その他の研究成果
日本における偽情報への対処法 -ロシア・ウクライナ戦争からの教訓[英文]
要旨2022年12月に『アジアの民主主義に対する偽情報の影響(英語名:Impact of Disinformation on Democracy in Asia)』レポートが出版され、一橋大学大学院法学研究科の市原麻衣子教授の論稿が掲載されました。教授はまず、ロシア・ウクライナ戦争に関するロシアの偽情報やプロパガンダが、いかに日本の言説空間を混乱させているかを示しています。この情報操作の影響は日本では前例がなく、情報操作の課題と適切な対応策を分析する上で有益なケーススタディであると指摘しています。このような背景から、本稿では、ロシア・ウクライナ戦争に関連する日本の情報操作の状況、現在の情報操作への対策、および課題を克服するための推奨政策について論じています。
キューバ危機60年 その教訓は?―「第三者」に大事な役割
要旨2022年10月10日に発売された中日新聞に一橋大学大学院法学研究科の青野利彦教授の記事「キューバ危機60年 その教訓は?―「第三者」に大事な役割」が掲載されました。教授は記事の中で、キューバ危機においては第三者が重要な役割を果たした面があり、現在起こっている大国間の対立においても第三者が活躍できる可能性があると論じました。まず、教授はキューバ危機に至るまでの経緯を詳細に振り返り、米ソの両者が目論みと違う結果を招いたことによって危機が深刻化したと述べました。また、この危機の中で第三国には危機の展開を左右する余地はなかったと考えられてきましたが、実際は「そうではなかった」と主張しました。例えば、キューバ危機においては英国や国連が米ソの軍事力衝突に至らないように懸命に動きました。これを受けて、近年の大国間対立においても第三国の市民が重要な役割を果たす可能性があると強調しました。
ルックバック2002
要旨2022年12月8日に岩波書店が発行している雑誌『世界』の2023年1月号が出版され、一橋大学大学院法学研究科の権容奭准教授の論文が掲載されました。日韓・日朝・北米関係が安定しない今日の世の中を省みて、教授はタイトルの通り、時を2002年に戻したいとを述べられています。その理由として21世紀に突入する頃から日韓で友好ムードが広がり、W杯が共同開催されたことを取り上げます。さらには、2002年に発表された日朝平壌宣言は日朝関係が正常化する可能性を秘めていたと論じます。教授は、この日韓と南北・日朝と東アジアが連動するパラダイムを「幻の2002年体制」と称し、この体制に「再接続」するためには2002年の出来事を振り返りながら、市民的連帯に期待しなければいけないと主張しました。
流行っています:テクノクラシー 〜ジェネレーションXのテクノクラシー的統治への嗜好は、将来の権威主義への新たな道が開けることにつながるか?[英語]
要旨2022年12月2日にGGRアシスタントのサッシャ・ハニグ・ヌニェスの記事が、自由民主主義の促進と擁護を目的とする英文雑誌『American Purpose』に投稿されました。本稿でハニグ・ヌニェス氏は、若い世代が選挙で選ばれた政治家よりもテクノクラシーを好む傾向があることを指摘し、こうした傾向が非自由主義的あるいは権威主義的な政府を正当化し、選挙で選ばれた議員の重要性を損なわせることになると警告しました。また、フェイクニュースや偽情報がいかに民主主義における政治家の拒絶に寄与しているか、そして最近のパンデミックがこの傾向をさらに推し進めたかを示しました。民主主義の崩壊を防ぐために、テクノクラートへの支持を潜在的な脅威として完全なる排除を目指すのではなく、民主主義国家の軸として再認識し、活用すべきだとハニグ・ヌニェス氏は主張しました。
キューバ危機60年 その教訓は?―「第三者」に大事な役割
要旨2022年10月10日に発売された中日新聞に一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の青野利彦教授の記事「キューバ危機60年 その教訓は?―「第三者」に大事な役割」が掲載されました。教授は記事の中で、キューバ危機においては第三者が重要な役割を果たした面があり、現在起こっている大国間の対立においても第三者が活躍できる可能性があると論じました。まず、教授はキューバ危機に至るまでの経緯を詳細に振り返り、米ソの両者が目論みと違う結果を招いたことによって危機が深刻化したと述べました。また、この危機の中で第三国には危機の展開を左右する余地はなかったと考えられてきましたが、実際は「そうではなかった」と主張しました。例えば、キューバ危機においては英国や国連が米ソの軍事力衝突に至らないように懸命に動きました。これを受けて、近年の大国間対立においても第三国の市民が重要な役割を果たす可能性があると強調しました。
『中国的民主』の挑戦(2)
