要旨
2023年3月20日に、一橋大学法学研究科教授・GGR研究員の竹村仁美教授の論文「ウクライナの事態と国際刑事裁判所」が『九州国際大学法学論集』第29巻1・2合併号に掲載されました。竹村教授はまず、ウクライナとロシアが国際刑事裁判所規程の非締約国であるものの、ウクライナが規程に基づいて国際刑事裁判所の管轄権を受諾していたこと、そして43締約国が事態を付託したことによって国際刑事裁判所による捜査が開始されたと指摘しました。ただし、国際刑事裁判所には補完性の原則や人的管轄、事項的管轄、実効性といった点において限界もあると論じました。加えて、証拠の精査の困難さからジェノサイド罪の認定が難しい一方で、不足している証拠の収集のために国際協力枠組みが促進されているとも論じました。また、国際司法裁判所との紛争の同時係属について、ジェノサイド条約に関する国家の義務の履行・不履行が問題となっていると指摘しました。最後に、教授は補完性の原則を踏まえ、国内での捜査・訴追による国際法上の犯罪の不処罰撲滅が第一義的には重要となり、国際刑事裁判所の実効性と効率性を計るには長期的視座が必要だと論じました。