非承認国家の「民主主義」
─その様相と規定要因─
東海林 拓人
(東京大学 大学院総合文化研究科 博士課程)
2023年8月1日
1.問題の所在―非承認国家の「民主主義」?
冷戦終結以降、「独立」を宣言して法的親国(parent state)1からの独立を事実上達成した状況にありながら、国際的承認をほとんど得られない「非承認国家(unrecognized state)」が複数存在してきた。近年では、ロシアによるウクライナ侵攻の口実として、2014年に「クリミア共和国」、続いて「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」が一方的な独立宣言を行い、後にロシアによって「編入」を宣言されたことは記憶に新しい。
非承認国家の多くは、民族紛争などを経て法的親国から自立し、ロシアやトルコなどの法的親国と対立関係にある大国がパトロンとなって、その強力な軍事・経済・政治的援助のもとで存続しているとされる(廣瀬 2014)。特に地域大国による支援は重要であり、国家承認するほどの強力なサポートを行う地域大国がパトロン国となる場合には、非承認国家は強い基盤を有することになる(Caspersen 2015, 189)。
「非承認国家」や「未承認国家」、「事実上の国家(de facto state)」などと呼ばれる存在の定義や呼称をめぐっては様々な議論があるが2、ここでは最も体系的に非承認国家を検討したカスパーセンの定義に則り、以下を満たすものとする(Caspersen 2012, 11)3。
- 事実上の独立を達成し、主張する領域の3分の2以上と中心的な都市・地域を統治している4 。
- 指導者が国家機構をさらに構築しようとしており、自らの正統性を主張している。
- 公式に独立を宣言、あるいは独立の意思を明確に表明している5。
- 国際的に国家承認を得ていない、あるいはパトロン国と一部の国々のみによって承認されている。
- 少なくとも2年以上存続している。
以上の定義にもとづくと、2023年6月現在存続する非承認国家は、表1の通りである6。
表 1 現存する非承認国家とその競争的選挙実施状況
非承認国家 | 法的親国 | 「独立」 | 国政選挙導入時期と対象 | パトロン国7 |
---|---|---|---|---|
台湾8 | 中国 | (1912年) | 1996年、総統・議会 | なし |
北キプロス | キプロス | 1983年 | 1975年、大統領・議会 | トルコ |
沿ドニエストル | モルドヴァ | 1990年 | 1990年、大統領・議会 | ロシア |
ソマリランド | ソマリア | 1991年 | 2003年、大統領・議会 | なし |
南オセチア |
ジョージア | 1992年 | 1990年、大統領・議会 | ロシア |
アブハジア | ジョージア | 1992年 | 1999年、大統領・議会 | ロシア |
ナゴルノ・カラバフ | アゼルバイジャン | 1992年 | 1996年、大統領・議会 | アルメニア |
コソボ9 | セルビア | 2008年 | 2007年、議会 | なし |
クルディスタン | イラク | 2017年 | 1992年、議会 | なし |
灰色は選挙による政権交代を経験しているもの。 出典:Caspersen 2012; 廣瀬 2014をもとに筆者作成
多くの非承認国家は、ロシアやトルコなどの権威主義的なパトロン国の傀儡国家や、政治的多元性がほとんど存在しない主体であると広くみなされてきた(Lemke and Crabtree 2020; Lynch 2004)。しかしながら、表1に示されているように、現存する非承認国家の大半においては、競争的選挙が実施され、それぞれが民主的国家であると主張している(Caspersen 2011b)。その多くでは、実際に選挙による政権交代も発生している(Caspersen 2011b, 73–74; Pegg 2017, 9)。特に台湾や北キプロス・トルコ共和国においては議会制民主主義がほとんど定着しているほか、ソマリランドやナゴルノ・カラバフ、アブハジアなどは法的親国やパトロン国よりも民主的であると評価されている(廣瀬 2014, 104–106)。
