その他の研究成果

グローバルリスク・危機管理プログラム

核なき世界へ、たとえ遠回りでも 広島サミット、日本の研究者の期待

著書名秋山信将
出版日2023年5月18日

要旨2023年5月18日、朝日新聞に国際・公共政策大学院長及び法学研究科教授でGGR研究員の秋山信将教授のインタビュー記事「核なき世界へ、たとえ遠回りでも 広島サミット、日本の研究者の期待」が掲載されました。この記事は、「核なき世界」へ向けて、G7が発信すべき内容を論じています。まず、秋山教授は、大国間と地域における緊張の高まりを踏まえると、直線的な「核なき世界」への進展はおそらくないだろうと論じました。その上で、いかなる状況でも核兵器が最終的に使われなかったという実績を積み上げていくことは、遠回りで遅い歩みのように見えるものの、「核なき世界」の実現のためには大切なことだと述べました。また、核の分野において新興国と途上国との連携を強化するためには、各国が置かれている地政学的なリスクの相違に起因する、核兵器に対する認識の差を埋めることが重要だと強調しました。加えて、中国の保有する核兵器については、情報開示が乏しいことから、透明性の面で大きな問題があると説明しました。

民主主義・人権プログラム

ディストピア ―現実とフィクションの混合 [in Spanish]

著書名サッシャ・ハニグ・ヌニェズ
出版日2023年5月1日

要旨2023年3月20日に、GGRアシスタントで国際アナリストのサッシャ・ハニグ・ヌニェズ氏の論考「ディストピア ―現実とフィクションの混合」がスペインの文学批評ジャーナル『Cuadernos Hispanoamericanos』に掲載されました。ハニグ・ヌニェズ氏は、哲学、政治、文学などの資料を議論の出発点として参照しながら、研究分野、時代、地理を縦横無尽に越境し、ディストピアの概念について論じています。まず、J・S・ミルのディストピアの思想的淵源にT・モアのユートピア概念との共通性を発見します。また、権威主義政権における管理の経験がディストピア作品に反映されてきたと論じ、ソ連のY・ザミャーチンからチリのJ・バラディットまでにこの特徴を見出します。テクノロジーの発展は抑圧の手段をも発展させ、例えばクローン技術を取り入れたカズオ・イシグロの文学作品にも反映されていると指摘しています。最後に、ハニグ・ヌニェズ氏は、オーウェルが描いたような世界が現実で起こりつつあると述べるとともに、ディストピアが過度に使用されることは、鮮烈無比な意味を持つ言葉の陳腐化を招く可能性があると警句を述べました。

グローバルリスク・危機管理プログラム

アジア太平洋における新たな戦略的リスクと核不拡散体制への影響―日本からの視点[in English]

著書名秋山信将
出版日2023年3月6日

要旨2023年3月6日、Asia-Pacific Leadership Network(ALPN)に一橋大学国際・公共政策大学院院長・GGR研究員の秋山信将教授の報告書「Emerging strategic risks in the Asia-Pacific and the impact on the nuclear non-proliferation regime: The Japanese perspective」(英文)が掲載されました。ALPNは、アジア太平洋地域を拠点とする政治、外交、そして軍部の元リーダー、現リーダー、さらには学者やオピニオンリーダーからなるネットワークです。このネットワークは、核兵器が世界にもたらす脅威について考慮を促すために世論に情報を提供すること、そして最終的には核兵器の使用を廃絶することを目的としています。秋山教授は、ALPNのメンバーとして、アジア太平洋における核の状況を日本の視点から捉えて説明することを目的に、当報告書を執筆されました。

ウクライナの事態と国際刑事裁判所

著書名竹村仁美
出版日2023年3月20日

要旨2023年3月20日に、一橋大学法学研究科教授・GGR研究員の竹村仁美教授の論文「ウクライナの事態と国際刑事裁判所」が『九州国際大学法学論集』第29巻1・2合併号に掲載されました。竹村教授はまず、ウクライナとロシアが国際刑事裁判所規程の非締約国であるものの、ウクライナが規程に基づいて国際刑事裁判所の管轄権を受諾していたこと、そして43締約国が事態を付託したことによって国際刑事裁判所による捜査が開始されたと指摘しました。ただし、国際刑事裁判所には補完性の原則や人的管轄、事項的管轄、実効性といった点において限界もあると論じました。加えて、証拠の精査の困難さからジェノサイド罪の認定が難しい一方で、不足している証拠の収集のために国際協力枠組みが促進されているとも論じました。また、国際司法裁判所との紛争の同時係属について、ジェノサイド条約に関する国家の義務の履行・不履行が問題となっていると指摘しました。最後に、教授は補完性の原則を踏まえ、国内での捜査・訴追による国際法上の犯罪の不処罰撲滅が第一義的には重要となり、国際刑事裁判所の実効性と効率性を計るには長期的視座が必要だと論じました。

