性的指向と性自認に関する国際人権規範の形成 ―規範の論争、規範クラスター、アクターの関与
中島崇裕
(一橋大学大学院法学研究科修士課程)
2025年8月20日
性的指向および性自認(Sexual Orientation and Gender Identity: SOGI)に基づく差別と暴力のない世界に向かう道のりは不確実性に満ちている。およそ15年前には、未来に対して楽観的に希望を抱くことは、決して的外れではなかったであろう。当時のオバマ政権は、対外政策の一環としてLGBTの権利[1]を人権として推進した。国務長官ヒラリー・クリントンは、2011年に国連における演説で、「LGBTであるということは、人間として劣っているということではありません。(中略)だからこそ、ゲイの権利[2]は人権であり、人権はゲイの権利である」と明言した[3]。多くの課題を抱えていたことは明らかであるが[4]、米国はSOGIの権利を擁護する国家として自国を示そうとしていた[5]。しかし、そのような時代はすでに過ぎ去った。新たな米国の政権は、LGBTIコミュニティに対する憎悪を政治的利益のためにあからさまに表出することをためらわない。トランプ政権は、LGBTIの権利に加え、より広範に周縁化された人々の人権に対するバックラッシュを加速化させている[6]。とりわけ、トランスジェンダーおよびノンバイナリーの人々に対する差別は一層深刻である。
しかしながら、米国や他の国々におけるLGBTIの権利に対する政治的な反発が、SOGIに基づく差別と暴力のない世界を目指す闘争が無意味であったことを意味するわけではない。たとえば、婚姻平等をめぐっては、完全な婚姻の平等を実現した国家が37か国、その他の法的パートナーシップ制度を認める国家が34か国存在する[7]。宗教的な障壁にもかかわらず、2024年にはギリシャが正教会を国教とする国として初めて同性婚を合法化した。平等の潮流はヨーロッパを超えて広がっている。2019年にはアジアで初めて台湾が、2025年にはタイが東南アジアで初めて同性婚を法制化した。
より広く見れば、SOGIに基づく直接的および間接的な差別を禁止するSOGI規範は、国連の人権メカニズムを通じて部分的ではあるものの着実な進展を遂げてきた。2011年には、国連人権理事会(United Nations Human Rights Council: UNHRC)が、「人権とSOGI」決議を採択した[8]。2000年以降UNHRCおよび国連総会におけるSOGIに関する決議の採択が繰り返し試みられてきたものの、実現には至っていなかった。「人権とSOGI」決議の採択以後は、UNHRCはSOGIに関する8つの決議を採択してきた。のちにその活動を分析するように、2016年には「SOGIに基づく暴力および差別からの保護に関する独立専門家(Independent Expert on sexual orientation and gender identity: IE SOGI)」の任命に至った。フィリップ・アユーブ(Philip Ayoub)とクリスティーナ・ストックル(Kristina Stoeckle)によれば、「女性参政権が自由民主主義における包摂の初期段階だったとすれば、それまで先進工業国の世俗的かつ限られた国家でしか認められていなかったLGBTIQの権利が、国際人権制度に取り込まれたことは、現代の平等的な多元主義の到達点を象徴している」[9]。以下に示すように、必ずしも十分とはいえないものの、SOGI規範は徐々に国際的な正当性を獲得している。
本稿の目的は、SOGI規範を取り巻く「国際人権における進展」と「政治的敵意」との相反する動態を理論的に把握することである。そのために本稿は、国際関係論における規範研究の分析枠組みを用いる。特に、規範の論争(norm contestation)、トランスナショナル・アドボカシー・ネットワーク(transnational advocacy network: TAN)、規範クラスター(norm cluster)といった概念を用いることで、SOGI規範の進展と抵抗を把握することを意図する。
本稿は、SOGIに関する人権規範の発展だけなく、それに対抗するアクターがどのような戦略や言説によって規範に挑戦しているのかも分析の対象とする。ただし、反対勢力による行動を分析するものの、その主張を正当化することを意図しない。むしろ、人権の擁護には、反対する勢力の論理や行動を可視化し、批判的に検討することが不可欠である。また本稿は、SOGI規範の分析を通じて、規範研究の理論的展開を紹介することも意図している。「適切性の論理」を超え、近年の規範研究は規範に対する挑戦や戦略的な使用を強調している。このような視座を参照し、SOGI規範がどのように挑戦を受け、一方で正当性を獲得してきたのかを分析する。
本稿の構成は以下の通りである。第1節では、現行の国際人権法に基づく国家の義務を確認する。第2節では、SOGI規範をめぐる国際的な論争の構図を検討する。第3節および第4節では、SOGI規範が既存の規範クラスターの中でどのように位置づけられているのかを分析し、国連の独立専門家であるIE SOGIに焦点を当て、アクターの関与を分析する。
