2023年2月15日から18日にかけて、一橋大学グローバル・ガバナンス研究センターは「偽情報に対抗し、民主主義を守るには」と題する4日間の集中セミナーを開催しました。セミナー参加者は、偽情報の現在、分析方法、対策方法を学び、偽情報対策を体験しました。
はじめの三日間には、国内外の第一線の専門家による講義が行われました。市原麻衣子氏(一橋大学教授)の講義では偽情報に関する論点が整理され、参加者の共通理解形成が行われました。アーリル・ベルグ氏(一橋大学客員研究員;ノルウェー防衛技術研究機構上席研究員)による講義では、偽情報の拡散、そしてそれに対する対抗・回復の在り方が「強靭性(レジリエンス)」という概念を通じて説明されました。また、ポユ・ツェン氏(ダブルシンク・ラボ副代表)とパトリック・プーン氏(明治大学客員研究員)は、香港と台湾における偽情報の現状を概説し、ポユ氏による講義では、偽情報に対するカウンター・ナラティブの効果的なあり方が説明されました。また、チーハオ・ユウ氏(IORG(Information Operation Research Group)共同代表)の講義では、IORGの活動が紹介され、受け手にとって魅力的な情報のデザイン方法が解説されました。
参加者には講義への主体的な参加が求められました。ベルグ氏の講義では、参加者が偽情報と対抗策を講じました。また、古田大輔氏(日本ファクトチェックセンター)による講義では、参加者がファクトチェックを実践しました。アクティブな講義形式は、参加者から好評でした。
また、本セミナーではSocial Action Project(SAP)という実践的な課題が実施されました。参加者は4つのグループに分かれ、与えられたテーマについて4日間にわたり検討を重ねました。4つのテーマはそれぞれ、沖縄基地・知事選挙、台湾有事、日韓関係、ワクチンをめぐる偽情報で、参加者にとって身近で、かつ日本にとって喫緊の課題であるテーマが選定されました。
各グループは偽情報を明確にし、偽情報受信者を絞り、効果的なカウンター・ナラティブを考案しました。台湾有事グループは、偽情報の受信者に興味を持たせるために、時間帯ごとに異なるコンテンツを届けることを考案しました。日韓関係グループは、偽情報発信者のインナーサークルに入り込む戦略を立てました。最終日に行われたプレゼンテーションでは、工夫を凝らした発表が行われました。沖縄グループは、動画を用いたカウンター・ナラティブを作成し、ワクチングループは、偽情報受信者になりきってユーモアを交えながら発表を行いました。
本セミナーには選考を経た計16名の大学生及び大学院生が日本全国から参加しました。多岐にわたる参加者の専攻や当初の関心がもたらす充実した議論を高く評価した参加者もいました。また、多くの参加者が偽情報に対する理解が深まり、関心が高まったと振り返りました。今後のキャリアに本セミナーの成果を生かしたいと語る参加者もいました。
【イベントレポート作成】
中島崇裕(一橋大学法学部 学士課程)