特筆すべきは、特に権威主義的なロシアをパトロン国とする沿ドニエストルやアブハジアなどの選挙においても、しばしばパトロン国の意に反するような候補者が当選していることである(Caspersen 2011a; Matsuzato 2008)。2022年には、パトロン国ロシアに対してとりわけ従順であると見られてきた南オセチアの「大統領選挙」で、親ロ派の現職アナトリー・ビビロフが野党候補に敗北を喫した(廣瀬 2022)。
また、各国の政治的権利(Political Rights)と市民的自由(Civil Liberties)について評価したFreedom House(以下、FHと表記)は、一部の非承認国家をもその対象としているが、FHが対象とする非承認国家の2023年時点の指標は表2の通りである10。FHの両指標はそれぞれ1から7までの値を取り、1が最も自由、7が最も不自由の評価である。また、両指標により、各国を “Free(F)”, “Partly Free(PF)”, “Not Free(NF)”に分類している。
なお、政治体制や民主主義に関する指標としては、Varieties of Democracy(V-Dem)11やPolity V12といったデータセットが広く用いられているが、ここでFHの指標を用いるのは、これらは国際的に広く承認された主権国家のみを対象としており、ほとんどの非承認国家は含んでいないためである13。
表 2 2023年現在FHに含まれる非承認国家とFH指標の一覧
「国」名 | 法的親国 | パトロン国 | 政治的権利 | 市民権 | FH評価 |
アブハジア | ジョージア | ロシア | 5 | 5 | PF |
ナゴルノ・カラバフ | アゼルバイジャン | アルメニア | 5 | 5 | PF |
北キプロス | キプロス | トルコ | 3 | 2 | F |
ソマリランド | ソマリア | 4 | 4 | PF | |
南オセチア | ジョージア | ロシア | 7 | 6 | NF |
沿ドニエストル | モルドヴァ | ロシア | 6 | 6 | NF |
台湾 | 中国 | 1 | 1 | F | |
コソボ | セルビア | 3 | 4 | PF |
出典:Freedom House, “Freedom in the World 2023”をもとに筆者作成
表2からは、非承認国家の中にもFHの評価には差異があることがわかる。中でも台湾やコソボだけではなく、国際的に全く承認されていないソマリランドや、Not Freeと評価されているロシアやトルコを後ろ盾とするアブハジア、北キプロスなども政治的権利に関して一定の評価を受けていることは注目に値する。
ここまで検討したように、非承認国家の多くは競争的選挙を行っており、一部は法的親国やパトロン国よりも民主的でさえある。このため、非承認国家を単なるパトロン国の傀儡政権と一様にみなすのではなく、その政治体制について主権国家同様に検討を加える必要があるといえるであろう。
しかし、非承認国家の「民主化」は、従来の民主化理論からは到底考え難い現象である。例えば、経済発展や、急速な経済発展による格差の拡大、市民社会領域の活発化などが民主化の引き金となるとの説明は広く知られている(Acemoglu and Robinson 2006; Almond and Verba 1963; Ansell and Samuels 2014; Boix 2003; Gasirowski and Power 1998; Inglehart 1990; Lipset 1959; Przeworski et al. 2000; Putnam 1993)。しかし、台湾以外の非承認国家はいずれも経済水準が低く、市民社会の活動も限定的である。
非承認国家は多くの場合戦争を経験して「独立」しているが、紛争を通じた国家建設や、内戦中の反乱軍統治が民主化をもたらすとの研究がある(Huang 2016)。しかし、選挙の競争性が高まったのは、多くの場合は非承認国家が成立して暫く経った後であり、こうした説明もそのまま適用することはできない。