要旨2022年11月に『一橋法学』の最新号が出版され、一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の但見亮教授の論文が掲載されました。本稿では、中国外交部が出した白書「美国民主情況」の内容を詳細に検討しています。教授は、その目的を「美国」の「民主情況」自体を分析することではなく、中国外交部による「美式民主」(American-style Democracy)批判の内容及びその様相の検討を通じて、中国(外交部)の「民主」論を明らかにするというように位置付けています。この考察を通じて、「美式」に替わる新たな「普遍」として示される「中国式」の絵姿ないしその位置づけ、そしてその先に浮かぶ世界の今後についても展望することを目的としています。
法人は、取締役になることができないのか?(2・完)
要旨2022年11月に『一橋法学』の最新号が出版され、一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の酒井太郎教授の論文が掲載されました。本稿は、『一橋法学』7月号に掲載された先生の論考の後編となっています。日本の会社法では、法人が取締役になることは認められていません(第331条第1項第1号)。本稿では、この規定が理論的に正当化されるのかどうかを検討しています。また、法人が取締役になることに政策的な正当性、技術的な意義があるのかについても検討しています。この問題は古くから議論されてきましたが、2005年の会社法制定に伴い、議論のベースとなる規制の主要な構造が大きく変化しています。本稿では、この会社規則の変更が、これまでの議論で説明されてきた合理性に影響を与えるかどうかという観点から、株式会社の取締役適格性について議論しています。
EU法研究 第12号
要旨2022年9月に一橋大学大学院法学研究科教授・GGR研究員の中西優美子教授が責任編集を担ったEU法研究の最新号が出版されました。この最新号には「COVID-19と法」という特集が含まれており、ワクチンの緊急承認に関する論稿から、憲法、会社法等、コロナ禍におけるEU法の最新の進展が広く検討されています。さらに〈最新動向〉として、再生可能エネルギーに関する論稿も掲載され、益々充実化しました。また、GGR客員研究員である佐藤以久子教授もEU送還指令に関する論稿を本雑誌に投稿されています。
ミャンマー国軍が囚人を解放した意図は ーASEANに求められる姿勢
要旨2022年11月24日、朝日新聞に一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授の記事が掲載されました。ミャンマー国軍が長い間拘束していた日本人の映画作家久保田徹さんが、11月17日に国軍の「恩赦」対象者5800名のうちの一人として釈放されました。市原教授は、この「恩赦」釈放の裏にはASEANがミャンマー軍事政権指導者を「ミャンマー政府トップ」として認識し、ASEAN会議に招く道を開こうとしている国軍の意図があると指摘しました。また、メディアの関心から外れつつあるミャンマーの問題に注目を集め、ASEANを中心としてアジア外交を展開するためには、地域の国が一体となってミャンマー軍事政権を包囲する必要があると強調しました。最後に、民間アクターと協力しながら、ミャンマー難民の受け入れを加速することによってASEANの中心性を主張できるとしました。
リアリズムの誘惑、リベラリズムの憂鬱 問われる核の役割
要旨2022年11月18日に世界のあらゆる問題を取り上げる雑誌『アステイオン』がウクライナ戦争の特集号を出版し、秋山教授の論文が掲載されました。ロシアのウクライナ侵攻によって核兵器の使用及びその役割について多くの議論が展開されてきました。教授はまず、戦時に核保有がもたらす影響を考えるための枠組みを解説し、これを踏まえてロシアのウクライナ侵攻における核戦力の運用を検討しました。ロシアは核の存在を強く意識させるシグナルを何度も送り続けたと指摘し、このシグナリングが米欧の行動をある程度抑止してきたと主張しました。しかし、同時にロシアが作り出した「安定・不安定のパラドクス」は自国の行動を抑止するきっかけにもなっていると説明しました。次に、教授はウクライナ戦争が核軍備管理体制に及ぼしてきた影響と、米ロ双方の動きが国際秩序にもたらす長期的な影響を概説しました。その一つとして、リベラルな国際秩序の中でリアリズム的勢力均衡型秩序を温存してきたということが挙げられます。さらに、核に関する「正義」の議論がいかに相対的かということをTPNWにおける各国の姿勢を踏まえて指摘し、核が「ダブル・スタンダード」で見られていると強調しました。最後に、米ロの対立に加え、米中間でも緊張が高まっていることを考慮し、核がもたらす影響がエスカレートする中で米ロ中の競争と対立を守るためのルールが提供されるべきだと論じました。