2024年12月20日、グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は、鈴木麻央教授(シンガポール国立大学専任講師)を講師として、第34回ブランバックランチセミナーを開催しました。「グローバル・ヘルス・パートナーシップの門番 -マルチステークホルダー・グローバル・ガバナンスにおける市民社会」と題し、グローバル・ヘルス分野における様々な主体の役割と協力関係について議論しました。
鈴木教授は、国際機関、政府、民間企業のリソースを活用し、世界的な保健上の課題に取り組むにあたり、官民パートナーシップ(Public-Private Partnerships: PPPs)が極めて重要な役割を果たすことを強調しました。PPPsは、公的資源と民間のイノベーションを組み合わせることで、特に低所得国において、保健医療の不平等に対処し、医薬品へのアクセスを改善し、保健システムを強化しています。Gaviワクチンアライアンス(Gavi the Vaccine Alliance)のようなイニシアティブは、PPPsがいかに資金を動員し、イノベーションを加速し、持続可能な解決策を生み出すことができるかを示しています。しかし、権力の不均衡、説明責任の所在、優先順位の相反といった課題も残されているといいます。
鈴木教授によれば、PPPsの成功は、Gaviのようなイニシアティブに見られるように、市民社会の掲げる福祉上の目標と、企業の重視するイノベーションと収益性を一致させることにかかっています。しかし、市民社会が環境保護基準や安価な医療など、より厳しい規制を提唱し、企業がコストや柔軟性への懸念からこれに抵抗する場合には、対立が生じると論じました。鈴木教授は、PPPsが、共通の目標設定と協力を促し、マラリアやHIVのような非感染性疾患に大きな影響を及ぼしたことを強調しました。しかし、栄養不良や女性の健康といった問題は、利害の対立から障壁に直面しています。栄養不良に対処するには、食品業界の監督を厳しくする必要があり、女性の健康を改善するには、手頃な価格のケアが必要であるためだと指摘しました。
質疑応答の中で、鈴木教授は、強力な規制の枠組みがない国でPPPsを形成することの難しさについて論じました。また、アドボカシー活動、条約の実施、パートナーシップを維持するための公共の幅広い関与を通じて、ギャップを埋める市民社会組織の重要な役割を強調しました。
最後に鈴木教授は、喫緊の保健上の課題に対処するうえで、PPPsの可能性を強調しました。PPPsの成功は、市民社会と民間セクターの目標を一致させ、規制の対立を克服し、信頼を築くことにかかっています。障壁は依然として存在するものの、Gaviのような例は、協力して行われた取り組みが、世界の保健にとって実効性があり、公平で持続可能な解決策へとつながることを示しています。
【イベント・レポート作成】
ビラル・ホサイン(一橋大学大学院法学研究科博士課程)
【日本語翻訳】
岸晃史(一橋大学法学部 学士課程)