民主主義・人権プログラム

抑圧下の市民の声も聞いて 軽井沢でG7外相会合

著書名市原麻衣子
出版日2023年4月16日

要旨2023年4月16日の信濃毎日新聞に一橋大学大学院法学研究科教授・GGR研究員の市原麻衣子教授の記事「抑圧下の市民の声も聞いて 軽井沢でG7外相会合」が掲載されました。市原教授は、4月中旬より開催されるG7外相会合及びその後のG7サミットを見据えて、G7議長国として国際社会をリードしていくために日本政府が実施すべき政策の方針を述べました。まず、2023年3月20日に岸田首相が発表した自由で開かれたインド太平洋(FOIP)のための新たなプランにおいて中核として位置づけられている「自由」と「法の支配」の重要性を説き、その実現のためには「各国の歴史的・文化的多様性の尊重」が欠かせないと説明しました。一方で、相手国の文化の尊重には、単に相手国政府の主張を受け入れることだけではなく、相手国の市民の声にも耳を傾けることが要されると述べました。そのために必要となる民間アクターとの連携には、関連アクターが集まって立ち上げた「サニーランズ・イニシアティブ」と協働することが、日本政府にとって有効な手段となるとの見解を示しました。

中国法の視点から‐「中国式法治」とは何か

著書名但見亮
出版日2023年2月

要旨2023年2月に、一橋大学法学研究科教授・GGR研究員の但見亮教授の論文「中国法の視点から‐「中国式法治」とは何か」が『比較法研究』第83巻に掲載されました。 但見教授は、香港国家安全維持法を「香港の中国化」と位置づけ、「中国化」の基準となる中国の「法治」と「民主」について考察しています。教授はまず、中国における「法治」は中国共産党指導の下、党の政策目標の実現を目指すものだと説明します。また、「民主」に関しては、「統一」や「団結」が強調され、党と一体的に位置づけられていると論じました。このように、中国式の「統治」と「民主」は民主主義国家のそれとは相当程度異なる概念だと述べました。 また、教授は習近平指導部発足後の「新時代」における権力集中や昨今のゼロコロナ政策は、これらの概念の変化を示さないと指摘します。むしろ党の指導による「法治」とそのもとで全体の利益の促進を目指す「民主」が強化・貫徹されている証左だと論じました。

民主主義・人権プログラム

反目の歴史、対話重ねた先に ウクライナを積極支援するポーランド

著書名市原麻衣子
出版日2023年3月22日

要旨2023年3月22日、朝日新聞の「#論壇」というコラムにおいて一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授が載せたコメントが紹介されました。教授がコメントをした記事はポーランド人が示したウクライナ人に対する手厚い支援を題材としています。この記事において、京都大学教授でポーランド近世史を専門としている小山哲教授がポーランドとウクライナの反目し合う歴史と対話を重ねてきた歴史を概説しています。そして、この対話の場があったからこそポーランド社会はウクライナ支援に熱心になることができると説明しています。論壇委員として市原教授はこの点を日本の平和主義と結びつけ、日本は自国の国境外のことに関しては関知しない姿勢を見せてきたと説明しています。また、平和な国際環境を形成するために積極的にこれに寄与すべきだと指摘しています。

民主主義・人権プログラム

民主主義に関する世界的な協力は今後どうなるのか?[in English]

著書名市原麻衣子(Richard Youngs (Coordinator), Idayat Hassan, Julia Keutgen, Sook Jong Lee, and Constanza Mazzinaとの共著)
出版日2023年3月13日

