要旨
2022年9月、中西優美子教授が責任編集の『EU法研究』の最新号が発行され、佐藤以久子GGR客員研究員が執筆したEU返還指令に関する論文が掲載された。本稿は、不法滞在の第三国国民の退去強制に関する法的曖昧さを送還指令が埋め、行政裁量から法の支配へ、人道的な退去強制への転換をもたらしたかという問題を考察したものである。本稿は、まずEU送還指令の背景と範囲を説明した上で、EU基本権憲章と欧州人権条約の法的根拠に基づいて、欧州連合司法裁判所と欧州人権裁判所の判例を参照しながら、送還指令の解釈と人道的送還手続について分析する。こうした判例法は、指令採択当初は不明確であった条項を明確化し、適切な行政措置に導く司法審査として機能している。また、退去前収容に関する手続上の義務を示すなど人道的送還に進展があった一方で、特にノン・ルフールマン原則については、人道的理由との関係も含め条文の曖昧さが課題であると指摘している。