2025年6月27日、一橋大学グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は、第40回ブラウンバッグランチセミナー「難民保護と市民社会の役割 —日韓比較研究」を開催しました。本セミナーでは、チョン・ミンヒ氏(一橋大学大学院法学研究科博士課程)を講師にお招きしました。本セミナーは、チェ・ウォングン助教授(韓国外国語大学政治学部)とチョン氏による共著論文「Refugee protection and the role of civil society: a comparative study of Japan and South Korea」(The Pacific Review 第38巻第4号、2024年)に基づいて行われました。
チョン氏は、日本と韓国における難民保護政策の様々なレベルでの実行に焦点を当て、その共通点と相違点を論じました。まず、両国に共通する特徴として、国際難民法の戦略的な受容や、経済支援による難民の受け入れに対する忌避感が挙げられると指摘しました。また、両国ともに難民地位認定は極めて限定的で、申請者数の増減にかかわらず、一定の認定者数に留まるという「見えない壁」が存在していると論じました。たとえば韓国では、難民申請者数が増加している一方で、認定者数は100前後で推移しています。
続いて、チョン氏は日韓の難民保護政策における差異に注目し、市民社会の役割に着目して比較しました。日本の市民社会は主にトップダウン型で、政府の補完的な役割を担うことで、グローバルな規範の地域レベルでの受け入れを後押ししてきたと述べました。たとえば、なんみんフォーラムや日本弁護士連合会は法務省と連携し、空港で庇護を求めた人々に対して緊急シェルターを提供する「収容代替措置(Alternative to Detention: ATD)」を、2014年から本格的に実施しています。これは、国際拘禁連盟によるキャンペーンの一環として、東アジアで初めて取り組まれた事例です。
一方、韓国の市民社会は主にボトムアップ型で、政府の難民保護政策に挑戦しながら認定手続きの公正性と透明性の向上に寄与してきました。たとえば2011年には、難民法の制定を働きかけた結果、それまで国境管理の一環として扱われていた難民保護政策が、人道的観点から難民の権利を重視する方向へと転換しました。さらに、認定手続きにおける不正を監視する上でも市民社会が重要な役割を果たしており、たとえば韓国法務部は市民団体の働きかけにより、2018年7月から難民認定面接の録音・録画を全面的に義務化するようになりました。
質疑応答では、難民受け入れの少なさに対する韓国社会の意識、北朝鮮からの避難民と他国からの難民の関係、日韓の国連との距離感の差異、アドボカシーの有効性、難民受け入れにおけるコミュニティーの役割などについて議論が交わされました。
【イベントレポート作成】
中島崇裕(一橋大学大学院法学研究科修士課程)
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