民族的同質性が民主化にポジティブな要因をもたらすとの指摘もあり、非承認国家はしばしば単一民族であると考えられがちであるが、沿ドニエストルやアブハジアなどの非承認国家は実際には多民族である(Matsuzato 2008)。またソマリ人のほぼ単一民族に近いソマリランドでは、ソマリ人内部で多数のクランに分裂しており、実態として単一民族を基盤とする国家形成が進展しやすい状況下にはない(Bradbury 2008, 13–15; Lewis 1993, 47)14。
以上のような民主化の国内要因に加えて、国際的な要因として、周辺国の民主化の「波及効果」の議論がある(Gleditsch and Ward 2006; Huntington 1991)。しかし、非承認国家の周辺国やパトロン国、法的親国はほとんどの事例において非民主主義国であり、影響を与えうる周辺国の民主化はほとんど見られない15。
また、欧米の先進民主主義国や民主化を経験した新興国との結びつきや、それらの国々による民主化支援も政治体制に影響すると指摘されてきた(Ikenberry 1999; Levitsky and Way 2010; 杉浦 2010)。しかし、台湾やコソボ以外の非承認国家は欧米との関係が稀薄であり、むしろ、ロシアなど、民主化を促進しない国が主なパトロンとなって存続している(廣瀬 2014)。ロシアなどは通常、民主化支援を妨げ、「権威主義の輸出」を行っているとされている(Diamond, Platner, and Walker 2016; Risse and Babayan 2015; Tansey, Koehler, and Schmotz 2016)。こうしたことから、民主化研究で従来指摘されてきた国際要因についても、ほとんどの非承認国家には当てはまらない。
このように、ほとんどの非承認国家は、従来の民主化研究の枠組みに則ると、民主化すると考えられる諸要因が全く当てはまらない。それでは、非承認国家が競争的選挙を実施し、一部は一定程度民主的であるのはなぜであろうか。次節以降では、この問いに対する先行研究を検討し、その課題を指摘する。
2.非承認国家の地位と「民主化」の誘因
従来の民主化論においては、対外主権を有する国家の存在が前提であり、必要条件とされてきた(Linz and Stepan 1996, 17–19)。このため、国際主権を確立していない非承認国家の政治体制に関する研究は少なかったが、近年、非承認国家の「民主化」や「民主主義の質」、選挙、議会についての研究が進展しつつある。
タンゼイは、対外主権の欠如という非承認国家のステータスと民主化との関係を理論的に考察した(Tansey 2010)。彼は、スティーブン・クラズナーが「国家主権」の概念を4つの要素に分けた議論(Krasner 1999)を参照し、従来の民主化論は民主化する主体の国家性・主権を前提としてきたが、主権には多様な側面があり、それらの全てが民主主義に必要なわけではないと主張した。すなわち、クラズナーの言う国際法的主権(international legal sovereignty)は民主主義の必要条件ではなく、ソマリランドや台湾のように民主化することは十分有り得るとの問題提起をしたのである。ただし彼は、この国際法的主権不在の状況下では、外国の介入からの自律性が脅かされる地位にあるため、民主主義の質には対外主権不在が影響し得るとの留保を付している。
その後、タンゼイの「非承認国家でも民主化は可能である」との主張にとどまらず、非承認国家という正統性が低いステータス自体がむしろ民主化促進要因であるとの指摘もなされてきた。この研究群では主に、対外的正統性の獲得手段、あるいは領域内のエリートの妥協として競争的選挙・民主化が発生しているとの説明がなされている。
カスパーセンは、沿ドニエストル共和国政府のホームページなどを例に上げ、ほとんどの非承認国家が、国家承認の獲得を含めた国際的地位向上のために、実効的な国家としての機能があることを示す手段として民主的統治機構をアピールすると述べている(Caspersen 2011b)。
また、ヴォラーは、非承認国家がその国際法的な地位ゆえに常に「正統性の危機(crisis of legitimacy)」に瀕しており、正統性確保のために取る以下2つの行動が、非承認国家特有の民主化のインセンティブとなっていると主張している(Voller 2015)。それは第1に、国際的な正統性確保のために他国や国際機関と継続的に関与すること、第2にトランスナショナル・アドボカシーや外部の援助者、ディアスポラなどの意向を伺うことであるという。
