2025年3月26日、一橋大学グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は、第37回ブラウンバッグランチセミナー「技術移転と大国間競争 ―ラテンアメリカ諸国の事例」を開催し、サッシャ・ハニグ・ヌニェズ氏(国際アナリスト・一橋大学大学院法学研究科博士課程)を講師に招きました。
ハニグ氏は、社会の形成や経済発展、国際関係における技術移転が持つ極めて重要な役割を強調しました。今回のセミナーでは特に米中間の大国間競争に焦点が当てられました。ハニグ氏は、ラテンアメリカにおける技術移転は、発展を促進する好機であると同時に依存やデジタル主権への懸念といったリスクも伴うと指摘します。グローバルな技術基準が分岐しつつある中で、ラテンアメリカ諸国は経済的利益と安全保障、外国からの影響の間で慎重に判断を下す必要があります。加えて、同地域の政治体制は、確立された民主主義国家からハイブリッド体制、権威主義体制まで多様性に富んでおり、意思決定が複雑になっていると指摘しました。ラテンアメリカの成長するデジタル市場と戦略的資源は、技術移転における主要なアクターを惹きつけています。主要なアクターを分析し、米国と欧州が歴史的にハイテク業界を支配してきた一方で、中国は現在、特に電気通信、AI、インフラ分野で競争力のある選択肢を提供していると説明しました。そして中でも、顔認識技術の普及が争点の一つとなっています。なぜなら、顔認証技術にはプライバシー、人権、大規模な監視に関連するリスクが存在するからです。技術の使用は地政学的な緊張を引き起こしており、特に米国を中心とする西側はデータ・セキュリティのリスクを主張しています。さらに、ハニグ氏によれば、地政学的な利害関係は5Gネットワークの展開に明確に現れています。中国はファーウェイやZTEといった企業を通じて、安価な方法でインフラ開発を主導している一方、米国は潜在的な二重使用に対して警告を発しています。また、ブラジルやチリは、技術導入の最前線にいると考えられているものの、同時に自国のデジタル技術をめぐる将来、同盟関係、主権を形作る戦略的決断に直面していると分析しました。
質疑応答では、米国との緊密な同盟関係を維持すると同時に、技術移転のために中国と関与するという矛盾に関して重要な質問がありました。特にチリの事例では、技術関連の契約を停止しているにもかかわらず、中国の影響力が横行しています。ハニグ氏は、地域の制度的なモデルとしてのチリの役割だけでなく、チリの主要な政治家、例えば下院議長や首相候補に影響を与えようとする中国の動きが活発化していることを強調しました。
ラテンアメリカにおける技術移転は、グローバルな競争力学の中で組み立てられている一方で、中国も米国も他の分野で広く存在感を示しているにもかかわらず、技術移転において外交的な目的を達成していないため、政策の成果という点では直感に反する形をとっています。デジタル主権を守り、持続可能な開発を促進するためには、政府は現地の技術力を強化し、グローバルな大国と関わる際にはバランスの取れた戦略的アプローチを採用しなければならないと結論付けました。
【イベントレポート作成】
ビラル・ホサイン(一橋大学大学院法学研究科博士課程)
中島崇裕(一橋大学大学院法学研究科修士課程)