2024年9月30日、一橋大学グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は、アテネオ・デ・マニラ大学行政大学院アテネオ・ポリシー・センターの主任研究員であるマイケル・ヘンリー・ユシングコ氏(Michael Henry Yusingco)を講師としてお招きし、「フィリピンにおける超大統領制のリスク」と題した第31回GGRブラウンバッグランチセミナーを開催しました。
マイケル・ヘンリー・ユシングコ氏は冒頭、超大統領制の最大の影響として、大統領が全人民の唯一の代表であるという感覚が醸成される点と、それがもたらす危険性を概観しました。具体的には、大統領が法令の発布、緊急事態の宣言、要職の任命、資金の再配分、行政組織の再編を行う権限が強化されています。そうすることで、政府の権力構造が不均衡になり、立法府や司法府を行政府に従属的な立場に追いやることにつながるとしています。その結果、民主主義の正当性が損なわれる可能性があると述べました。
また、フィリピンにおける超大統領制の特徴についても考察を深め、フィリピンの法令を引用しながら、大統領の権限が憲法に明示された特定の権限に限定されるわけではないと指摘しました。言い換えれば、行政権は憲法で列挙された特定の権限よりも広範にわたるものであると説明しました。
結論として、ユシングコ氏は、超大統領制が、大統領に君主や専制君主のような考え方を促す仕組みであることを強調しました。大統領の考え方では、たとえ民主主義の文脈であっても、憲法の規範や制度を無視するようになると論じました。また、これは、「国民」が大統領にそのような権限を付与するメカニズムがあるという見方から正当化されると指摘しました。この考え方は、大統領が恣意的に、適切な協議を経ずに意思決定を行い、起こり得る結果に備えることなく決定を下す可能性を懸念させます。
質疑応答セッションでは、「なぜフィリピン憲法は首相議会制ではなく、独裁を助長しかねない大統領制を採用したのか」といった質問が寄せられ、ユシングコ氏はその背景にはアメリカの植民地支配の歴史が深く関わっていると述べました。
【レポート作成】
厳豊(一橋大学大学院法学研究科 修士課程)
岸 晃史(一橋大学法学部 学士課程)