同様に、コルストらは、ナゴルノ・カラバフについて、権威主義的な法的親国アゼルバイジャンに対抗して、対外アピールの一環として一見「民主的」な制度・競争を実施していると指摘している(Kolstø and Blakkisrud 2012)。
これらの研究は総じて、非承認国家の国際的に正統性の低いステータスが、国際的正統性確保のためのアピール手段として民主化を選択する誘因となっているという点で共通した主張をしてきた。
3.対外的戦略としての「民主化」の限界
しかしながら、実際には、非承認国家が民主化を進めたところで、国際社会における正統性・地位が向上して国家承認等を得られる見込みは極めて薄い。
選挙や国民投票の実施後に国家承認を多く獲得した実例としてはコソボ共和国があるが、これは選挙によって広範な国際的承認を獲得したというよりも、もともと親密な関係にあった欧米などが投票後の独立宣言を契機として国家承認に踏み切ったに過ぎず、選挙による国際的地位向上の効果は認められない(Fabry 2012; Ryngaert and Sobrie 2011)。冷戦終結以降で一時期非承認国家の地位にあった主体が国際的承認を獲得した例は、他にエリトリアと東ティモールのみであるが、エリトリアでは独立以降一貫してイサイアス・アフェウェルキ(Isaias Afewerki)による独裁政権が続いており、国家承認のために民主化が役立つとは言い難い。
さらに、非承認国家が法的親国の同意なしに選挙を実施する行為に対しては、国際社会が歓迎しないばかりか、国際連合や欧州安全保障協力機構(OSCE)などの国際機関が「非合法」であると非難してきた。また、存在自体が認められていない非承認国家に対して、民主化を求めて強い圧力をかける外部アクターもほとんど存在しない。つまり、非承認国家が民主化によって国際的地位を向上させた実例がなく、その見込みもない。
また、非承認国家の政府も、国家承認の獲得が非常に困難であることを認識している場合が多い。たしかに非承認国家の多くは積極的な「外交」政策を展開してきたが、非現実的な国家承認の獲得という目的を掲げない場合が多い(Geldenhuys 2009, 218–23; 富樫 2015, 235–43)。
以上のように、非承認国家という正統性を欠いたステータスが直接的に民主化の要因であるとする主張は、説得力に乏しいと言える。
そもそも、これらの研究は非承認国家が「民主化」していることを前提としているが、前節で検討したFH指標でも明らかなように、非承認国家がすべからく民主化するわけではない。例えば、FHは評価が低い南オセチアや沿ドニエストルなどについて、当該非承認国家自身やパトロン国の政府による選挙への介入などを挙げている。また、北キプロスでは、議会での統治機構改革の議論にパトロン国であるトルコが介入した事例が紹介され、非承認国家はパトロン国からの介入を受けやすいと指摘されている(Kanol and Köprülü 2017)。
非承認国家が競争的選挙を行う動機は、民主化ではなく、限定的な競争的選挙を導入することで領域内のエリートを「独立」にロックインし、競争的権威主義体制の維持を図っているのだとする指摘もある(MacQueen 2015; Protsyk 2009)。しかし、限定的な選挙の実施によって領域内の政治エリートを取り込むメカニズムは必ずしも明らかではない。
以上のように、一方では非承認国家が「民主化」していることを前提として、非承認国家特有の民主化要因を議論する研究がなされてきたが、他方では非承認国家の競争的選挙が必ずしも「民主化」にはつながっていないとの指摘が繰り返しなされてきた。
このように両極端な議論が噴出して収斂していないのは、いずれの議論も、非承認国家という特殊な地位を共有するユニットを同一視し、それらの間の差異を十分に検討しきれていないためであるといえるだろう。しかし前節で述べたように、非承認国家の政治体制には大きな差異が存在する。このため、非承認国家という特殊な地位に十分に注意を払いつつも、それらの間の差異を規定する要因を検討する必要があるといえる。いわば、「非承認国家の地位」という定数ではなく、非承認国家間で存在し政治的帰結を左右する変数を探る必要があるのである。
