GGR Issue Briefings / Working Papers
リベラルな国際秩序のリベラルな特徴―理解への補助線とリベラルな要素の類型
要旨国際秩序とは、学問領域としての国際関係学と現実の国際関係の双方における中心的課題であり、その概念と実状の正確な把握は極めて重要である。本稿の目的は、包括的に総体を理解することが極めて困難な「リベラルな国際秩序(liberal international order: LIO)」とも称される第二次世界大戦後の国際秩序について、リベラルな要素・特徴に着目することで理解を深めることである。間主観的なものであるLIOを把握するにあたっては、リベラリズムの思想からLIOの内実を解釈するのではなく、既存の議論においてリベラルと捉えられた要素や特徴を振り返る。また、それらを政治的、経済的、社会的、国際関係理論的なリベラルな要素や特徴に分類し、統合的に記述することでLIOに関する理解の発展への貢献を企図する。
ハシナ最後の抵抗 -クオータ運動、学生の蜂起、バングラデシュ民主主義の未来
要旨バングラデシュは、16年間シェイク・ハシナに統治されてきた。その間、不正投票がはびこり、有権者は脅迫され、反対派は暴力的に弾圧されたことで、民主主義が損なわれてきた。しかし、学生を中心とするクオータ制度をめぐる反対運動と、それに続く蜂起によって、流れは変わり始めた。最終的に、ハシナは政権から追い出され、軍主導の暫定政権が樹立された。このような変化にもかかわらず、バングラデシュは依然として民主主義を模索しており、ハシナの長期間にわたる非民主的な統治からの回復に苦闘している。
タイの憲法に見る政党結成の自由
要旨政党結成の自由は民主主義的価値の根本にあるが、タイではこの自由がしばしば見落とされる傾向がある。権利と自由を守るという本来の目的とは裏腹に、タイの憲法は、うかつにもこうした原則そのものを阻害している。結党に厳しい要件を課し、政党の解散を容易にすることで、憲法は政党に負担を課すだけでなく、政党結成の自由をも制限している。このような制約は、タイ国民の政治参加と代表性を著しく損なう。さらに、政党解散の容易性によりタイの政治状況は操作されることがあり、より広く見るとしばしば政治ゲームの戦略的なチェスの駒として利用される。こうした動きはタイの政治状況をさらに複雑化し、国民の声を真に反映するための憲法改正の必要性を浮き彫りにしている。
日本発の台湾に関する誤情報-ナラティブ分析と新たなナラティブの形成
要旨偽(誤)情報に対する懸念が高まるなか、どのように対処すればいいのであろうか。本稿は、日本国内から発せられた台湾に関する誤情報を用いて、この問題について検討する。日本経済新聞が2023年2月28日に掲載した「台湾の退役幹部の9割が中国に情報を売っている」との記事は、日本国内で議論を巻き起こしただけでなく、台湾政府が直接に内容の不正確さを指摘するまでに至った。本稿ではまず、この情報に関するファクトチェックを行い、誤情報である可能性が高いと分析する。次に、当該誤情報の対象となるペルソナと誤情報が持つナラティブの詳細な分析を通じて、本誤情報への対抗策を講じる。50歳の既婚者男性で、会社員で管理職を担い、世帯年収850万円、日経新聞の読者である人物をペルソナとして推定し、誤情報が反台湾感情を惹起しうると指摘する。ペルソナが高い関心を持つ経済の観点から対抗ナラティブを形成し、拡散の際の注意点にも触れる。最後に、本稿の限界を指摘しつつ、新聞記事であってさえ正確性に注意しなければならないと結論する。