その他の研究成果
『リーガルイノベーション入門』が刊行されました
要旨本書では、アカデミア、官公庁、国際機関、規制当局、実務家の英知を集め、リーガルイノベーションについての議論が展開されています。そこでフォーカスされているテーマは、デジタル化、人工知能、ブロックチェーンなどのテクノロジーが法の世界に浸透することで生まれる変化にどう適応するかというものです。 本書は、日進月歩で進化するテクノロジーの進化によって、法の世界はどのような変化を遂げようとしているのかを正確に伝え、リーガルイノベーションを共に考え、深めていくための「招待状」です。本書のもとになったのは一橋大学法学部の集中講義で、主として講義録のスタイルをとりながら、読者にテクノロジーとリーガルイノベーションについて考えを深めていくよう誘う。各講は、各講のポイントと今後の課題が編者により語られる「後日談」、さらには「考えてみよう」という問いで終わるという構成になっています。 本書が扱っている内容は、①リーガルイノベーションの本質とその条件、②人工知能と紛争解決、③アントレプレナーのリーガルイノベーション観、④AI時代のコーポレート・ガバナンス、⑤テクノロジーと法執行、⑥人工知能がリーガル・サービスにもたらす影響、⑦司法アクセスのイノベーションです。
北京の世界的メディア影響力2022年 -チリ(英語)
要旨自由度や人権状況を表すFreedom in the World レポートで知られる米国の機関フリーダム・ハウスは、2022年9月、Beijing’s Global Media Influence 2022という特別報告書を発表しました。GGRアシスタントであるサスチャ・ハニグ・ヌニェズ氏は同レポートの中で、チリにおける中国の偽情報や影響力の度合いについての箇所を共同執筆しました。報告書自体は、世界数十カ国のデジタル、報道、視聴覚メディアにおける中国の影響力工作を探り、中国国民に対する不当対応(過剰反応として)と、表現の自由と民主主義を守る回復力のメカニズムも明らかにしています。本書の成果として、中国国営メディアはもとより、公務員や外交官にも共通する慣習が確認されました。また、ハニグ氏が担当したチリでは、パンデミック時の中国のネガティブなイメージに対抗し、民主主義と並列的な概念を作り出すことを目的として、チリの伝統的なメディアの中に中国がナラティブを変革するような試みを広告や共同出版という形で組み入れていることが筆者等によって解明されました。興味深いことに、北京のシナリオを主に支持していたのはチリのエリート層であり、ジャーナリストや市民社会はこの影響工作を暴き続けていることもわかりました。この報告書は、ボイス・オブ・アメリカ(英語版と中国語版)やチリの独立系メディアEx Anteなどのメディアで引用されました。
NPT再び決裂 緊張下、どう信頼醸成 秋山信将・一橋大学大学院教授
要旨2022年8月26日に核拡散防止条約(NPT)再検討会議が最終文書を採択できないまま閉幕しました。日本政府代表団のアドバイザーとして会議のプロセスを見守った秋山教授が今後のNPT再検討会議で主要な課題となる「信頼醸成」と「危機管理」について論じました。教授は今回の再検討会議の特徴を述べた上で、今後の再検討会議で各国が足並みを揃えて共通の課題に取り組むためにはどのような働きかけが必要かについての見解を述べました。
ロシアの核の脅し・中国の発言力…NPT会議に異変、秋山教授が解説
要旨秋山教授がアメリカのニューヨーク州にある国連本部で8月21日から8月26日まで開催された核不拡散条約(NPT)の再検討会議に出席し、そこでの論点を解説しました。教授は2000年からNPT再検討会議に出席した経験を通して、今回の会議のポイントを述べ、ロシアによるウクライナ侵攻が会議にもたらした影響や参加国が議論した内容について説明しました。
アメリカ労働組合運動の再興? 投票での勝利の法的意味とその先にある長い道のり
要旨新型コロナウィルスや最近の物価上昇を契機としてアメリカの組合運動が活発になり、スターバックス、アマゾンという有名企業で労働組合が代表選挙で勝利を収めました。中窪教授はこの二大企業の事例を素材としながら、選挙の意義や仕組みについて法的観点から論じています。本記事では多数決に基づく排他的な交渉というアメリカ独自の法制が紹介され、その下での労働組合の組織化活動、選挙の申請、選挙キャンペーン、投開票による結果の確定という過程について説明がなされます。さらに、組合が選挙で勝利して団体交渉が開始されても、1年以内に労働協約が締結されない場合には交渉代表の地位を失う可能性もあり、組合の存在が定着するまでは長い道のりがあるとの指摘もなされています。法律改正が実現する見込みは低いため組合にとって厳しい状況は続くものの、時代の変化によって組合が見直される兆しもあり、今後が注目されると中窪教授は述べています。
『ベイビー・ブローカー』に見る日韓映画界のハイブリッド化
要旨5月に開催されたカンヌ国際映画祭で見事2冠に輝いた大ヒット作『ベビー・ブローカー』は日本人監督がプロデュースした韓国映画である。日本の著名な映画監督である是枝裕和監督のもと、ソン・ガンホ、ガン・ドンウォン、ぺ・ドゥナ、IUなど韓国の錚々たる俳優・女優が結集し、日韓両国のみならず、グローバル社会からも高い評価を受けた作品となった。本稿で、権容奭准教授は日韓の過去と現在の関係を踏まえた上で日本人韓国が韓国で映画を撮影することの意義を明らかにしている。さらに、是枝監督とソンのチームワークや韓国で最も人気のある歌手であるIUを起用した是枝監督の決断について教授は論じている。最後に、権教授は日韓両国が映画制作においてコラボレーションをすることが外交上の緊張を乗り越えるための新たな局面をもたらす可能性があることを指摘する。
論壇委員から 正当性利用 秩序揺るがす
要旨市原麻衣子教授は、ロシアがウクライナ侵略に際して宗教という正統性の高い規範をも利用して、国際秩序を侵害しようとしていると指摘する。
〈多思彩々 参院選〉国際秩序形成へ、積極外交を
要旨7月10日の参議院議員選挙を前に、外交問題がどのような意味を持つのか、市原麻衣子教授が考察しています。通常、外交問題は選挙での主要課題ではありませんが、今回の選挙では様相が異なることを指摘し、各政党が外交問題をどのように取り上げているかを解説しています。
核禁条約会議閉幕 政治的思惑の克服課題
要旨6月23日にウィーンで閉幕した核禁条約会議に関し、多くの国が会議に参加し、揃って核廃絶の重要性を指摘したことは意義があったとする一方で、会議を通じて見えた核禁条約の課題や核軍縮における日本の役割も指摘する。
ロシア・ウクライナ戦争が終わらせた米ロ軍備管理体制 -核の恫喝が対中抑止に持つ含意(下)
要旨現状維持国家(米国)、現状変更国家(中国)、衰退国家(ロシア)の戦略的目標が違う以上、この三者で軍備管理体制を築くのは容易ではない。また極超音速滑空体の開発などにより、核・非核アセットの境界もあいまいになっている。冷戦期の制度設計がついに真の終焉を迎えるなか、日本は新たな制度の模索にどう関わって行くべきか。