4.おわりに―非承認国家が直面する課題と新たな仮説の可能性
本稿では、非承認国家の「民主主義」の状況と、その「民主化」要因やその限界を説明する先行研究、その課題を検討してきた。最後に、以上の検討を踏まえ、今後の研究課題を提示する。
前節で述べたように、非承認国家の政治体制に関する先行研究は、非承認国家という特殊な地位に着目するあまり、その内部の差異をしばしば等閑視してきた。
しかし、その差異を規定する要因を明らかにするにあたって、政治体制の比較研究でしばしば用いられるような計量分析や質的比較分析(QCA)などを行うには、非承認国家の事例数やデータのみでは困難なのも事実である。
ここで、非承認国家の政府が競争的選挙を行う誘因を考えるにあたっては、非承認国家のみならず、内外で不安定な地位にある国家、すなわち新たに成立した国家やそれに準ずる主体が一般的に直面する課題を検討することは有益であろう。
新興独立国が直面する課題は多様であるが、中でも大きな課題としては、国家建設や国民統合が挙げられる。特に、国内に複数のエスニック・グループを抱えた新興独立国においては、国家よりも各エスニシティに対する帰属意識が強く、それらの亀裂を超越した形での国民統合が、国家の安定や独立の維持のために重要な課題となる(Deutsch 1966; Hoefte and Veenendaal 2019)。
とりわけ、当該国の独立を主導し政権の中枢を担う中心的民族と、それ以外の民族との間で対立がある場合、その両者を包摂した形での国民統合は大きな課題である(Mylonas 2013)。なぜならば、そのような民族は、独立に反対したり、独立自体は認めつつも領域や政治体制等に反対したりと、国家の根幹に関わる様々な異議の申し立てを行う可能性が高いからである。それを抑制するためにも、民族や地域を超えた形での一体的な国民統合を図ることが、新国家にとって急務である。
上記の課題は、法的親国をはじめとする国際社会から独立を認められていない非承認国家にとっても、特に大きな課題となるであろう。なぜならば、第1に、非承認国家は紛争を経験して成立している上に、第1節で指摘したように、しばしば法的親国の中心民族を含む多数の民族集団を抱えている。第2に、国際社会から「独立」をほとんど認められていない不安定な地位ゆえに、「国内」にもその正統性を認めない集団を抱えることがある。
競争的選挙の実施は、国内のエスニック・ナショナリズムの促進・分断の効果を持つことがしばしば指摘されてきたが(Fjelde and Höglund 2018; Mann 2004; Mansfield and Snyder 2002)、特殊な条件下ではむしろ国家建設・国民統合の手段ともなり得る可能性も議論されている(中井 2019; 中井, 東島 2012)。選挙の実施が国家建設・国民統合に及ぼす影響について、とりわけこれらの課題の喫緊性が高い非承認国家を事例に検討し直すことは、広く比較政治学の発展にも資するであろう。
また、近年の競争的権威主義体制に関する研究を踏まえると、競争的選挙の実施が野党勢力の包摂・分断や情報収集などの、体制の維持・強化手段である可能性もある(Magaloni 2006; 今井 2017; 東島 2023)。
そして、これらの体制が直面する課題の重要性は、非承認国家間でも歴史的経緯や周辺国との関係性などによって差異が生じうる。このような、非承認国家間の差異を規定し得る変数と選挙との関係を理論的に問い直すことは、近年の紛争において重要性を示す非承認国家の内情や、広く途上国の政治を理解する上でも重要な研究課題である。
謝辞
本稿は、JSPS科研費(研究課題番号:20J22698)の助成を受けた研究成果の一部です。また、2020年に執筆した修士論文の一部の改稿であり、本研究の遂行にあたり、「グローバル関係学」第3回若手研究者報告会、政治学若手研究者フォーラム第1回研究会、日本比較政治学会第24回研究大会や、東京大学、早稲田大学の学内研究会で報告を行い、参加者の皆様から貴重なコメントを賜りました。この場を借りて御礼申し上げます。
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廣瀬陽子. 2014. 『未承認国家と覇権なき世界』. NHK出版.
