2023年1月26日、グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は、佐藤以久子教授(桜美林大学/一橋大学大学院法学研究科 客員研究員)を講師にお招きし、「難民・移民の権利か?EU法における庇護請求者の実効的司法保護の権利 ―転換点としての欧州司法裁判所グナンディ事件を題材に」というタイトルで第11回GGRブラウンバックランチセミナーを開催しました。
佐藤教授は、難民・移民もEU法で保障された実効的な司法保護を受ける権利を有するか否かという問題について、EU司法裁判所のグナンディ事件(C-181/16 [GC])を取り上げて検討しました。本事件は、国際保護申請却下の取消と退去命令の取消を求めた控訴手続に関するが、先決裁定では、送還決定に対する控訴は、庇護申請却下に対する控訴と異なり、退去につながることから送還決定の法的効果から生じるノン・ルフールマン原則違反の可能性があるとし、したがって、そうした控訴は、EU基本権憲章47条に相当する実効的救済の権利を確保するように送還手続を実施せず自動的に送還停止効力を有することが必要であることを明らかにしたと説明しました。また、佐藤教授は、本案の先決裁定が庇護手続指令及び送還指令の改正案(審議中)および続く判例に反映されていることに言及し、EU基本権憲章上の個人の権利侵害に対する司法審査の保障は、難民・移民に対する「実効的な司法保護を受ける権利」として出入国管理領域にも及ぶと解し得ると結論付けました。他方、人道的理由の基準や手続の不明さ、2020年の移住と庇護の新協定の下で包括的な制度改革に対応する庇護と送還を繋ぐ新たな迅速な手続(案)や送還と再入国に関する第三国との協力増強などの施策によって、水際での権利へのアクセス排除の問題に言及しました。
質疑応答では、教授や学生など約11名が参加し、徴兵を逃れてきたロシア人や気候変動による難民に対するEUの対応、ベルギーでの宿泊施設および庇護申請手続に関する庇護希望者への情報提供や支援、EUの庇護法・制度がアジア地域に拡大する可能性、そしてEU加盟国内での難民認定率の差異などの質問やコメントが出されました。