その他の研究成果

ウクライナの事態と国際刑事裁判所

著書名竹村仁美
出版日2023年3月20日

要旨2023年3月20日に、一橋大学法学研究科教授・GGR研究員の竹村仁美教授の論文「ウクライナの事態と国際刑事裁判所」が『九州国際大学法学論集』第29巻1・2合併号に掲載されました。竹村教授はまず、ウクライナとロシアが国際刑事裁判所規程の非締約国であるものの、ウクライナが規程に基づいて国際刑事裁判所の管轄権を受諾していたこと、そして43締約国が事態を付託したことによって国際刑事裁判所による捜査が開始されたと指摘しました。ただし、国際刑事裁判所には補完性の原則や人的管轄、事項的管轄、実効性といった点において限界もあると論じました。加えて、証拠の精査の困難さからジェノサイド罪の認定が難しい一方で、不足している証拠の収集のために国際協力枠組みが促進されているとも論じました。また、国際司法裁判所との紛争の同時係属について、ジェノサイド条約に関する国家の義務の履行・不履行が問題となっていると指摘しました。最後に、教授は補完性の原則を踏まえ、国内での捜査・訴追による国際法上の犯罪の不処罰撲滅が第一義的には重要となり、国際刑事裁判所の実効性と効率性を計るには長期的視座が必要だと論じました。

民主主義・人権プログラム

抑圧下の市民の声も聞いて 軽井沢でG7外相会合

著書名市原麻衣子
出版日2023年4月16日

要旨2023年4月16日の信濃毎日新聞に一橋大学大学院法学研究科教授・GGR研究員の市原麻衣子教授の記事「抑圧下の市民の声も聞いて 軽井沢でG7外相会合」が掲載されました。市原教授は、4月中旬より開催されるG7外相会合及びその後のG7サミットを見据えて、G7議長国として国際社会をリードしていくために日本政府が実施すべき政策の方針を述べました。まず、2023年3月20日に岸田首相が発表した自由で開かれたインド太平洋(FOIP)のための新たなプランにおいて中核として位置づけられている「自由」と「法の支配」の重要性を説き、その実現のためには「各国の歴史的・文化的多様性の尊重」が欠かせないと説明しました。一方で、相手国の文化の尊重には、単に相手国政府の主張を受け入れることだけではなく、相手国の市民の声にも耳を傾けることが要されると述べました。そのために必要となる民間アクターとの連携には、関連アクターが集まって立ち上げた「サニーランズ・イニシアティブ」と協働することが、日本政府にとって有効な手段となるとの見解を示しました。

中国法の視点から‐「中国式法治」とは何か

著書名但見亮
出版日2023年2月

要旨2023年2月に、一橋大学法学研究科教授・GGR研究員の但見亮教授の論文「中国法の視点から‐「中国式法治」とは何か」が『比較法研究』第83巻に掲載されました。 但見教授は、香港国家安全維持法を「香港の中国化」と位置づけ、「中国化」の基準となる中国の「法治」と「民主」について考察しています。教授はまず、中国における「法治」は中国共産党指導の下、党の政策目標の実現を目指すものだと説明します。また、「民主」に関しては、「統一」や「団結」が強調され、党と一体的に位置づけられていると論じました。このように、中国式の「統治」と「民主」は民主主義国家のそれとは相当程度異なる概念だと述べました。 また、教授は習近平指導部発足後の「新時代」における権力集中や昨今のゼロコロナ政策は、これらの概念の変化を示さないと指摘します。むしろ党の指導による「法治」とそのもとで全体の利益の促進を目指す「民主」が強化・貫徹されている証左だと論じました。

民主主義・人権プログラム

反目の歴史、対話重ねた先に ウクライナを積極支援するポーランド

著書名市原麻衣子
出版日2023年3月22日

要旨2023年3月22日、朝日新聞の「#論壇」というコラムにおいて一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授が載せたコメントが紹介されました。教授がコメントをした記事はポーランド人が示したウクライナ人に対する手厚い支援を題材としています。この記事において、京都大学教授でポーランド近世史を専門としている小山哲教授がポーランドとウクライナの反目し合う歴史と対話を重ねてきた歴史を概説しています。そして、この対話の場があったからこそポーランド社会はウクライナ支援に熱心になることができると説明しています。論壇委員として市原教授はこの点を日本の平和主義と結びつけ、日本は自国の国境外のことに関しては関知しない姿勢を見せてきたと説明しています。また、平和な国際環境を形成するために積極的にこれに寄与すべきだと指摘しています。

