナ4州の併合を例にとって、選挙の正当性を使った自由を抑圧する動きが各地で起こっていると主張しました。さらに、混沌とした世の中を理解するためには、過去から学ぶことが重要だと指摘しました。最後に、新しい価値観が増える世の中において、日本は、民主主義推進のために米国などの同盟国に頼るばかりでなく、自ら積極的にこれを実施していく必要があると論じました。

民主主義・人権プログラム

ポーランドにおけるLGBTQ+コミュニティの現状と保護

著書名スクビシュ ミハウ
出版日2022年10月6日

要旨本稿では、ポーランドにおけるLGBTQ+の人々の状況を、将来実現可能な政策を議論する素地を提供するために人間の安全保障の観点から分析する。最終的な目標は、ポーランドのLGBTQ+コミュニティが直面している状況を改善し、抱えている問題を解決することに加えて、当問題の二つの主要アクターである現ポーランド政府とLGBTQ+コミュニティの両方にとって受け入れ可能な望ましい政策提言を行うことである。そのために、本稿ではまず、ポーランドのLGBTQ+コミュニティの現状を、その法的地位、現行の政策、及び与党の政治家の行動を分析して説明する。また、解決すべき問題への理解を深めるために、現状がLGBTQ+の人々に与える影響についても検証を行う。その次のステップでは、3つの異なる政策オプションを、その功罪とともに紹介し、各アクターの予想される反応から、どの程度実現可能なのかを探る。最後に、両方のアクターにとって有益であり、かつ実現可能な政策提言を行う。すなわち、LGBTQ+をヘイトクライムから法的に保護し、完全な平等を与えない一方、同じ市民としての理解を促進するという妥協案である。これは、LGBTQ+のコミュニティにとって最も望ましい結果ではないかもしれないが、LGBTQ+の人々にとっては個人の安全が増し、保守的な現ポーランド政府にとっても好都合な結果をもたらす可能性を意味するものである。

民主主義・人権プログラム

ミャンマーは「ディストピア」か?

著書名ニン・テ・テ・アウン
出版日2022年8月31日

要旨ミャンマーではこれまで機能的な民主化をもたらそうとする動きが見られたこともあったが、権威主義的、さらには「ディストピア」的な政権が維持されてきた。本稿はこのミャンマーの政治的変遷における国軍の役割について分析する。ジョージ・オーウェル(George Orwell)の小説『1984年(Nineteen Eighty-Four)』や映画『アウトブレイク(Outbreak)』などのディストピア・フィクションでは、人間の尊厳の侵害や政治的抑圧が描かれている。これらのフィクションとミャンマー政権の現状は、情報や国家統制などの面で類似している。ディストピアにおいて、世論を動かすための代表的な工作が偽情報の利用である。経済危機の中で軍事政権がどのような政策を打ち出し、一般市民にどのような影響をもたらすかを評価する。

民主主義・人権プログラム

北京の世界的メディア影響力2022年 -チリ(英語)

著書名BCハン、サスチャ・ハニグ・ヌニェズ
出版日2022年9月

要旨自由度や人権状況を表すFreedom in the World レポートで知られる米国の機関フリーダム・ハウスは、2022年9月、Beijing’s Global Media Influence 2022という特別報告書を発表しました。GGRアシスタントであるサスチャ・ハニグ・ヌニェズ氏は同レポートの中で、チリにおける中国の偽情報や影響力の度合いについての箇所を共同執筆しました。報告書自体は、世界数十カ国のデジタル、報道、視聴覚メディアにおける中国の影響力工作を探り、中国国民に対する不当対応(過剰反応として)と、表現の自由と民主主義を守る回復力のメカニズムも明らかにしています。本書の成果として、中国国営メディアはもとより、公務員や外交官にも共通する慣習が確認されました。また、ハニグ氏が担当したチリでは、パンデミック時の中国のネガティブなイメージに対抗し、民主主義と並列的な概念を作り出すことを目的として、チリの伝統的なメディアの中に中国がナラティブを変革するような試みを広告や共同出版という形で組み入れていることが筆者等によって解明されました。興味深いことに、北京のシナリオを主に支持していたのはチリのエリート層であり、ジャーナリストや市民社会はこの影響工作を暴き続けていることもわかりました。この報告書は、ボイス・オブ・アメリカ(英語版と中国語版)やチリの独立系メディアEx Anteなどのメディアで引用されました。

民主主義・人権プログラム

終わりなき戦いのなかにある希望なき地の人々

著書名ニン・テ・テ・アウン
出版日2022年8月29日

要旨70年間にわたるミャンマー内戦によって、これまでに多数の国内避難民が発生してきたが、2021年以降その数は急増している。筆者は、国内避難民やその支援者にインタビューを行い、戦火によって普段の生活を追われた多くの人々が、居住地や食料、インフラ、そして教育など様々な面において非常に困難な状況に直面していることを報告する。