出版物
チリにおける憲法改正の否決より、民主的プロセスと裏切られた期待について何が学べるか?
要旨2022年9月、チリの有権者は、1年以上かけて起草され、三権分立などの自由民主主義の基本的要素を制限する新憲法案を、62%の反対をもって否決した。2023年11月にはチリで新たな国民投票が実施される予定であり、さらに他の多くの国々でも憲法改正が検討されている。こうした経緯を踏まえ、本稿では以下の2つの問いについて論じる。第一に、改憲プロセスの動向からどのような教訓が得られるのか。そして第二に、チリにおける憲法改正否決の主な理由は何なのか。これらの問いに答えるために、本稿ではまず、チリ国民によって共有されているナラティブを概観する。そして憲法改正が失敗に終わった背景、すなわちコミュニケーション不足や国民の信頼の喪失、そして憲法改正案に対する失望について分析する。
若い世代の政治文化の変化が民主主義への信頼の喪失、技術主義的な代替案への好みを誘発[英語]
要旨2023年2月、モンゴル政治教育アカデミーは、GGRリサーチアシスタント兼チリ人国際アナリストのサッシャ・ハニグ・ヌニェズ氏によるレポート「若い世代の政治文化の変化が民主主義への信頼の喪失と技術主義的代替案への好みを誘発」を掲載しました。この詳細なレポートの中で、ヌニェズ氏は、政治文化に関する議論の中心であるべき若い世代に注目しています。なぜなら、地政学的緊張関係や 民主主義国家の弱体化など、現代世界で見られる政治的傾向の影響を最も受ける世代だからだと説明しています。彼女は、この世代は、特に先進国では政治的指導者よりもテクノクラティック指導者に投票する傾向があるが、最近成立した民主主義国家では様々な傾向があることを指摘しています。この状況をより包括的に理解するためには、他の要因も考慮する必要があるとしながらも、若い世代が政策決定のための従来の民主主義のメカニズムに対して示す信頼の欠如を見過ごすことはできず、政府の指導者はこの状況をもっと深刻に受け入れるべきだとヌニェズ氏は主張します。
2035年の世界地図
要旨2023年2月13日、一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授の共著書『2035年の世界地図』(朝日新聞出版)が発売されました。本書は市原教授をはじめ、フランスの人口統計学者・歴史学者のエマニュエル・トッド氏やドイツの哲学者マルクス・ガブリエル氏など、幅広い分野で活躍する著名人が共同執筆した著書です。2035年、今から12年後の世界。世界人口が増える中、人口大国の中国や日本は高齢者社会になると予測されています。経済面では中国の国内総生産(GDP)がアメリカのGDPを抜いて世界第1位に、日本はインドやインドネシアに抜かれて世界第5位になると言われています。また、人工知能(AI)なども今よりさらに発達して社会のあらゆる場面において活用されると指摘されています。様々な予測が立てられる中、新型コロナウィルスの流行やロシアのウクライナ侵攻などの予測不可能な事態が起こり、現代の世界は今までにないほどの不確実性に満ち溢れています。そのような世界について、市原教授を含む各分野の専門家や著名人が個々の見据える世界について語っています。
自由主義をめぐる分断と日本の役割 [in English]
要旨2023年2月9日、Discuss Japanに一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授の記事が掲載されました。本記事は、岩波書店の総合雑誌『世界』12月号に掲載された教授の日本語エッセイを翻訳したものです。この論文で市原教授は、アジアでは様々な人権抑圧の試みが行われてきたが、それに人々が反発したことは、個人主義や尊厳の追求がいかに普遍的な価値であるかを証明するものであると論じました。インターネットの普及により、政府の弾圧に対抗するための市民の動員は容易になった一方で、ソーシャルメディアの普及は人々の分断を招いています。こうした社会の分断は日本でも見られますが、中国の言論戦がこうした状況に拍車をかけていると教授は指摘しました。最後に、民主主義の定義を再検討し、サニーランズ・イニシアティブなど、人々の生命、自由、尊厳を守るための取り組みを紹介されました。
ミャンマーにおける市民社会の長い道のり
