その他の研究成果
教養としての法学・国際関係学:学問への旅のはじまり
要旨2024年2月20日に、一橋法学・国際関係学レクチャーシリーズ刊行委員会が編集した『教養としての法学・国際関係学:学問への旅のはじまり』が出版されました。GGRに所属する多くの研究者が本書に寄稿しています。本シリーズは、法学および国際関係学に関心のある人が、分野の全体像を手軽に把握できるようにすることを目的としています。各分野の最新の研究成果やトピックを取り上げつつ、一橋大学大学院法学研究科・法学部の研究力を示すとともに、社会に還元する役割も果たしています。読者はこのシリーズを通じて、現代社会を生き抜くうえで必要な法学および国際関係学の基本的な教養を身につけることができます。
スペイン語圏YouTubeにおける中国国営メディアの存在感の分析[in English]
要旨2024年2月16日に、法学研究科博士課程に在籍するサッシャ・ハニグ・ヌニェズ氏が執筆した論文「スペイン語圏YouTubeにおける中国国営メディアの存在感の分析」がフリーダムハウスから出版されました。本論文でハニグ氏は、中国国営メディアの世界的な拡大が進む中、コンテンツ分析などの手法を用いて、2016年以降に公開された14,000本以上のYouTube動画における中国メディア・グループのスペイン語番組の存在感、リーチ、ナラティブ、戦略を検証しました。China Global Television Network (CGTN)と新華通信社、ホラ・チャイナが公開した動画をケーススタディとして比較分析することを通して、それらのリーチと影響力は限定的であると述べました。また、テーマの絞り込み、視聴者のターゲティング、他国政府のナラティブの増幅など、多様な戦略があるものの、視聴者の関心を引き、フォロワーを増やし、政治的視点をさりげなく主張するために、大量のコンテンツ制作に注力しているという共通点が浮かび上がると指摘しました。
曖昧な「国境」としての香港
要旨2024年2月15日に、法学研究科の市原麻衣子教授が執筆した記事、「曖昧な「国境」としての香港」が『信濃毎日新聞』に掲載されました。本記事で市原教授は、香港の民主活動家の指名手配を事例とし、香港という場所の特殊性に起因して香港が抱える法的・政治的課題に関して論じています。香港返還後も海外との接触が容易で自由を享受する香港人は、党の影響下にある香港政府が強める抑圧に対抗し、特に19年の反政府デモは象徴的事例になったと述べました。また、強まる反政府的な声を抑え込むために、中国共産党は偽情報の拡散を海外にまで拡大させたと指摘しました。さらに市原教授は、香港政府は新しい国家安全保障条例の制定を準備しており、曖昧な国境としての香港を通じて中国共産党が海外への影響拡大を図る動きに懸念を示しました。
ラテンアメリカにおける中国のYouTubeプロパガンダ [in English]
要旨2024年2月13日に、法学研究科博士課程に在籍するサッシャ・ハニグ・ヌニェズ氏が執筆した記事、「ラテンアメリカにおける中国のYouTubeプロパガンダ」がThe Diplomatに掲載されました。本記事でハニグ氏は、中国の国営メディアには共通の目的があり、習近平主席からの指示の下、北京の視点に沿った世論の形成が目指されていると述べました。その中で、中国メディア・グループが運営するスペイン語チャンネルのChina Global Television Network (CGTN)と新華通信社、ホラ・チャイナは、異なる戦略を採用し、視聴者への影響力は限定的であるが、特定のトピックに関する動画はより多くの関心を集めており、例えば、文化的な問題や地域の危機に関する動画は、視聴者からの反応が高い傾向にあると指摘しました。
「影響工作」民主国家の脅威
要旨2024年1月21日に、法学研究科の市原麻衣子教授に関する記事、「『影響工作』民主国家の脅威」が『読売新聞』に掲載されました。この記事は、「影響工作」という言葉は日常生活とは無関係に思われるかもしれないが、実際には深刻な脅威であることを説明しています。例えば、中国が福島原発の処理水を「核汚染水」と呼び、日本産水産物を全面禁輸するなど、様々な手法で日本に対する偽情報を拡散し、日本に影響を及ぼそうとしていたことが挙げられています。さらに影響工作は、民主主義の根幹である選挙にも向けられていると述べた上で、米大統領選におけるロシア、台湾大統領選における中国の選挙介入が偽情報を用いて行われていたことも指摘されています。増大する影響工作の脅威に対して、私たちが取り組むべき対策として、まずアテンション・エコノミーがもたらす弊害を理解すること、次に信頼できる伝統メディアを通じて偽情報の影響力を軽減すること、そして民主主義が弱体化しないように一般市民が意識を高く持ち真の自由に裏打ちされた民主主義を守り続けることの重要性について提言しています。市原教授は、これらの対策は、権威主義国による影響工作への対抗手段として極めて有効であると強調しました。
TikTokの危険性、ラテンアメリカで懸案の議論 [in Spanish]
