グローバル・ガバナンス研究センターは2022年7月28日、その若さにもかかわらず各国において政治的運動のリーダーを務めている羅冠聡(ネーサン・ロー)さん(香港)、クリスティーナ・キロヴァさん(ウクライナ)、そして元山仁士郎さん(日本)をお迎えして、Zoomウェビナーを英語(日本語同時通訳あり)で開催しました。「次世代リーダーと民主主義 ―権力の外縁から自由を求める若者たち」というテーマのもと、司会の市原麻衣子教授、また70名を超える参加者と議論が交わされました。
香港人運動家であり、2018年ノーベル平和賞候補だった羅さんは、2014年の雨傘運動において、政治改革に関する政府との対話に代表の一人として参加しました。また2016年には、香港衆志(デモシスト)の設立者の一人として、立法会選挙で史上最年少の立法議員に当選しました。しかし、政府による憲法解釈変更に伴い2017年7月に議員資格を取り消され、雨傘運動への参加を理由に投獄されました。その後は強権的な国家安全維持法の制定に伴って亡命し、現在ロンドンを拠点に活動しています。キロヴァさんは、タラスシェフチェンコ記念キーウ国立大学で学士課程及び修士課程を修了した後、一橋大学大学院社会学研究科を修了しました。複数のボランティア団体での活動のほか、2019年4月の大統領選挙においては選挙管理委員として従事しました。2016年に日本のメディア企業に就職し、2020年よりKPMG税理士法人に勤務しています。元山さんは国際基督教大学教養学部を卒業後、一橋大学大学院法学研究科修士課程を修了し、現在、博士課程で米軍事作戦における在日・沖米軍基地の位置付けの研究を行っています。「辺野古」県民投票の会元代表で、2019年1月には県民投票に不参加を表明した市長らに対して、また2021年5月には沖縄の「復帰50年」に際し首相官邸の前で辺野古新基地建設の断念を求めてハンガーストライキ等を行いました。
ウェビナー冒頭、政治参加に関して参加者全員の意見を問う投票が行われた後、パネルセッションが始まり、市原教授による3つの質問を基に議論が展開されました。まず、人権・民主主義・自由の擁護における若者の役割について、各パネリストからは、若者は養わなければならない子供がいないがゆえに各種の社会運動に多くの時間が割けるだけでなく、パワーにこだわらない理想主義及び物事を白黒で考え、根本的に問う熱心さがあるからこそ、政治と社会における変化の推進役になりうるという指摘がありました。
続いて政治参加において若者が直面する障壁、そしてそれらの障壁を乗り越えるために国内外で必要な支援制度に関する質問を巡って意見が交わされました。政治参加の障壁としては、政党への入党といった伝統的な政治参加が若者にとって困難であるほか、デモやイベントを行う許可の取得方法といった政治運動の運営に関する知識に簡単にアクセスできないこと、そして認知度の低さ、ボランティア活動と私生活のバランス、そして資金不足が挙げられました。また、各パネリストは政治参加を促進する教育の不在を非難しました。これを受け、上記の障壁を乗り越えるために、既存政党あるいは法人団体による教育・支援制度の整備及び簡単に受けられる小規模融資の必要性が訴えられました。
質疑応答では、若い一般市民と若い政治家の相違、若者同士の国際的協力の促進、世間に国際問題に対して関心を抱かせる方法、そして海外の政治運動のサポートの可能性ついて議論が交わされました。
最後に、冒頭と同様の質問で参加者に対して投票が行われました。ウェビナー開始時と比べて若者が政治に変化を起こすことができると思う参加者の割合は91%から94%に、若者が政治に参加していると思う参加者の割合は39%から68%に、そして政治に参加すべき年齢が10代であると思う参加者の割合は63%から74%に上昇し、ウェビナーによる参加者の意見の変化が明確に表れました。
特筆すべき発言:
- 「我ら若者は、世間に認められるには歳上の方々より10倍の努力をしなければなりません。これは不公平かもしれませんが、何かを変えるには努力を一層重ねるしかないのです。」(羅冠聡さん)
- 「日本の公民教育は、人々が持っている権利ではなく、遵守しなければならない義務に焦点を当てています。」(市原麻衣子教授)
- 「日本で社会運動をするということは、経験的にハードルが高いです。社会運動で声を上げると、変な目で周りから見られる上に、1960年代の運動から暴力的な印象を持っている方たちが多いと実感しています。社会運動・政治に参加することがかっこいいことだ、あるいは普通のことだという雰囲気を作っていかなければならないと思います。」(元山仁士郎さん)
- 「私たちはみんなボランティアで、日中は本業があり、空いた時間でやっているわけなので、管理が困難ですし、みんな20代、30代なので知識も不足していますが、情熱がすべての引き金で、今もその情熱で踏ん張っています。」(クリスティーナ・キロヴァさん)
【イベントレポート作成】
スクビシュ ミハウ(一橋大学国際・公共政策大学院 修士課程)