要旨ミャンマーの市民社会は2021年2月1日に起きた軍事クーデターによって成立した軍事政権に抵抗を続けている。植民地時代後期に起源を持つ市民社会は民主主義社会への移行に重要な役割を果たしてきた。過去数年間における活躍は十分なものだとは言い切れないものの、人々の立場に立ち続け、クーデター後も国内外の情報アクセス、暴力の防止、人道支援などの領域で積極的な活動を行っている。本稿では、市民社会がミャンマーの国家の発展と民主主義の価値の擁護において決定的な役割を果たしていると論じる。
信頼性と説得力のある、普遍的な人権外交 そのために必要なものとは
要旨2023年2月1日、朝日新聞に一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授の記事が掲載されました。市原教授はまず、近年人権を軸とした自由主義的な価値観が弱体化しているとして警鐘を鳴らし、世界各地で起こっている人権侵害問題について説明しました。また、岸田政権のもとで日本が人権外交に乗り出したことを一定程度は評価しつつも、自民党保守派の道具としてこれを扱うべきではないと論じました。最後に、日本が人権外交を推進するためには、国内においても更なる人権尊重を目指す必要があると強調しました。
クーデター2年、ミャンマーの明日は? 自国民に銃口、遠のく民主化 避難民増加 目を向けて
要旨2023年1月30日、一橋大学大学院法学研究科の市原麻衣子教授が中日新聞に掲載された記事に登場しました。ミャンマーでクーデターが起こってから2年経った現在でも、ミャンマー国内において国軍と国民の間で対立が続いています。市原教授はこのミャンマーの現状に関して、日本のASEANに対する姿勢がいかにミャンマー国内に影響を及ぼしているかについて論じました。ASEANの議長国が変わる今年、日本はミャンマー国軍に対して効果的な働きかけができるようにASEAN諸国と共同歩調を図るべきだと主張しました。最後に教授は、岸田政権はウクライナからの避難民は積極的に受け入れてきた一方で、ミャンマーからの避難民はさほど受け入れていない現状を指摘しました。そして、日本が海外に発信するメッセージの一貫性を保つために、ミャンマー難民の受け入れ態勢も整えるべきだと強調しました。
日本における偽情報への対処法 -ロシア・ウクライナ戦争からの教訓[英文]
要旨2022年12月に『アジアの民主主義に対する偽情報の影響(英語名:Impact of Disinformation on Democracy in Asia)』レポートが出版され、一橋大学大学院法学研究科の市原麻衣子教授の論稿が掲載されました。教授はまず、ロシア・ウクライナ戦争に関するロシアの偽情報やプロパガンダが、いかに日本の言説空間を混乱させているかを示しています。この情報操作の影響は日本では前例がなく、情報操作の課題と適切な対応策を分析する上で有益なケーススタディであると指摘しています。このような背景から、本稿では、ロシア・ウクライナ戦争に関連する日本の情報操作の状況、現在の情報操作への対策、および課題を克服するための推奨政策について論じています。
ミャンマーの危機における人道支援活動
要旨本稿では、2021年2月以降、ミャンマー軍事政権による人道支援の阻止に対し、ASEAN加盟国や関係者がどのように資金調達を試みてきたかを分析する。日本の外交政策は、軍事政権と協力するかどうかという倫理的ジレンマを抱え、日本人だけでなく多数の在日ミャンマー人が、日本の政府開発援助を批判している。本稿では、国際人道支援組織の役割に着目する。国際人道支援組織は重要なステークホルダーの役割を担っており、人道支援を必要としている人々に届けるために、現地で財政支援を行っている。また、本稿では、民主的なチャンネルの利用など、ASEAN や国際機関による人道支援政策を提案する。
流行っています:テクノクラシー 〜ジェネレーションXのテクノクラシー的統治への嗜好は、将来の権威主義への新たな道が開けることにつながるか?[英語]
要旨2022年12月2日にGGRアシスタントのサッシャ・ハニグ・ヌニェスの記事が、自由民主主義の促進と擁護を目的とする英文雑誌『American Purpose』に投稿されました。本稿でハニグ・ヌニェス氏は、若い世代が選挙で選ばれた政治家よりもテクノクラシーを好む傾向があることを指摘し、こうした傾向が非自由主義的あるいは権威主義的な政府を正当化し、選挙で選ばれた議員の重要性を損なわせることになると警告しました。また、フェイクニュースや偽情報がいかに民主主義における政治家の拒絶に寄与しているか、そして最近のパンデミックがこの傾向をさらに推し進めたかを示しました。民主主義の崩壊を防ぐために、テクノクラートへの支持を潜在的な脅威として完全なる排除を目指すのではなく、民主主義国家の軸として再認識し、活用すべきだとハニグ・ヌニェス氏は主張しました。