2023年12月1日、一橋大学グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は一田和樹(明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員)を講師にお招きし、GGR ブラウンバックランチセミナー「偽情報、ネット世論操作、デジタル影響工作の現在」を開催しました。
一田氏は、まず偽情報及びネット世論操作に対して、安全保障やサイバーセキュリティ、そしてメディア論等の様々なアプローチがあるものの、全体像を把握するようなプロジェクトが今のところ存在しないことを問題視しました。その上で、権威主義的価値観を持つグループや国によって触発される協調的な不正行為(Coordinated Inauthentic Behavior、以下CIB)の構造と現在を以下の通り説明しました。一田氏によると、CIBの増加は、過度の格差やパンデミックなど、地球規模の変化から始まります。次に、いかなる政策でも十分に状況が好転せず、その影響を受けている地域と層が発生することで、権威主義化が進行します。最後に、諸アクターが影響力拡大の支援を行うことでCIBが増加し、この一連循環するプロセスが完成されます。一田氏はこの構造を踏まえて、権威主義は新しい環境に適応しつつあるが、民主主義は過去のモデルに固執していると評価しました。加えて、一田氏はネット世論操作についてよくある誤解として「平和な社会にロシアが影響工作をしたことによって混乱が発生した」を挙げ、実際は国内の分断が深刻化し、そこをロシアにつけこまれたのであると指摘しました。
質疑応答セッションでは、CIBを行う主体と目的、伝統的メディアによる影響工作への対策の評価、中露の異なる影響工作手法がもたらす結果の差、情報空間における規制を政府単位で取り込むことの有効性などに関する質問が提起されました。一田氏は、偽情報やネット世論操作に対抗するためには、国家間の争いのみならず、国内の分断にも対処する必要があると論じました。
【イベントレポート作成】
金浚晤(法学部 学士課程)