要旨2023年3月13日、Forum 2000に一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授が共著した政策提言書「What Is the Future for Global Cooperation on Democracy?(民主主義に関する世界的な協力は今後どうなるのか?)」が公開されました。教授は、民主主義と自由の分野で著名な研究者や学者とともにこの政策報告書を執筆しています。本稿の全体的な目的は、民主主義に関する協力の現状を評価し、2023年3月下旬の第2回サミット開催以降、民主主義サミット(S4D)をどのように進めるべきかを提言することです。著者達はまず、17の特定テーマに分けられた新しい包括的な「コホート」の意義を示しています。そして、これらのコホートが各地域に与えた全般的な影響を評価した上で、2021年に開催された第1回サミット以降、各国政府の取り組みが不足していることを論じています。また、第2回サミットについては、地域の枠を超えた話し合いの場があまり設けられていないことに懸念を示しています。  第2章では、第1回サミット以降に起きた地政学的変化、すなわちロシアのウクライナ侵攻や中国のゼロコロナ政策の転換を取り上げています。こうした政治的ダイナミクスを踏まえ、市原教授と共著者は、S4Dコホートが民主的協調のハイレベルな側面に焦点を当てる必要があると主張しています。サミットに向けた具体的な提案として著者らは、民主主義国家の幅広い層が民主的協調のためのプロセスの舵取りに主体性を感じることができるよう、リーダーシップを共有するよう求めています。その一つは、各地域の大会において主導国を1カ国ずつ選出し、各地域の主導国が集まって1年間の任期で活動を統括することです。さらに、地域主催者が他の地域機関や市民社会組織と提携することで、招待状を誰に送るかという問題を克服することができると提言しています。 最後に著者等は、S4Dは国家中心のアプローチから、世界の民主主義者を包括的に対象としたアプローチに転換すべきであると主張しています。このことは、市民社会組織だけでなく、グローバル・サウスも含めることを意味します。報告書は、政府間構想として出発したサミットが、さまざまな国家やセクターのアクターを取り込んだ官民ネットワークに変化することを提案しています。これは、S4Dが現在のイニシアチブから外れて、「より戦略的で、より包括的で、より調整された民主的な調整」へと向かうことを意味します。

民主主義・人権プログラム

民主主義の恩恵、論じる場に 市原麻衣子(一橋大学大学院教授)〈多思彩々〉

著書名市原麻衣子
出版日2023年3月12日

要旨2023年3月12日、信濃毎日新聞に一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授の記事「民主主義の恩恵、論じる場に」が掲載されました。教授はまず、3月下旬に開催される民主主義サミットを取り上げ、2021年に初めて民主主義サミットが開催された時から多くの変動があったと述べました。例えば、ロシアのウクライナ侵攻や中国の厳しい新型コロナウイルス政策により、権威主義的な政府が抱える問題が浮き彫りになり、民主主義の魅力が増したと指摘しました。一方、民主主義国がロシアや中国に対抗して連携する姿勢を示したことで、国家間の対立や戦争といった安全保障と関係する負のイメージと民主主義の連関が強まって見えるようになったと論じました。教授は、このような安全保障問題と民主主義を関連させて語るアプローチに懸念を示し、自由主義・民主主義の価値を守るためには、民主主義が個人の生活にもたらすポジティブな効果に関する議論が必要であると主張しました。

グローバルリスク・危機管理プログラム

新START脱退か、継続か 揺さぶるプーチン氏 試される米政権

著書名秋山信将/真田嶺(聞き手)
出版日2022年2月23日

要旨2022年2月23日、朝日新聞に一橋大学国際・公共政策大学院院長・GGR研究員の秋山信将教授のインタビュー記事「新START脱退か、継続か 揺さぶるプーチン氏 試される米政権」が掲載されました。この記事は、ロシアが新戦略兵器削減条約(New START)の停止を決定し、バイデン米大統領がウクライナの首都キーウを電撃訪問した直後に掲載されたものです。秋山教授は、ウクライナ侵攻から1年が経つ今、ロシアの決断をどう受け止め、プーチン氏がなぜあのような行動を取ったのかについて解説しました。さらに、ロシアの履行停止判断は、バイデン政権が掲げる軍縮政策を大きく揺さぶり、米国内の政治的分裂を引き起こす可能性があると述べました。最後に、新STARTの更新交渉がさらに停滞する可能性があり、今後の展開を読み解くには、今回の状況に米国がどう対応するか、さらなる精査が必要であると指摘しました。