グローバルリスク・危機管理プログラム
【GGRウェビナー】ロシア・ウクライナ戦争に見る正義 ー国際法と規範の観点から
日にち2022年6月8日
時間15:00-16:00
開催場所zoom
イベント概要

一橋大学グローバル・ガバナンス研究センターは2022年6月8日、酒井啓亘教授(京都大学大学院法学研究科)、竹村仁美准教授(一橋大学大学院法学研究科)、市原麻衣子教授(一橋大学大学院法学研究科)をお招きし、秋山信将教授(一橋大学国際公共政策大学院院長)の司会でGGRウェビナー「ロシア―ウクライナ戦争にみる正義―国際法と規範の観点から」を開催しました。

ウェビナーは参加者へのアンケートから始まりました。「ロシアのウクライナ侵略について、どのアクターの責任が問われるべきだと思いますか」という質問に、「ロシア」だと答えた割合が圧倒的に多数であったものの、ウクライナ、アメリカ、NATOと答えた割合がそれぞれ10%ずつでした。その後パネルセッションに移り、国際法における侵略、正義と国際法との関係、戦争犯罪処罰の可能性、国際政治の視点から規範や秩序がどのように維持されるのかに関する議論が行われました。

国際法からみた「侵略」とは何かという問いに関して、酒井啓亘教授は「正義」ではなく「法」による規律の意義を論じました。正戦論(just war)から戦争の違法化に至るまでの過程を論じ、武力行使禁止原則などを踏まえてロシアの軍事行動が侵略だと認定した今年の国連総会決議に言及したうえで、それを超えて戦争中に戦争を評価したり正義を語るのは国際秩序の変化を起こす手段としての戦争を正当化する危険性を孕むと分析しました。

ウクライナ事態が国際刑事裁判所において裁定される可能性に関して、竹村仁美准教授はウクライナが管轄権受諾宣言をしている一方、(ローマ規定の)非締約国であるウクライナ事態は(侵略犯罪を除いた)戦争犯罪、人道に対する犯罪、集団殺害犯罪のみが捜査・訴追対象となる点、現職の国家元首の身柄確保が困難な点に踏まえ、裁判所の実効性を高めていくためには関係国の協力が不可欠であることを指摘しました。そして、裁判の利益の判断や考慮すべき事項、東京裁判・ニュルンベルク裁判以降の国際刑事裁判所の意義を論じました。

最後に、市原麻衣子教授は、ロシアの侵略をウクライナが防止することは侵略行為自体を認めない実行として国際秩序の維持に繋がっており、侵略戦争が生じた場合、国際社会がその行為を明確に例外化していくことの重要性を論じました。また、自由で包摂的な社会は秩序がある上で成り立つということを踏まえ、国際社会の構成員たる国家が規範に対するコミットメントを示し続け、主権を強硬に保ちながら、国家概念をあきらめないことの重要性を指摘しました。

 

特筆すべき発言

  • (秋山信将教授)多くの疑問があるわけですけれども、これらは単に国家間のパワーポリティックスの問題として解決ということではなく、人類が長い間国際社会における平和を追求する中で築き上げてきた法や規範なども、それなりに意味があることだと思うわけです。
  • (酒井啓亘教授)国際社会における正義と法というのは、実際には正義の方が先行する場合が多く、法はそれを後追いすることになります。しかし、正義の方に依るというのは、なかなか難しいでしょう。それは、国際社会が国家を中心に動いているという現実があります。そのなかで(国際法が)法として発展していくわけであって、その少しずつ発展しているものをなんとか軌道に乗せて、国家にそれを守らせていくことが重要であります。
  • (竹村仁美准教授)伝統的には戦後の処理ということは国家間で行われてきたわけですが、国家の責任を追及してどこの国が悪いという形で処理すると、国家間や民族間に憎悪を残してしまいます。臨時の裁判所でなく常設の国際刑事裁判所で裁く意義は、個人にこの問題を限定することによって国民感情を克服するということが指摘でき、裁判の公平性や法の平等適用の確保という点ではないかと考えております。
  • (市原麻衣子教授)国内社会においては、構成員たる人々の上に制度が存在し強制力を持っているわけなので、それに対して懲罰を加えそれを例外化することで秩序を保つことができます。国際社会においては、構成員たる諸国家の上に政府が存在しないわけですので、どうやって秩序がもたらされるのかというと、構成員たる主権国家が規範にコミットする形で規範の維持をなんとか行っているわけです。

【イベントレポート作成】
チョン・ミンヒ(一橋大学大学院法学研究科 博士後期課程)

 

イベント動画