要旨
2022年11月18日に世界のあらゆる問題を取り上げる雑誌『アステイオン』がウクライナ戦争の特集号を出版し、秋山教授の論文が掲載されました。ロシアのウクライナ侵攻によって核兵器の使用及びその役割について多くの議論が展開されてきました。教授はまず、戦時に核保有がもたらす影響を考えるための枠組みを解説し、これを踏まえてロシアのウクライナ侵攻における核戦力の運用を検討しました。ロシアは核の存在を強く意識させるシグナルを何度も送り続けたと指摘し、このシグナリングが米欧の行動をある程度抑止してきたと主張しました。しかし、同時にロシアが作り出した「安定・不安定のパラドクス」は自国の行動を抑止するきっかけにもなっていると説明しました。次に、教授はウクライナ戦争が核軍備管理体制に及ぼしてきた影響と、米ロ双方の動きが国際秩序にもたらす長期的な影響を概説しました。その一つとして、リベラルな国際秩序の中でリアリズム的勢力均衡型秩序を温存してきたということが挙げられます。さらに、核に関する「正義」の議論がいかに相対的かということをTPNWにおける各国の姿勢を踏まえて指摘し、核が「ダブル・スタンダード」で見られていると強調しました。最後に、米ロの対立に加え、米中間でも緊張が高まっていることを考慮し、核がもたらす影響がエスカレートする中で米ロ中の競争と対立を守るためのルールが提供されるべきだと論じました。