その他の研究成果
G7核軍縮に関する広島ビジョン 異なる立場の対話尊重を
要旨2023年5月21日、東京新聞に国際・公共政策大学院長及び法学研究科教授でGGR研究員の秋山信将教授のインタビュー記事「G7核軍縮に関する広島ビジョン 異なる立場の対話尊重を 秋山信将・一橋大教授」が掲載されました。この記事は、G7広島サミットにおける核軍縮に関する議論が持つ課題について論じています。秋山教授は、広島サミットではG7の7カ国だけでなく招待国や国際機関も含めた形で、核軍縮への姿勢を示すことが重要だと説明します。また、現在の安全保障環境下でG7首脳が被爆の実相に触れる意義も指摘しました。最後に、首脳声明や広島ビジョンでは核拡散防止条約体制を堅持することが確認されたと指摘し、さらなる協調的施策が求められる中で、立場が異なる国々の対話の場を尊重することが核なき世界に近づく道だと論じました。
中国の技術、機会か危機か(スペイン語)
要旨2023年5月13日に、GGRアシスタントでチリの国際アナリストであるサッシャ・ハニグ・ヌニェズ氏の「中国の技術、機会か危機か(スペイン語)」と題された論考が、アルゼンチンの日刊紙『ラ・ナシオン』に掲載されました。ハニグ・ヌニェズ氏は、他の地域の事例を参考に、ラテンアメリカ地域諸国と中国のテック企業の連携について議論しています。まず、中国企業の特徴として、中国国内外を問わず、企業が収集した情報を中国共産党に対して提供する義務があることを挙げました。このため、ファーウェイやZTEは、情報セキュリティーに関する疑念を払しょくできず、オーストラリア、アメリカ、イギリス、そして日本などの多くの国で、国内ネットワークへの参加が禁止される事例が相次いでいると説明しています。一方で、ラテンアメリカ地域では、どの国家の企業を採用するべきかについて議論が続いていると指摘します。中国企業が価格やサービスにおける魅力を持っていることに加えて、中国政府のラテンアメリカ地域に与える影響力が増していることから、今後地域の政府が中国企業と連携する可能性は低くないと述べました。最後に、ハニグ・ヌニェズ氏は、中国のテック企業の進出に関する一国の決定は、ラテンアメリカ地域全体に影響を及ぼすと指摘し、地域枠組みレベルの議論が必要だと論じました。
核なき世界へ、たとえ遠回りでも 広島サミット、日本の研究者の期待
要旨2023年5月18日、朝日新聞に国際・公共政策大学院長及び法学研究科教授でGGR研究員の秋山信将教授のインタビュー記事「核なき世界へ、たとえ遠回りでも 広島サミット、日本の研究者の期待」が掲載されました。この記事は、「核なき世界」へ向けて、G7が発信すべき内容を論じています。まず、秋山教授は、大国間と地域における緊張の高まりを踏まえると、直線的な「核なき世界」への進展はおそらくないだろうと論じました。その上で、いかなる状況でも核兵器が最終的に使われなかったという実績を積み上げていくことは、遠回りで遅い歩みのように見えるものの、「核なき世界」の実現のためには大切なことだと述べました。また、核の分野において新興国と途上国との連携を強化するためには、各国が置かれている地政学的なリスクの相違に起因する、核兵器に対する認識の差を埋めることが重要だと強調しました。加えて、中国の保有する核兵器については、情報開示が乏しいことから、透明性の面で大きな問題があると説明しました。
ディストピア ―現実とフィクションの混合 [in Spanish]
要旨2023年3月20日に、GGRアシスタントで国際アナリストのサッシャ・ハニグ・ヌニェズ氏の論考「ディストピア ―現実とフィクションの混合」がスペインの文学批評ジャーナル『Cuadernos Hispanoamericanos』に掲載されました。ハニグ・ヌニェズ氏は、哲学、政治、文学などの資料を議論の出発点として参照しながら、研究分野、時代、地理を縦横無尽に越境し、ディストピアの概念について論じています。まず、J・S・ミルのディストピアの思想的淵源にT・モアのユートピア概念との共通性を発見します。また、権威主義政権における管理の経験がディストピア作品に反映されてきたと論じ、ソ連のY・ザミャーチンからチリのJ・バラディットまでにこの特徴を見出します。テクノロジーの発展は抑圧の手段をも発展させ、例えばクローン技術を取り入れたカズオ・イシグロの文学作品にも反映されていると指摘しています。最後に、ハニグ・ヌニェズ氏は、オーウェルが描いたような世界が現実で起こりつつあると述べるとともに、ディストピアが過度に使用されることは、鮮烈無比な意味を持つ言葉の陳腐化を招く可能性があると警句を述べました。
