その他の研究成果
欧州グリーン・ディールと次世代の若者
要旨2021年7月14日に欧州委員会は、欧州グリーン・ディールの実施を強化する(delivering)ための12施策からなる包括的提案を公表した。その中でも、2035年にハイブリッド車を含むガソリン車などの新車販売の事実上の禁止や環境規制の緩い国からの輸入品に課税する「国境炭素調整メカニズム(CBAM)」の段階的導入などは、ニュースとして取り上げられ、ご存知の方も多いと思う。今回の短文では、欧州グリーン・ディールを次世代の若者との関係で取り上げることにする。
ワクチン外交とグローバル・ヘルス・ガバナンスーパンデミック宣言から1年
要旨本論文では、貧困国へのリーチを重視したロシアや中国のワクチン外交と、中国やロシアの代替品に比べてこの分野で遅れをとっている主にコバックス(COVAX)を中心とした先進民主主義国のワクチン外交を比較している。先進国がワクチンの備蓄という国際社会に対する責任を怠り、権威主義国に貧困国との信頼関係を獲得させたことを指摘している。
クライメート・ポリティクス エコサイドは裁けるか 竹村仁美・一橋大准教授の話
要旨大規模な環境や生態系の破壊行為をエコサイドといい、このエコサイドを重大な国際法上の犯罪と位置づけるために国際刑事裁判所規程の改正を求める声が一部の国際法の専門家から上がっている。しかし、国際刑事裁判所規程の改正のハードルは高く、且つ規程改正後に諸国がその改正を受諾しなくてはならない仕組みとなっている。さらに、現時点でエコサイドは新しい概念であり、慣習国際法上の犯罪と確立しているとは言い難い。政治的にもエコサイドが国際刑事裁判所規程上の犯罪となることで、国際刑事裁判所に参加していない国々が、一層国際刑事裁判所に対する態度を硬化させる可能性もある。こうした難題に対処するには、人道に対する犯罪、戦争犯罪などの規程中の既存の犯罪行為にエコサイドが該当しないかどうか探る方法も考えられるかもしれない。
欧州人権裁判所によるアムネスティの取扱いーアムネスティと重大な人権侵害に対する国家の捜査・訴追義務との関係性
要旨比較的多くの場合、紛争を経験した国では、広範囲にわたる恩赦が移行期の「取引」の一部となっている。これらの恩赦は、国内の政治プロセスにおける元戦闘員間の分裂を減衰し、治安部門の改革を奨励し、和平交渉中にエリートの政治的妥協を可能にするための手段とみなされることが多い。紛争中の破綻国家においては、戦争犯罪や人道に対する犯罪、そして時には集団殺害犯罪(ジェノサイド)などといった国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪に匹敵する人権侵害が行われることも少なくない。他方で、国際刑事法の発展段階は、国際法が関係国家に対して国際法上の犯罪の訴追・処罰を義務づけているかどうかという視座を指標として計られてきた側面がある。国際法上、国家実行において、国際法上の犯罪の取締義務と恩赦との関係は曖昧なままとなってきた。欧州人権裁判所大法廷によれば、現代国際法上、民間人の故意の殺害など、基本的人権の重大な侵害に相当する行為に対する恩赦は、そのような行為を訴追し、処罰する一般に認められている国家の義務とは相容れないため、容認できないと見る傾向が強まっている。本稿では、欧州人権裁判所が、重大な人権侵害を構成する犯罪への締約国による恩赦に対してどのような態度をとっているのかを明らかにしていく。
アメリカにおける男女雇用平等法理の展開―ジリアン・トーマス氏の著書を手がかりとして
要旨『雇用差別と闘うアメリカの女性たちー最高裁を動かした10の物語』を手がかりにし、1964年公民権法(Civil Rights Act of 1964)の第7編の下における性差別法理の展開、関連判例、および現在までの法制の動きの概観。いくつかの事件を除いては、女性が個人として使用者を相手に訴訟を提起したのであり、これらが積み重なって今日まで法理が形成されてきたという点には、アメリカらしさが現れている。
公平性の罠−−日本の高齢者にとってのワクチン予約システムと混乱(英語)
要旨本論文は、日本のワクチン流通システムが直面した政治的、技術的、制度設計上の問題を指摘し、特に高齢者向けの問題を取り上げている。筆者は、公平性よりも個人の特性に焦点を当てた方が、ワクチン接種計画の遂行には良かったのではないかと提案している。
デジタルプラットフォーム規制を巡る欧州の動向
要旨EUの各種デジタルプラットフォーム(DPF)規制改革において、2014年以降から現在の欧州委員会に至るまでのDPF関連制度改革、法案を紹介する。
アジアの多国間主義と民主主義 (スペイン語)
要旨本文論では、2000年代前半までにアジアで構築された制度や協力の枠組みにおいて、具体的な成果が少ないことを指摘する。政治的な不安定さや中国などの権威主義勢力の台頭は、この地域における民主主義の拡大にとっての課題である。これを防ぐための答えは、協力、新興民主主義国の統合、制度化に基づいており、COVID-19の流行により、これはさらに困難になる可能性がある。