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影響工作を巡る懸念 ―研究者の役割と課題
要旨本報告書は、沖縄の潜在的な操作対象層が、中国が行う外国による情報操作と干渉(Foreign Information, Manipulation and Interference: FIMI)をどのように認識しているかを分析するものである。こうした秘密裏の影響工作は、民主主義国家の世論を誘導し、政策に影響を与えることを目的としている。ソーシャルメディアやデジタルプラットフォームの世界的な普及により、これらの活動は民主的な議論や社会の安定を脅かす可能性がある。しかし本研究では、現地における実際の影響が、従来の研究や世論において過大評価されている傾向があることが明らかになった。FIMI活動に対する理解と対応力を高めるためには、以下の4つの課題を検討する必要がある。すなわち、1)FIMIが介入する地域固有の文脈、2)研究者が分析の対象とするレベル、3)活動で用いられるナラティブの起源、4)関与する対象グループである。これらの要素を踏まえて影響活動のインパクトを分析することで、民主主義社会におけるFIMIへのより効果的な対応につながることが期待される。
日本のミレニアル世代・Z世代が民主主義に与える影響
要旨民主的ガバナンスの持続可能性を確保するためには、若い世代が政策決定プロセスに積極的に関与することが極めて重要である。東北アジアにおける伝統的な政治制度と新たに登場する政治的アクターとの間のギャップに対応するため、アジア民主主義研究ネットワーク(ADRN)は共同研究を実施し、日本、韓国、台湾、モンゴルの事例を検討する一連のワーキングペーパーを発表した。これらの論文では、各国の若者が民主主義をどのように捉えているかを探り、政府・政党・市民社会組織を含む関係者に対して提言を行っている。
妄想的な選挙運動への対策
要旨選挙手続きは、人々が自らの代表者を選び、その代表者が人々の意思を発展させ遂行する義務を担うということから、民主主義にとって極めて重要である。そのため、選挙運動が実施される。選挙運動は一般的に、政党が目指す意図や発展要領を反映するものだ。それは候補者自身と同様(あるいはそれ以上)に重要で説得力を持つ。しかしながら、世の中のあらゆるものと同じく、選挙運動にも実現可能なものと非現実(妄想)[1] 的なものがある。実現可能な選挙運動は、有権者が自国のために十分な情報を得た上で投票することを可能にするが、非現実的なものは有権者に誤った情報を与えると考えられる。そうした選挙運動が人々に影響を与え得るにもかかわらず、言論の自由の重要性からそうした選挙運動を直接に規制する詳細な法律は未だ策定されていない。本稿では、有権者の力を強化し、民主的社会におけるより健全なシステムを構築するために、選挙運動に関する法的な枠組みと、妄想的な選挙運動への対策について説明する。
在日クルド人に関する偽情報への対策とカウンターナラティブの設計
要旨在日クルド人をめぐる偽情報や誤情報がオンライン空間で急増している。在日クルド人をめぐる偽情報は、単なる入管制度や法制度上の課題にとどまらず、民族差別というより深刻な社会問題である。本稿は、偽情報をめぐる現状を分析し、効果的なカウンターナラティブを提示し、政策提言を行う。まずX(旧Twitter)の投稿を分析し、2023年の川口市での事件以降、在日クルド人に関する投稿量が爆発的に増加し、その中で犯罪や治安悪化といった社会的不安を喚起する偽情報が拡散されたことを明らかにする。その上で、偽情報の拡散に関与するアクターと、その受容を促す心理的要因に注目し、個々人が抱える「個人的不安」と「社会的不安」が排外主義的ナラティブの浸透を可能にしている点を指摘する。このような不安を抱える層に対するカウンターナラティブを検討し、個人的不安を抱える層には在日クルド人を「共感可能な隣人」として描く戦略、社会的不安を抱える層にはクルド人が社会規範を共有し共存可能な存在であることを示す戦略、さらに両者に共通する接触仮説に基づく肯定的交流の促進を提案する。本稿の分析を踏まえ、①カウンターナラティブ戦略の効果検証と精緻化、②在日クルド人の法的地位安定化を含む制度的課題への対応、③多文化共生社会の基盤強化に向けた社会的支援の拡充について、政策提言を行う。
性的指向と性自認に関する国際人権規範の形成 ―規範の論争、規範クラスター、アクターの関与
要旨本稿は、国際関係論における規範研究の知見を用いて、性的指向および性自認に関する国際規範(SOGI規範)を分析する。規範の論争、トランスナショナル・アドボカシー・ネットワーク、規範クラスターといった分析概念を用いて、SOGI規範がどのように進展と敵対の両面に直面してきたのかを考察する。まず、暴力からの保護や差別的な法律の撤廃といった、国際人権法下でのSOGIに関する国家の義務の概要を示す。次に、SOGI規範の妥当性が頻繁に論争にさらされ、推進者と反対者の双方がトランスナショナルなネットワークを通じて結びついていると論じる。そのうえで、SOGI規範は国際人権の規範クラスターに組み込まれつつあり、その埋め込みの深化が妥当性をめぐる論争の影響を低減するという可能性を指摘する。続いて、SOGIに基づく暴力および差別に関する国連独立専門家(IE SOGI)の活動に焦点を当て、アクターのアプローチや取り組みを分析する。結論として、一定の進展が見られる一方で、SOGI規範の強度は依然として脆弱であり、政治的な反発や非自由主義的なアクターによる戦略に直面していると論じる。
ミャンマーにおける地震と人道的危機
要旨本稿は、2025年3月28日にミャンマーを襲ったマグニチュード7.7の地震による被害の概況と、それに関連する人道的状況を報告する。地震は内戦下のミャンマーに深刻な被害をもたらしたが、停戦合意にもかかわらず、軍政は市民への攻撃を続けている。パンデミック、クーデターと内戦、サイクロンなど、ミャンマーは過去5年間にたびたび危機に直面してきた。それにもかかわらず、ミャンマー国軍は市民の生命を奪い、人道支援の提供すら妨げている。国際社会は軍事政権に正当性を与えることなく、人道支援を強化すべきである。
中国の「悪意のある情報」が沖縄へ [in English]
今日の多国間主義の諸問題と各セクターの役割
ラテンアメリカ諸国への技術移転―米中からの脱却か?[in English]
ミャンマー支援 動くべき時だ 市原麻衣子(一橋大大学院教授)<多思彩々>
研究者
専任教員
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アシスタント
























