【GGRトークセッション】デジタル・イノベーションでSDGsに貢献 ―途上国開発の現場から―
日にち2022年8月4日
時間17:10-18:55
開催場所東キャンパス東2号館2301室/zoom(ハイブリッド形式)
イベント概要

グローバル・ガバナンス研究センターは2022年8月4日に、国連開発計画(United Nations Development Programme: UNDP)でデジタル・イノベーション・スペシャリストとして活躍されている大塚玲奈さんをお迎えして、GGRトークセッションを開催しました。本講演は、夏集中講義「SDGs―理論と実践―(国際政治経済研究)」の一環として開催されました。60名を超える参加者とともに、様々な議論が繰り広げられました。

大塚さんは2004年に一橋法学部をご卒業後、株式会社リクルートにて営業や事業企画を担当されました。その後株式会社エコトワザを設立し、代表取締役に就任されました。エコトワザでの仕事を通じて先進国相手のビジネスが中心であったことを問題意識として持つようになり、途上国相手に技術を送りたいと考えていたそうです。そこで、会社を譲渡し、ハーバード大学大学院修士課程に入学、修了されました。その後UNDPルワンダ事務所での環境専門官を経て、2020年よりUNDP本部にて気候変動やエネルギー問題を担当分野とする、デジタル・イノベーション・スペシャリストとして活躍されています。

講演では、まず国連開発計画とDX(デジタル・トランスフォーメーション)の関連性について言及されました。UNDPでは2030年の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)達成のために、三つのソリューションとして、デジタル、戦略的イノベーション、ファイナンスが挙げられています。その中で大塚さんは、環境エネルギーとデジタルを組み合わせてどのようにイノベーションを起こすかを中心的な仕事として活躍されています。

実際に、途上国では未だに29億人がインターネットアクセスのない生活をしており、政府のデジタル・インフラが高額でデータ共有できないなどの「デジタル」に関わる多様な根本課題を抱えています。デジタルは、民間企業などの一部が取り組む分野だと考えられがちですが、UNDPでは「包括的な社会全体のDX(Inclusive whole of society digital transformation)」というアプローチの下、民間企業だけでなく、政府や市民も重要なアクターだと捉えているということです。先進国ではイノベーションにかかる費用の大部分は民間セクターが拠出している一方で、途上国では公共セクターが9割を拠出しており、その大部分は税金ではなく外部からの資金に依存しています。したがって、いかに内側からイノベーションを起こすかが非常に重要になります。

次に、実際の実務において、デジタル化でどのように気候変動や環境問題に対処しようとしているかが議論となりました。実務上では、まずワークショップやコンサルテーションを実施し、どのようなニーズがあるかに関する調査結果が今年度発表されています。その結果、ニーズとして、デジタル公共財(Digital Public Goods)、ローカルアクション(Local Action)、データに基づく分析と機械学習・人工知能(Data Driven Analytics and ML/AI)の活用という三点へのニーズが高いことが判明したとのことです。このニーズをもとにした新しいアイデアが求められます。

最後に、UNDPが実施している事例が紹介されました。大塚さんが中心的に設立に携わった「UNDPデータ・フューチャーズ・プラットフォーム(UNDP Data Futures Platform)」は、新型コロナウイルス蔓延当初に関連データの欠如がコロナ対策の阻害要因となったことを教訓として、感染症に関する社会経済データをまとめて発信しています。通常プロジェクトは数カ月単位で動くところを、8週間で新しいウェブサイトを設立したところに大きな意義があります。また、ルワンダの気象庁と東京大学との共同プロジェクトも紹介されました。気象データが取れない地域において、農家等に情報を伝達するために、IoTを活用したイノベーションを起こしました。現地の工業高校などの人々が自ら発案して、アイデアのうち二つは気象庁が買い取りを決めるまでに至りました。

 

【その他引用】
イベントでの特筆すべき発言を以下にご紹介します。

  • [環境問題とデジタルの共通点について]共通点は、誰もが影響を受けていること、しかしそのインパクトは「不平等」であること、そして今が未来の方向性を変えられる最後のチャンスであることの三つです。デジタル技術で収入を得るのは先進国である一方で、影響を受けるのはその恩恵を受けていない途上国であるため、ここに根本的な課題があります。
  • [デジタル・イノベーションのアプローチについて]「リーン・スタートアップ」と「デジタル・シンキング」という二つのアプローチを取り入れています。前者では、ユーザーのためになるものを、まずは小さく作ってみて、それを繰り返し改善していきます。うまくいったらならばプロジェクト化するという流れです。しかし、UNDPは、もらったお金を計画通りにやっていかなければならないため、このアプローチと相反してしまいます。そこで、今はイノベーションの新しいパイプラインを形成中です。
  • [ルワンダの気象庁と東京大学との共同プロジェクトについて]UNDP側が提示した解決策ではなく、現地の人々のアイデアを生かすべく、現地の工業高校の人々らを巻き込みました…実際のアイデアとしては、気温などは紙に書いてデータ化するため時差があるため、携帯電話に数値を入力できる仕組みを開発しました。長期的な解決策ではありませんが、このような小さなアイデアが重要です。
  • [途上国への「支援」はどうあるべきかという質問に対して]ルワンダでの経験で答えが見つかったと思います。政府には熱意溢れる人がたくさんいますが、テクニカルなサポートを求めているのが現状です。英語では「Development Partner」と言われますが、徐々に支援するという意識はなくなり、テクニカルなサポートをするという意識を持つようになりました。また。農家などの受益者(Users)と話すときに、実際には何等かのノウハウを持っており、学ぶことも多いです。内側からイノベーションを起こすためにも、どのようなノウハウを持っているかなど相手を理解することが重要です。
  • [国連本部とカントリーオフィスのどちらがより好きかという質問に対して]カントリーオフィスは一つの国にフォーカスできるのが面白いです。ニューヨークにある国連本部ではすべての国と関わるため政治が関連してきます。ぜひ一度カントリーオフィスを経験してみると面白いかもしれません。

 

【イベントレポート作成】
土方祐治(一橋大学国際・公共政策大学院 修士課程)