SOGI規範と国際人権法における国家の義務
規範とは、「特定のアイデンティティを持つアクターにとっての適切な行動の基準」と定義される[10]。規範は社会的事実として、アクターの行動を規律し、そのアイデンティティを構成する機能を持つ。人権に関する国際規範の文脈では、こうした規範が国家に対して重要な役割を果たすとされている。具体的には、国家が人権を侵害した場合に、それを非難・監視し、遵守を求める圧力を加える。また、市民社会組織(civil society organization: CSO)に対しても、国家に対する働きかけの正当性や根拠を与え、行動を支える[11]。たとえば欧州では、EU新加盟国に対してLGBTの権利保障に関する社会化の圧力が作用し、LGBTに関する法律整備が促されてきた[12]。また台湾における婚姻の平等の実現は、国内的な社会運動や政治状況という文脈に加え、大陸の中国共産党は実施できない人権政策を行うことで、アイデンティティの違いを示すという背景もあった[13]。
SOGIに関する国際人権規範の定義については、フェルナンド・G・ヌニェス=ミエッツ(Fernando G. Nunez-Mietz)とルクレシア・ガルシア・イオミ(Lucrecia García Iommi)による定義が有用である。この定義では、LGBTの権利規範は「性的指向や性自認に基づく差別の禁止という理念によって結びつけられた、原理的な禁止・命令の集合」として捉えられる[14]。本稿ではこの定義をSOGI規範の定義として用いる。
SOGI規範は、大きく二つの側面を持つ。一つは、差別や暴力の禁止を中心とする禁止的規範である。たとえば、歴史的に同性間の性的関係を犯罪として処罰してきたソドミー法(sodomy law)の撤廃がこれに当たる。もう一つは、直接的・間接的な差別を是正するための処方的規範である。たとえばLGBTIの人々の集会や表現の自由を法的に保護する制度の整備が挙げられる。これらのSOGI規範が社会の中で実質的に機能するためには、それまで暗黙のうちに許容されてきた差別的・暴力的な規範である許容的規範を廃し、代わりにSOGIを尊重する新しい規範を確立する必要がある。しかし現実には、こうした許容的規範は今なお根強く存在している。たとえばウガンダでは、「反同性愛法(Anti-Homosexuality Act)」によって、同性関係に死刑を含む厳罰を科し、LGBTIの権利擁護活動に対しても禁固20年が科せられる。
それでは、現在の国際人権法のもとでは、国家はSOGI規範に関してどのような具体的な義務を負っているのだろうか。この点について、国連の文書が重要な指針を与えている。2012年、国連人権高等弁務官事務所(Office of the High Commissioner for Human Rights: OHCHR)は、Born Free and Equal (BFE)という報告書を公表した[15]。2019年に改訂されたこの報告書では[16]、国際人権法の下でのSOGIに関する国家の義務が体系的に整理され、それを実施している国々の好事例が紹介されている。その中で、国家が果たすべき5つの中核的義務(core obligations)が提示されている。以下に報告書の内容を抜粋し紹介する[17]。
(1) 暴力からの保護
国家は、SOGIに基づいて個人に対して行われる暴力を防止し、それに対する捜査・訴追を行う義務を負う。対象となる行為には、標的型殺人、性的暴力、扇動行為、ヘイトスピーチなどが含まれる。また、SOGIに基づく迫害を難民認定の根拠として認めることも、この義務の一部である。たとえば2014年、イギリスの警察大学(College of Policing)は、ヘイトクライムに対応する警察官のためのガイドラインを発表した。この中には、同性愛嫌悪やトランスジェンダー嫌悪に基づくヘイトクライムへの対応方法も記載された。
(2) 差別の防止
国家は、拘禁施設や医療機関などを含むあらゆる状況における拷問や虐待を禁止し、その加害者を調査・処罰しなければならない。2015年、マルタは、社会的要因に基づくインターセックスのこどもへの非同意的な医療介入を世界で初めて禁止した。この禁止は、当事者の身体的自律性を保護する措置である。
(3) 差別的法律の撤廃
国家は、同性愛関係や、レズビアン、バイセクシュアル女性、トランスジェンダーの人々を犯罪化する法律を含め、SOGIに基づく差別的な法律を撤廃する義務がある。国家はLGBTの人々を標的とすることを意図して売春関連法のような懲罰的立法をすることがある。このような法律も撤廃が求められる。2013年、サモアは、男性が「女性のふりをすること(impersonation of females)」を犯罪とする刑法規定を撤廃した。サモアには、出生時に男性と割り当てられながらも、女性的な表現を含む多様なジェンダー表現を行う、ファファフィネ(fa’afafine)という人々がいる。多くの人々から第三のジェンダーとして認識され、社会や文化の重要な構成要素である。