アジア太平洋における新たな戦略的リスクと核不拡散体制への影響―日本からの視点[in English]
要旨2023年3月6日、Asia-Pacific Leadership Network(ALPN)に一橋大学国際・公共政策大学院院長・GGR研究員の秋山信将教授の報告書「Emerging strategic risks in the Asia-Pacific and the impact on the nuclear non-proliferation regime: The Japanese perspective」(英文)が掲載されました。ALPNは、アジア太平洋地域を拠点とする政治、外交、そして軍部の元リーダー、現リーダー、さらには学者やオピニオンリーダーからなるネットワークです。このネットワークは、核兵器が世界にもたらす脅威について考慮を促すために世論に情報を提供すること、そして最終的には核兵器の使用を廃絶することを目的としています。秋山教授は、ALPNのメンバーとして、アジア太平洋における核の状況を日本の視点から捉えて説明することを目的に、当報告書を執筆されました。
ウクライナの事態と国際刑事裁判所
要旨2023年3月20日に、一橋大学法学研究科教授・GGR研究員の竹村仁美教授の論文「ウクライナの事態と国際刑事裁判所」が『九州国際大学法学論集』第29巻1・2合併号に掲載されました。竹村教授はまず、ウクライナとロシアが国際刑事裁判所規程の非締約国であるものの、ウクライナが規程に基づいて国際刑事裁判所の管轄権を受諾していたこと、そして43締約国が事態を付託したことによって国際刑事裁判所による捜査が開始されたと指摘しました。ただし、国際刑事裁判所には補完性の原則や人的管轄、事項的管轄、実効性といった点において限界もあると論じました。加えて、証拠の精査の困難さからジェノサイド罪の認定が難しい一方で、不足している証拠の収集のために国際協力枠組みが促進されているとも論じました。また、国際司法裁判所との紛争の同時係属について、ジェノサイド条約に関する国家の義務の履行・不履行が問題となっていると指摘しました。最後に、教授は補完性の原則を踏まえ、国内での捜査・訴追による国際法上の犯罪の不処罰撲滅が第一義的には重要となり、国際刑事裁判所の実効性と効率性を計るには長期的視座が必要だと論じました。
抑圧下の市民の声も聞いて 軽井沢でG7外相会合
要旨2023年4月16日の信濃毎日新聞に一橋大学大学院法学研究科教授・GGR研究員の市原麻衣子教授の記事「抑圧下の市民の声も聞いて 軽井沢でG7外相会合」が掲載されました。市原教授は、4月中旬より開催されるG7外相会合及びその後のG7サミットを見据えて、G7議長国として国際社会をリードしていくために日本政府が実施すべき政策の方針を述べました。まず、2023年3月20日に岸田首相が発表した自由で開かれたインド太平洋(FOIP)のための新たなプランにおいて中核として位置づけられている「自由」と「法の支配」の重要性を説き、その実現のためには「各国の歴史的・文化的多様性の尊重」が欠かせないと説明しました。一方で、相手国の文化の尊重には、単に相手国政府の主張を受け入れることだけではなく、相手国の市民の声にも耳を傾けることが要されると述べました。そのために必要となる民間アクターとの連携には、関連アクターが集まって立ち上げた「サニーランズ・イニシアティブ」と協働することが、日本政府にとって有効な手段となるとの見解を示しました。
中国法の視点から‐「中国式法治」とは何か
