2025年8月19日、一橋大学グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は、ヘレネ・トーソン・レニング博士(ノルウェー防衛技術研究機構 総合防衛部門CBRNE研究ディレクター)を講師に招き、第42回ブラウンバッグ・ランチセミナー「ノルウェー、安全保障、そして研究の役割」を開催しました。レニング博士は、軍事と民間の資源を統合し、国家全体で安全保障を確保する「トータル・ディフェンス」の重要性を説明しました。1946年に第二次世界大戦の教訓から設立されたノルウェー防衛技術研究機構(FFI)は、ノルウェーの国防研究開発の中核を担っており、防衛省や国防軍に対して、技術や科学分野のみならず、民軍協力やハイブリッド脅威への対応についても助言を行っています。
講演では、テロリズム研究、徴兵制におけるジェンダーの観点、戦争に残された不発弾処理など、FFIの幅広い研究活動が紹介されました。これらは、安全保障が従来の軍事領域を超え、社会全体に関わる課題であることを示しています。また、北極および極北地域は気候変動による航路変化により戦略的に重視されており、さらにサイバーや宇宙領域、ビッグデータを活用した状況認識も、防衛において不可欠な要素となっていると述べました。ウクライナ戦争に関連して、レニング博士は国際条約の形骸化や、「サイバー攻撃」「プロパガンダ」「金融圧力」などを組み合わせた武力紛争以下の「ハイブリッド干渉」の脅威を指摘しました。その上で、社会全体を動員するトータル・ディフェンスこそが、こうした新たな脅威に対抗する最も効果的な手段であると強調しました。ノルウェーの長期防衛計画や国家安全保障戦略も、重要インフラの強化、状況認識の向上、レジリエンスの確保を柱としています。
さらに、ドローン、AI、バイオ技術といった急速な軍事技術革新が開発サイクルを短縮している点や、NATOが主導する認知戦研究が共同研究の重要性を示している点についても言及しました。研究に基づくトータルディフェンスこそが、ハイブリッド脅威を含む幅広い危機に対応できるレジリエントな民主主義を支える基盤であると結論づけました。
質疑応答では、ウクライナ戦争に対するノルウェーの対応とインド太平洋地域における関与が取り上げられました。レニング博士は、ノルウェーが軍備を強化しつつ、最優先課題としてウクライナ支援を行っていることを説明しました。その防衛はノルウェー自身の安全保障に直結していると述べ、また、日本を含む民主主義国家との協力が、国際安全保障環境の複雑化に伴い一層重要になっていると強調しました。
なお、イベント終了後には、一橋大学 社会科学高等研究院の大月康弘院長への表敬訪問が行われました。
【イベントレポート作成】
羅 喬郁(一橋大学 国際・公共政策大学院 修士課程)
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