要旨2024年2月14日に、法学研究科博士課程に在籍するサッシャ・ハニグ・ヌニェズ氏が執筆した記事、「TikTokの危険性、ラテンアメリカで懸案の議論」がLa Terceraに掲載されました。本記事でハニグ氏は、インド、米国、ニュージーランドをはじめとする数十カ国の国々が自国内でのTikTokの使用を制限する中、TikTokはラテンアメリカで非常に高い人気を集めていると指摘し、今後TikTokがラテンアメリカ社会にもたらしうる問題と必要な対策について論じました。ハニグ氏は、まずTikTokの使用が世界的に制限された理由として、中国共産党がTikTokを防衛手段として利用するための法制度を整備したこと、TikTokで宣伝されるあるいは制限されるコンテンツを同社が管理しているのか疑問視されること、TikTokを利用する未成年者数が問題になっていること、という三点を挙げました。結論としてハニグ氏は、ラテンアメリカはTikTokの規制に関する議論に消極的だが、データ保護と各国が直面する地政学的な変化を理解し、包括的な議論を展開する必要があると強調しました。
ラテンアメリカにおける中国のYouTubeプロパガンダ [in English]
要旨2024年2月13日に、法学研究科博士課程に在籍するサッシャ・ハニグ・ヌニェズ氏が執筆した記事、「ラテンアメリカにおける中国のYouTubeプロパガンダ」がThe Diplomatに掲載されました。本記事でハニグ氏は、中国の国営メディアには共通の目的があり、習近平主席からの指示の下、北京の視点に沿った世論の形成が目指されていると述べました。その中で、中央広播電視総台が運営するスペイン語チャンネルの中国国際電視台(China Global Television Network: CGTN)と新華通信社、中国中央電視台(China Central Television: CCTV)は、異なる戦略を採用し、視聴者への影響力は限定的であるが、特定のトピックに関する動画はより多くの関心を集めており、例えば、文化的な問題や地域の危機に関する動画は、視聴者からの反応が高い傾向にあると指摘しました。
TikTokが安全保障に与える影響とTikTok規制の現在
要旨2024年2月1日に、法学研究科博士課程に在籍するサッシャ・ハニグ・ヌニェズ氏と法学研究科の市原麻衣子教授による共著論文、「TikTokが安全保障に与える影響とTikTok規制の現在」が『情報法制研究』から出版されました。本論考でハニグ氏と市原教授はまず、中国政府が企図するナラティブ形成におけるメディアとSNSプラットフォームの役割について論じました。その上で、TikTokが引き起こす懸念について安全保障上の懸念、アルゴリズムとAIの入力バイアス、若年層と誤解を招く情報、民主主義の観点からの議論などの四つの側面から論じました。その後、欧米におけるTikTok規制の内容を検討し、最後に今後日本が取るべき措置について提言しました。日本は、国家安全保障や子どもの権利などを保護しつつ、恣意性を排除することが求められており、そのためにはSNSプラットフォーム分析、中国の国内法が及ぼす影響を視野に入れた規制の検討、プライバシー権保護を巡る法整備が重要であると論じました。
敵対国を内側から攻撃する影響工作:中国が「語らないもの」の政治性
要旨2024年1月25日に、法学研究科の市原麻衣子教授が執筆した記事、「敵対国を内側から攻撃する影響工作:中国が「語らないもの」の政治性」が『nippon.com』に掲載されました。本記事で市原教授は、中国による影響工作の近年における手段・規模の拡大と主な目的について論じています。市原教授は習近平政権下での中国共産党の影響工作は、対外宣伝の強化や対外偽情報の利用など、攻撃的に展開されてきたと述べました。また、香港のデモや新型コロナウイルス流行を受けて国際的な非難が高まる中、中国共産党を美化する一方で米国の対応を批判するナラティブを拡散したと指摘しました。そして、中国共産党が影響工作を行う目的は民主主義国を内側から弱体化させることにあるとした上で、その典型例として処理水の海外放出を巡る偽情報の問題を取り上げました。最後に、影響工作のターゲットは我々個々人であり、情報発信者の政治性を意識したうえで情報を摂取することの重要性を強調しました。
グローバル・ヘルスレジームにおける調査・検証権限の制度的考察
要旨2023年11月25日、法学研究科の秋山信将教授が執筆した論文、「グローバル・ヘルスレジームにおける調査・検証権限の制度的考察」が『国際政治』第211号「ヘルスをめぐる国際政治」に掲載されました。本論文では、国家主権が前面に押し出されてくる国家安全保障上の脅威に近い感染症パンデミック危機の中で、国際レジームの提供する価値と規範の実効性が担保されるための要因が分析されています。秋山教授はまず、国際原子力機関(International Atomic Energy Agency)の包括的保障措置協定の追加議定書や化学兵器禁止条約(Chemical Weapons Convention)のチャレンジ査察の事例を取り上げ、国家主権を制約する制度の導入が可能になる要因として、技術的実現可能性、社会的要請、政治環境、主権国家の裁量が制度的、政治的に可能になっていることを整理しました。次に、国家と世界保健機関(World Health Organization)の関係性の観点から、国際保健規則(International Health Regulations)の改正とパンデミック時の情報共有及び報告をめぐる制度上の問題を論じています。最後に、公衆衛生分野における国際レジームを通じた感染症対策の実効性向上のために、求められる国際機関の役割と国家主権の対立を乗り越えるための方策について提言しています。