要旨2023年2月に、一橋大学法学研究科教授・GGR研究員の但見亮教授の論文「中国法の視点から‐「中国式法治」とは何か」が『比較法研究』第83巻に掲載されました。 但見教授は、香港国家安全維持法を「香港の中国化」と位置づけ、「中国化」の基準となる中国の「法治」と「民主」について考察しています。教授はまず、中国における「法治」は中国共産党指導の下、党の政策目標の実現を目指すものだと説明します。また、「民主」に関しては、「統一」や「団結」が強調され、党と一体的に位置づけられていると論じました。このように、中国式の「統治」と「民主」は民主主義国家のそれとは相当程度異なる概念だと述べました。 また、教授は習近平指導部発足後の「新時代」における権力集中や昨今のゼロコロナ政策は、これらの概念の変化を示さないと指摘します。むしろ党の指導による「法治」とそのもとで全体の利益の促進を目指す「民主」が強化・貫徹されている証左だと論じました。
反目の歴史、対話重ねた先に ウクライナを積極支援するポーランド
要旨2023年3月22日、朝日新聞の「#論壇」というコラムにおいて一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授が載せたコメントが紹介されました。教授がコメントをした記事はポーランド人が示したウクライナ人に対する手厚い支援を題材としています。この記事において、京都大学教授でポーランド近世史を専門としている小山哲教授がポーランドとウクライナの反目し合う歴史と対話を重ねてきた歴史を概説しています。そして、この対話の場があったからこそポーランド社会はウクライナ支援に熱心になることができると説明しています。論壇委員として市原教授はこの点を日本の平和主義と結びつけ、日本は自国の国境外のことに関しては関知しない姿勢を見せてきたと説明しています。また、平和な国際環境を形成するために積極的にこれに寄与すべきだと指摘しています。
民主主義に関する世界的な協力は今後どうなるのか?[in English]
要旨2023年3月13日、Forum 2000に一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授が共著した政策提言書「What Is the Future for Global Cooperation on Democracy?(民主主義に関する世界的な協力は今後どうなるのか?)」が公開されました。教授は、民主主義と自由の分野で著名な研究者や学者とともにこの政策報告書を執筆しています。本稿の全体的な目的は、民主主義に関する協力の現状を評価し、2023年3月下旬の第2回サミット開催以降、民主主義サミット(S4D)をどのように進めるべきかを提言することです。著者達はまず、17の特定テーマに分けられた新しい包括的な「コホート」の意義を示しています。そして、これらのコホートが各地域に与えた全般的な影響を評価した上で、2021年に開催された第1回サミット以降、各国政府の取り組みが不足していることを論じています。また、第2回サミットについては、地域の枠を超えた話し合いの場があまり設けられていないことに懸念を示しています。 第2章では、第1回サミット以降に起きた地政学的変化、すなわちロシアのウクライナ侵攻や中国のゼロコロナ政策の転換を取り上げています。こうした政治的ダイナミクスを踏まえ、市原教授と共著者は、S4Dコホートが民主的協調のハイレベルな側面に焦点を当てる必要があると主張しています。サミットに向けた具体的な提案として著者らは、民主主義国家の幅広い層が民主的協調のためのプロセスの舵取りに主体性を感じることができるよう、リーダーシップを共有するよう求めています。その一つは、各地域の大会において主導国を1カ国ずつ選出し、各地域の主導国が集まって1年間の任期で活動を統括することです。さらに、地域主催者が他の地域機関や市民社会組織と提携することで、招待状を誰に送るかという問題を克服することができると提言しています。 最後に著者等は、S4Dは国家中心のアプローチから、世界の民主主義者を包括的に対象としたアプローチに転換すべきであると主張しています。このことは、市民社会組織だけでなく、グローバル・サウスも含めることを意味します。報告書は、政府間構想として出発したサミットが、さまざまな国家やセクターのアクターを取り込んだ官民ネットワークに変化することを提案しています。これは、S4Dが現在のイニシアチブから外れて、「より戦略的で、より包括的で、より調整された民主的な調整」へと向かうことを意味します。