その他の研究成果
書評:The Dictator’s Dilemma at the Ballot Box: Electoral Manipulation, Economic Maneuvering, and Political Order in Autocracies [in English]
要旨2023年2月に一橋大学大学院法学研究科専任講師・GGR研究員のウ・ユジン先生が執筆した書評が、米国の雑誌Governanceに掲載されました。ウ先生は東北大学大学院情報科学研究科で准教授を勤めている東島雅昌氏の著書『The Dictator's Dilemma at the Ballot Box: Electoral Manipulation, Economic Maneuvering, and Political Order in Autocracies』をレビューしました。本書で東島氏は、「選挙のジレンマ」という概念を導入し、これを用いて、権威主義体制において選挙が果たす役割や、選挙の透明性と不透明性のバランスが体制の存続にいかに関わってくるかを説明しています。ウ先生は、著者が政治体制を分析するための様々な次元やツールを考慮した統一的な理論を構築し、権威主義に対する理解を広げたことを高く評価しています。また、民主主義国家と独裁国家におけるメディアと露骨な選挙違反の関係など、本書に関連する様々な側面について、さらなる研究が必要であると指摘しています。
露の新START発言「極めて政治的」 秋山信将・一橋大大学院教授
要旨2023年2月22日、毎日新聞に一橋大学国際・公共政策大学院院長・GGR研究員の秋山信将教授のインタビュー記事『露の新START発言「決めて政治的」』が掲載されました。秋山教授は、プーチン氏による今回の新START条約に関する発言は現状を大きく変えるものではないとしました。それよりは、バイデン米大統領の突然のウクライナ訪問やウクライナ侵攻1周年を受けて、世の中に対して強いメッセージを送る必要があると考えたプーチン氏が行った「高度に政治的」な行動であると説明しました。プーチン氏の狙いは、米国内で新START条約支持派と条約脱退派との対立を引き起こし、米国内の政治を揺さぶることにあるのではないか、と教授は指摘しました。いずれにしても、最近の緊張状態は今後の後継条約に向けた交渉を難航させ、グローバル社会における軍縮の動きに対して大きな脅威となっていると述べました。
2035年の世界地図
要旨2023年2月13日、一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授の共著書『2035年の世界地図』(朝日新聞出版)が発売されました。本書は市原教授をはじめ、フランスの人口統計学者・歴史学者のエマニュエル・トッド氏やドイツの哲学者マルクス・ガブリエル氏など、幅広い分野で活躍する著名人が共同執筆した著書です。2035年、今から12年後の世界。世界人口が増える中、人口大国の中国や日本は高齢者社会になると予測されています。経済面では中国の国内総生産(GDP)がアメリカのGDPを抜いて世界第1位に、日本はインドやインドネシアに抜かれて世界第5位になると言われています。また、人工知能(AI)なども今よりさらに発達して社会のあらゆる場面において活用されると指摘されています。様々な予測が立てられる中、新型コロナウィルスの流行やロシアのウクライナ侵攻などの予測不可能な事態が起こり、現代の世界は今までにないほどの不確実性に満ち溢れています。そのような世界について、市原教授を含む各分野の専門家や著名人が個々の見据える世界について語っています。
核の脅威に「慣れた」世界のその先 侵攻の出口に待つ矛盾とジレンマ
要旨2023年2月20日、朝日新聞に一橋大学国際・公共政策大学院院長・GGR研究員の秋山信将教授のインタビュー記事『核の脅威に「慣れた」世界のその先 信仰の出口に待つ矛盾とジレンマ』が掲載されました。秋山教授は、プーチンの核兵器使用の脅しに国際社会が慣れてしまう危険性を指摘しました。このような脅威を軽視することで、ロシアがより攻撃的になり、戦争に思わぬ展開が起こる可能性があると述べました。しかし、教授はまた、いくつかのジレンマがあるため、現在世の中が置かれている戦争状況から簡単に抜け出す方法はないと論じました。ロシアが核兵器を使わずに降伏することが最良のシナリオだと示しつつ、それ以外の可能性も考慮する必要があるとしました。一方、核兵器のない世界を実現するためには、核の廃絶という理念を語るだけではなく、それを具現化するのにいかなる手段が必要なのかを国際社会でアイディアを出し合って合意に向けて努力するべきだと主張しました。最後に、このような話し合いや世界構造の認識が「戦後」の国際秩序の構想につながると議論しました。
自由主義をめぐる分断と日本の役割 [in English]