民主主義・人権プログラム

民主主義に関する世界的な協力は今後どうなるのか?[in English]

著書名市原麻衣子(Richard Youngs (Coordinator), Idayat Hassan, Julia Keutgen, Sook Jong Lee, and Constanza Mazzinaとの共著)
出版日2023年3月13日

要旨2023年3月13日、Forum 2000に一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授が共著した政策提言書「What Is the Future for Global Cooperation on Democracy?(民主主義に関する世界的な協力は今後どうなるのか?)」が公開されました。教授は、民主主義と自由の分野で著名な研究者や学者とともにこの政策報告書を執筆しています。本稿の全体的な目的は、民主主義に関する協力の現状を評価し、2023年3月下旬の第2回サミット開催以降、民主主義サミット(S4D)をどのように進めるべきかを提言することです。著者達はまず、17の特定テーマに分けられた新しい包括的な「コホート」の意義を示しています。そして、これらのコホートが各地域に与えた全般的な影響を評価した上で、2021年に開催された第1回サミット以降、各国政府の取り組みが不足していることを論じています。また、第2回サミットについては、地域の枠を超えた話し合いの場があまり設けられていないことに懸念を示しています。  第2章では、第1回サミット以降に起きた地政学的変化、すなわちロシアのウクライナ侵攻や中国のゼロコロナ政策の転換を取り上げています。こうした政治的ダイナミクスを踏まえ、市原教授と共著者は、S4Dコホートが民主的協調のハイレベルな側面に焦点を当てる必要があると主張しています。サミットに向けた具体的な提案として著者らは、民主主義国家の幅広い層が民主的協調のためのプロセスの舵取りに主体性を感じることができるよう、リーダーシップを共有するよう求めています。その一つは、各地域の大会において主導国を1カ国ずつ選出し、各地域の主導国が集まって1年間の任期で活動を統括することです。さらに、地域主催者が他の地域機関や市民社会組織と提携することで、招待状を誰に送るかという問題を克服することができると提言しています。 最後に著者等は、S4Dは国家中心のアプローチから、世界の民主主義者を包括的に対象としたアプローチに転換すべきであると主張しています。このことは、市民社会組織だけでなく、グローバル・サウスも含めることを意味します。報告書は、政府間構想として出発したサミットが、さまざまな国家やセクターのアクターを取り込んだ官民ネットワークに変化することを提案しています。これは、S4Dが現在のイニシアチブから外れて、「より戦略的で、より包括的で、より調整された民主的な調整」へと向かうことを意味します。

民主主義・人権プログラム

民主主義の恩恵、論じる場に 市原麻衣子(一橋大学大学院教授)〈多思彩々〉

著書名市原麻衣子
出版日2023年3月12日

要旨2023年3月12日、信濃毎日新聞に一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授の記事「民主主義の恩恵、論じる場に」が掲載されました。教授はまず、3月下旬に開催される民主主義サミットを取り上げ、2021年に初めて民主主義サミットが開催された時から多くの変動があったと述べました。例えば、ロシアのウクライナ侵攻や中国の厳しい新型コロナウイルス政策により、権威主義的な政府が抱える問題が浮き彫りになり、民主主義の魅力が増したと指摘しました。一方、民主主義国がロシアや中国に対抗して連携する姿勢を示したことで、国家間の対立や戦争といった安全保障と関係する負のイメージと民主主義の連関が強まって見えるようになったと論じました。教授は、このような安全保障問題と民主主義を関連させて語るアプローチに懸念を示し、自由主義・民主主義の価値を守るためには、民主主義が個人の生活にもたらすポジティブな効果に関する議論が必要であると主張しました。

