香港に力をおくる
―コミュニティを形成し、自由のために闘う旅
聞き手・著者:スラストリ
(一橋大学国際・公共政策大学院修士課程)
2026年2月2日
*本稿は、2024年3月27日に行われたインタビューに基づいて執筆された。
香港では集会や表現の自由が制限されてきた。 2014年の雨傘運動抗議デモ(Umbrella Movement Protest)や2019年の反逃亡犯条例デモ(Anti-Extradition Bill protests)[1]が、自由が制限されるきっかけとなった。2020年に施行された国家安全維持法は自由をさらに制限し、香港内外の多くの人々が強い懸念を抱いている。その一人が、田中杏奈氏だ。
田中氏は当初政治には無関心で、ビジネスの世界に身を置いていた。雨傘運動が起こり、香港で問題が発生しているに違いないと感じた田中氏は、運動に参加するようになった。香港人は中国政府に主導されることを望んでいないし、香港と中国本土の間には明らかに多くの違いがある。しかし、中国政府は-たとえば教育制度を変えることで-香港を中国本土と同様に支配しようとしているようだった。香港の市民は中国政府の方法を快く思っていない。
2019年に反逃亡犯条例デモが起きたとき、田中氏は日本に住んでいた。「人々が行動する必要があり、状況を変えるには外国の存在が重要になります。香港はとても小さく、外国の支援を得なければならないということを理解していました」。田中氏は当時をこう振り返った。4年間にわたる日本での生活の後、2019年に田中氏は仲間と共に香港人たちを集め、香港の民主化に関するデモやキャンペーンを日本で始めた。当時はこの運動がこれほど長く続くとは考えられなかったという。町にはすでに200万人の人々が集まっていたが、政府は状況を無視するばかりだった。
香港人のコミュニティ形成
2019年、田中氏は仲間ととともに、日本香港人協会(Japan Hongkongers Association)を立ち上げた。同協会は、香港人と日本人の架け橋を作り、一つのコミュニティに溶け込ませることを目的に、日本文化に関するさまざまなキャンペーンを行っている。なぜこのような活動に参加したがるのか、また他国の問題を自国に持ち込むことに疑問を持つ人々もいる。「それが私たちの仕事であり、日本での活動が必要な理由です。日本のシステムの強さこそが、日本を東アジア、さらにはアジア全体で最も民主的な国たらしめています。香港だけでなく、アジアの他の国々にとっても、日本は民主主義のリーダーとしての役割を果たすべきです。」
日本と香港の間には非常に強い文化的つながりがある。日本を強く愛する香港人は多い。日本側もまた、しばしば香港を支援してきた。たとえば、運動が始まった当初、日本では1,000人規模の街頭デモがあった。人口を念頭に置けば、大規模なデモだったといえる。この支援を知った香港の人々は、自分たちが愛する国で、1,000人もの人々が路上に出て自分たちを支えていると知り、とても喜んだ。日本在住の人々による運動への関与は、他国、たとえば香港人の人口が多いイギリスと比べてすら、顕著である。さらに、日本では抗議に参加する人の4割から5割が日本人を占めていた。このように、日本、特に東京では、現地のコミュニティが支援に積極的な姿勢を示している。
初めて日本に来た香港人が社会に溶け込むのは容易ではない。香港人はたいてい物静かで、自立心が強い。他の国の海外市民やディアスポラとは異なり、香港人だからといって常に一緒に行動するわけではない。それにもかかわらず、2019年以降、日本在住の他の香港人と会い、母国で起きていることについて自分の気持ちを伝えたり、日本での新しい生活について話したりする香港人が増えた。日本に移住する香港人が増えるにつれて、田中氏らの運動に参加する人の数も明らかに増加した。「私たちの目標は、香港の文化を守ることです。香港人のための交流会を開き、日本人と香港人の架け橋になりたいのです。」
田中氏の団体は日本人向けの広東語教室も開いている。教室には、80年代から90年代にかけての香港映画や音楽に触れ、広東語を学習したいと考えているような日本人が参加している。目的は、言語の溝を埋め、文化交流を促進することだ。また、この活動では広東語を教えるだけでなく、参加者どうしが様々な活動を通して両言語を練習する機会も提供している。「香港人は他国や海外の政治組織とつながることに長けています。これは、中国政府にとって懸念材料です。だからこそ中国政府は、海外の香港人に対して本土よりも強い統制を敷こうとしています。本土政府は、香港政府からだけでなく、基層から上層部に至るまで、市民社会全体に影響力を及ぼそうとしています。歴史の教訓から、中国政府は香港における民主化の動きを厳しく抑え込み、強固な統制を維持するでしょう。」
身近な人や一般人の中には、なぜ田中氏らがこのような闘争に参加しているのか理解を示さなかい人もいるという。なぜ香港の問題を日本に持ち込むのか、と。しかし、田中氏らの継続的な活動が他の人々、特に香港人の生活に役立っていると明らかになるにつれ、他の人々も田中氏らを理解し、支援さえしてくれるようになった。
「私たちのグループは政治に重点を置いているわけではありませんが、一人ではなく集団であるため、香港への支援について強い発言力を持つことができます。組織があるからこそ、在日香港人のために主張しなければならないときに、私たちは立ち上がることができます。日本では、何をしたいのかを考えることができ、コミュニティを形成したり、コミュニティに属したりすることができます。コミュニティを通じて、次にどんな行動を取るかを決定するのです。これこそが民主的なシステムなのだと信じています。」
【日本語翻訳】
岸 晃史(一橋大学法学部学士課程)
中島 崇裕(一橋大学大学院法学研究科修士課程)
[1] 2019年の逃亡犯条例(Extradition Bill)の改定案への反対を機に、改定案の撤回を含む5大要求を掲げて行われた香港民主化運動。
一般社団法人日本香港人協会理事。香港で生まれ育ち、英国と米国で大学教育を受けた後、国際的なビジネスで専門的な経験を積む。もともとは香港を拠点としていたが、2015年に日本に移住した。2019年から日本国内で香港の民主化活動を主催し、在日香港人を支援している。在日香港人のディアスポラ(香港以外に住む香港人の集団)間のコミュニティを育てていく重要性を認識し、2020年に一般社団法人・日本香港人協会を共同設立。