要旨2023年2月9日、Discuss Japanに一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授の記事が掲載されました。本記事は、岩波書店の総合雑誌『世界』12月号に掲載された教授の日本語エッセイを翻訳したものです。この論文で市原教授は、アジアでは様々な人権抑圧の試みが行われてきたが、それに人々が反発したことは、個人主義や尊厳の追求がいかに普遍的な価値であるかを証明するものであると論じました。インターネットの普及により、政府の弾圧に対抗するための市民の動員は容易になった一方で、ソーシャルメディアの普及は人々の分断を招いています。こうした社会の分断は日本でも見られますが、中国の言論戦がこうした状況に拍車をかけていると教授は指摘しました。最後に、民主主義の定義を再検討し、サニーランズ・イニシアティブなど、人々の生命、自由、尊厳を守るための取り組みを紹介されました。
信頼性と説得力のある、普遍的な人権外交 そのために必要なものとは
要旨2023年2月1日、朝日新聞に一橋大学大学院法学研究科・GGR研究員の市原麻衣子教授の記事が掲載されました。市原教授はまず、近年人権を軸とした自由主義的な価値観が弱体化しているとして警鐘を鳴らし、世界各地で起こっている人権侵害問題について説明しました。また、岸田政権のもとで日本が人権外交に乗り出したことを一定程度は評価しつつも、自民党保守派の道具としてこれを扱うべきではないと論じました。最後に、日本が人権外交を推進するためには、国内においても更なる人権尊重を目指す必要があると強調しました。
各国の難民政策測定 ー最近の動向と今後の展開への示唆 [in English]
要旨2022年12月27日、東北大学准教授の東島雅昌氏と一橋大学大学院法学研究科講師・GGR研究員のウ・ユジン氏が共著した論文が東北大学大学院情報科学研究科の学術誌Interdisciplinary Information Sciencesに掲載されました。著者は本論文で、各国の難民・庇護政策に関する最近の研究を概観し、多様な政策手段の採用を定量的に理解するために研究者たちが行っている最近の取り組みを紹介することを目的としています。そのために、各国の難民政策を定量的に測定する既存のデータセットを検討し、比較しています。この分析に基づいて、今後の研究はより広い時間的・地理的範囲を通じて、受入国の難民政策を理解することを試みるべきであると結論づけています。
書評:The Silent Guns of Two Octobers: Kennedy and Khrushchev Play the Double Game [in English]
要旨2022年12月19日に発売された学術誌Diplomacy and Statecraftに一橋大学大学院法学研究科の青野利彦教授が執筆した書評が掲載されました。本稿において、青野教授はセオドア・ヴォーヒーズ氏著『The Silent Guns of Two Octobers: Kennedy and Khrushchev Play the Double Game』という本をレビューしています。この本は、1961年から1962年にかけての核戦争を回避するためのメカニズムについて考察しています。多くの人はこの時期、特にキューバ危機までの期間を核戦争に最も近かった時期と認識しています。しかし、ヴォーヒーズはそれに対して、1962年は「驚くほど平和な時期」であったと主張し、その根拠を詳細に述べています。この本について、青野教授は、キューバ危機の理解に貢献したと評価する一方で、ヴォーヒーズ氏の議論に必ずしも全面的に賛成しているわけではないとしています。
クーデター2年、ミャンマーの明日は? 自国民に銃口、遠のく民主化 避難民増加 目を向けて
要旨2023年1月30日、一橋大学大学院法学研究科の市原麻衣子教授が中日新聞に掲載された記事に登場しました。ミャンマーでクーデターが起こってから2年経った現在でも、ミャンマー国内において国軍と国民の間で対立が続いています。市原教授はこのミャンマーの現状に関して、日本のASEANに対する姿勢がいかにミャンマー国内に影響を及ぼしているかについて論じました。ASEANの議長国が変わる今年、日本はミャンマー国軍に対して効果的な働きかけができるようにASEAN諸国と共同歩調を図るべきだと主張しました。最後に教授は、岸田政権はウクライナからの避難民は積極的に受け入れてきた一方で、ミャンマーからの避難民はさほど受け入れていない現状を指摘しました。そして、日本が海外に発信するメッセージの一貫性を保つために、ミャンマー難民の受け入れ態勢も整えるべきだと強調しました。
国際刑事裁判所の検察官の裁量
要旨2022年12月25日、一橋大学大学院法学研究科の竹村仁美教授の著書『国際刑事裁判所の検察官の裁量』が発売されました。本書は教授の既刊の論文を編纂した論文集であり、令和4年度法学研究科選書となっています。国際刑事裁判所(ICC)設立のためのローマ規程の発効から20年が経ち、益々注目を浴びるようになったICCの本質を、教授は検察官の裁量の点から検討しています。本書は最初にICCの機能や歴史を紹介した後に日本の検察官とICCの検察官を比較しています。さらに、ICCに対する協力義務やICCの管轄権についても説明し、検察局の訴追戦略に関しても論じています。