2025年9月30日、一橋大学グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は第43回ブラウンバッグランチセミナー「日本大使の対チェコ外交」を開催しました。講師には嶋﨑郁(しまざきかおる)氏(元駐チェコ大使・駐ヨルダン大使、現日本チェコ友好協会会長)をお招きしました。
嶋﨑大使はまず、チェコの基礎情報と歴史を紹介しました。欧州の中央に位置するチェコは、豊かな文化と芸術を誇る一方で、科学技術や製造業の伝統を持つ中東欧随一の工業国であると説明しました。緩やかに経済成長を続け、EU諸国の中でも失業率が低いことも特徴です。歴史的には欧州列強がせめぎ合う地政学的焦点であり、1618年のプラハ城での「貴族投げ落とし事件」(30年戦争の発端)や、1805年のアウステルリッツの戦い、1938年のミュンヘン協定などを例に挙げ、「ボヘミアを制する者が欧州を制する」という言葉を紹介しました。
続いて大使は、チェコ外交と日本との交流について述べました。チェコは自由民主主義の基本的価値を重視する外交姿勢を持ち、「プラハの春」など共産主義時代の経験から、自由や民主主義への信念が強いと指摘しました。その一方で、近年は反露感情が顕著であり、中国との関係も一時的に強化された後、近年は急速に冷却化していると説明しました。これまでEU・NATOとの協調を重視してきた中で、10月の下院議員選挙後には、西側との関係の維持だけでなく、中露・ハンガリー・スロヴァキアとの関係をプラグマティックに調整する可能性があるとの見通しを述べました。また、日本に対しては、独立以来の良好な関係のもと、日本からの更なる投資の増大やチェコ製品の輸出拡大、要人往来、文化・芸術・学術分野での交流の促進が期待されていると話しました。
講演後の質疑応答では、日本とチェコの外交関係強化、人権外交、防衛協力、文化的背景の違いへの理解、対露姿勢など、多岐にわたる質問が寄せられました。嶋﨑大使は、人権や民主主義といった価値を複眼的に捉えるチェコの外交姿勢には、日本外交との共通点があると指摘しました。最後に、日本が諸価値について率直に議論でき信頼のおけるパートナーとして、チェコの重要性を強調して講演を締めくくりました。
【イベントレポート作成】
中島崇裕(一橋大学大学院法学研究科修士課程)
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