グローバルリスク・危機管理プログラム

新START脱退か、継続か 揺さぶるプーチン氏 試される米政権

著書名秋山信将/真田嶺(聞き手)
出版日2022年2月23日

要旨2022年2月23日、朝日新聞に一橋大学国際・公共政策大学院院長・GGR研究員の秋山信将教授のインタビュー記事「新START脱退か、継続か 揺さぶるプーチン氏 試される米政権」が掲載されました。この記事は、ロシアが新戦略兵器削減条約(New START)の停止を決定し、バイデン米大統領がウクライナの首都キーウを電撃訪問した直後に掲載されたものです。秋山教授は、ウクライナ侵攻から1年が経つ今、ロシアの決断をどう受け止め、プーチン氏がなぜあのような行動を取ったのかについて解説しました。さらに、ロシアの履行停止判断は、バイデン政権が掲げる軍縮政策を大きく揺さぶり、米国内の政治的分裂を引き起こす可能性があると述べました。最後に、新STARTの更新交渉がさらに停滞する可能性があり、今後の展開を読み解くには、今回の状況に米国がどう対応するか、さらなる精査が必要であると指摘しました。

民主主義・人権プログラム

若い世代の政治文化の変化が民主主義への信頼の喪失、技術主義的な代替案への好みを誘発[英語]

著書名サッシャ・ ハニグ・ヌニェズ
出版日2023年2月

要旨2023年2月、モンゴル政治教育アカデミーは、GGRリサーチアシスタント兼チリ人国際アナリストのサッシャ・ハニグ・ヌニェズ氏によるレポート「若い世代の政治文化の変化が民主主義への信頼の喪失と技術主義的代替案への好みを誘発」を掲載しました。この詳細なレポートの中で、ヌニェズ氏は、政治文化に関する議論の中心であるべき若い世代に注目しています。なぜなら、地政学的緊張関係や 民主主義国家の弱体化など、現代世界で見られる政治的傾向の影響を最も受ける世代だからだと説明しています。彼女は、この世代は、特に先進国では政治的指導者よりもテクノクラティック指導者に投票する傾向があるが、最近成立した民主主義国家では様々な傾向があることを指摘しています。この状況をより包括的に理解するためには、他の要因も考慮する必要があるとしながらも、若い世代が政策決定のための従来の民主主義のメカニズムに対して示す信頼の欠如を見過ごすことはできず、政府の指導者はこの状況をもっと深刻に受け入れるべきだとヌニェズ氏は主張します。

書評:The Dictator’s Dilemma at the Ballot Box: Electoral Manipulation, Economic Maneuvering, and Political Order in Autocracies [in English]

著書名ウ・ユジン
出版日2023年2月

要旨2023年2月に一橋大学大学院法学研究科専任講師・GGR研究員のウ・ユジン先生が執筆した書評が、米国の雑誌Governanceに掲載されました。ウ先生は東北大学大学院情報科学研究科で准教授を勤めている東島雅昌氏の著書『The Dictator's Dilemma at the Ballot Box: Electoral Manipulation, Economic Maneuvering, and Political Order in Autocracies』をレビューしました。本書で東島氏は、「選挙のジレンマ」という概念を導入し、これを用いて、権威主義体制において選挙が果たす役割や、選挙の透明性と不透明性のバランスが体制の存続にいかに関わってくるかを説明しています。ウ先生は、著者が政治体制を分析するための様々な次元やツールを考慮した統一的な理論を構築し、権威主義に対する理解を広げたことを高く評価しています。また、民主主義国家と独裁国家におけるメディアと露骨な選挙違反の関係など、本書に関連する様々な側面について、さらなる研究が必要であると指摘しています。

グローバルリスク・危機管理プログラム

露の新START発言「極めて政治的」 秋山信将・一橋大大学院教授

著書名秋山信将
出版日2023年2月22日

要旨2023年2月22日、毎日新聞に一橋大学国際・公共政策大学院院長・GGR研究員の秋山信将教授のインタビュー記事『露の新START発言「決めて政治的」』が掲載されました。秋山教授は、プーチン氏による今回の新START条約に関する発言は現状を大きく変えるものではないとしました。それよりは、バイデン米大統領の突然のウクライナ訪問やウクライナ侵攻1周年を受けて、世の中に対して強いメッセージを送る必要があると考えたプーチン氏が行った「高度に政治的」な行動であると説明しました。プーチン氏の狙いは、米国内で新START条約支持派と条約脱退派との対立を引き起こし、米国内の政治を揺さぶることにあるのではないか、と教授は指摘しました。いずれにしても、最近の緊張状態は今後の後継条約に向けた交渉を難航させ、グローバル社会における軍縮の動きに対して大きな脅威となっていると述べました。