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[1]「独立」を宣言する相手であり、その領域への主権を有すると国際社会から広く認知されている国のことを指す。 [2] 呼称や定義を巡っては、他にも様々な議論が展開されている(Pegg 1998, 26–42; 富樫 2015, 80–85; 廣瀬 2014, 84–87)。 ここで「未承認国家」ではなく「非承認国家」の訳語を用いるのは、「未承認」の語句が「将来的に承認される」というニュアンスを含むとの誤解を避けるためである。 [3]この定義により、国家に準ずる統治を事実上行う地方軍閥や、連邦内での自治を志向する主体(プントランドなど)、実効支配地域の小さい西サハラなどは対象外となる。 [4]ただし、中国全土を代表すると主張する台湾は、現在の実効支配地域のみを対象とする法・行政・外交を確立していることから非承認国家に含むこととする。 [5]独立の意思の表明とは、独立の賛否を問う住民投票の実施や、領域内の選挙において独立を公約に掲げること、国際機関に国家として加盟を申請することなどを指す。 [6]なお、カスパーセンの定義によれば、冷戦終結以降に消滅した非承認国家にはブーゲンビル、チェチェン共和国、スルプスカ共和国、クライナ・スルプスカ共和国、タミル・イーラム、ガガウズがある。また、「事実上の国家(de facto states)」のデータセットを作成したフロリアによれば、表1の9の主体に加えて、西サハラ、パレスチナ、ガザ、ミャンマーのカレン、カヒン、フィリピンのミンダナオ、アンゴラのカビンダ、セネガルのカザマンス、ソマリアのプントランド、ボスニア・ヘルツェゴヴィナのスルプスカ共和国が現存する「事実上の国家」として挙げられているが(Florea 2014)、これらは本稿の定義には当てはまらない。 [7]何らかの支援を行っている国全般を指すため非常に曖昧な概念であるが、本稿では軍を駐留させている国に限定する。 [8]台湾はかつて「中華民国」として国連安保理常任理事国の地位にあったほか、2023年7月現在でも国連加盟国12カ国およびバチカンと「ソマリランド共和国」が国家承認している上、多くの国や国際機関と公式・非公式の関係を維持している。 [9]コソボ共和国は2023年7月現在、日本を含め88の国連加盟国およびクック諸島、ニウエが国家承認している上、多くの国際機関にも加盟している。しかし、セルビアは独立を承認しておらず、国連加盟国の半数が未だ国家承認をしていないため、本稿やCaspersenらの定義では非承認国家として扱われる。 [10] Freedom House. “Freedom in the World”. Freedom House.
https://freedomhouse.org/report/freedom-world (2023年7月18日最終閲覧) [11]Variety of Democracy. “The V-Dem Dataset”. Variety of Democracy.
https://www.v-dem.net/data/the-v-dem-dataset/ (2023年7月18日最終閲覧) [12]Center for Systemic Peace. “The Polity Project”. Center for Systemic Peace.
http://www.systemicpeace.org/polityproject.html (2023年7月18日最終閲覧) [13]例外はV-Demの一部の変数における台湾とソマリランド、Polityにおける台湾である。 [14]同一言語・宗教・民族ではあるが、民族内のサブ・グループであるクラン間の対立は激しく、1993年には武力衝突も発生している。 [15]例外として、アブハジアの2004年の大統領選挙を「カラー革命」の波及と見る向きもある。しかし、その前後の政治過程は他の「カラー革命」諸国と連動しておらず、波及効果のみによる説明は困難である(Ó Beacháin 2012)。
東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程、日本学術振興会特別研究員(DC1)。修士(学術)。一橋大学法学部、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻修士課程を経て、現在に至る。専門は比較政治学、国際関係論、政治体制論。共訳書にラリー・ダイアモンド著・市原麻衣子監訳『侵食される民主主義』。