(4) 差別の禁止と是正
国家は、SOGIおよび性の特徴に基づく差別を、公的・私的領域のいずれにおいても禁止する包括的な立法を制定するべきである。対象となる分野は、保健、教育、雇用、住宅、性自認の法的承認、司法アクセスと救済、家族やコミュニティでの扱い、関係の承認、政治参加および協議など、多岐にわたる。2014年、メキシコの最高裁判所は、SOGIに関連する訴訟を扱う裁判官や法曹関係者のためのプロトコルを発表した。この文書は、司法へのアクセスを妨げる有害なステレオタイプや誤解を特定し、是正する視点を提示している。
(5) 表現・平和的集会・結社の自由の尊重
国家は、SOGIおよび性的特徴にかかわらず、すべての人々に対して、意見および表現の自由、平和的な集会および結社の自由を保障しなければならない。これには、SOGIに関する人権擁護活動に従事する人権擁護者も含まれる。また、権利に対する制限は、差別的であってはならず、国際人権法に定められたすべての要件を満たさなければならない。ボツワナでは、政府がCSOである「レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルのボツワナ人(Lesbians, Gays, and Bisexuals of Botswana: LEGABIBO)」の登録を拒否したことについて、控訴裁判所が違憲と判断した。この判決は、LGBTの人々が集会および結社の自由を有することを明確に認めた。
これらの義務は、国際人権法上の基本的な義務として定められている。しかし、それがSOGI規範全体とそのまま合致しているわけではない。SOGI規範の具体的な内容は、地域や社会によって異なる。たとえば、SOGI規範による国家への社会化の圧力は、ヨーロッパと北米では異なっている[18]。
SOGI規範をめぐる論争
国際関係論における規範研究は、当初規範の影響力に注目し、それらが進歩的かつ直線的に発展するという前提に立っていた。一方で近年は、規範をめぐるより複雑で微妙なダイナミクスに焦点が移動してきた[19]。研究者は、アクターが規範の意味や用途をめぐって争う規範の論争に注目するようになった[20]。規範の論争研究においては、どのような規範も、すべての状況に対して明確な処方箋(具体的な行動)を与えるわけではないと想定する。アクターには規範を解釈する余地があり、アクターごとの異なる規範の適用方法の解釈をめぐって「適用性の論争(applicatory contestation)」が生じることがある。さらに、ある規範の正しさに疑念を持つ「妥当性の論争(validity contestation)」が起きることもある[21]。こうした論争は、国際レベル、地域レベル、国内レベルを問わず、適用や正当性が問われる場面で常に生じ得る[22]。
規範研究の中心的な論点のひとつに、「規範の強度(単純化すれば、規範が国家の行動にどの程度影響を及ぼしているか[23])」がある[24]。三つの段階に分類される規範研究は、規範の強度の観点からは以下のように整理でき、それぞれが規範の強度を異なる視点から分析を加えている[25]。第一段階の研究は、規範の重要性を示すため、物質的利益と対比しながら規範が持つ国家の行動への影響を分析する。第二段階の研究は、国際規範の国内に対する影響に焦点を当て、なぜ規範の影響が国家ごとに異なるのかを分析する。そして第三段階の研究は、規範をめぐる論争のダイナミクスそのものに注目し、そうした論争が規範の強度にどのように影響するのかを検討している[26]。
最近の研究では、規範に対する論争は例外ではなく、むしろ規範を健全に維持するうえで重要であるとされる。ただし、その論争の形態によって影響は異なる。すなわち、妥当性の論争は規範の強度に深刻な影響を与える一方で、適用の論争は規範の意味を明確化するという積極的な機能も果たしうる。規範をめぐる論争が規範の正当性を損ない、やがて規範の「死(death)」に至るという見解もある一方で[27]、他方で、アクター間の対話を促し、規範の内容を洗練させるという肯定的な見解も存在する[28]。このような見解の不一致に対し、リスベス・ツィンマーマン(Lisbeth Zimmermann)らによる包括的な研究は、妥当性の論争が広範に生じると規範の強度を弱める一方、適用の論争は広く見られ、しばしば規範の実践的な意味を明確にする効果を持つと示している[29]。統一的な見解とまではいえないものの、規範の妥当性そのものに関する論争は国際関係において規範の強度にとって有害である可能性が高い[30]。
SOGI規範の特質として顕著なのは、妥当性の論争が頻繁に起こっている点である。2011年にUNHRCがSOGIに関する決議を採択した後も、SOGI規範は国際レベルおよび国内レベルの両方で依然として論争の対象となっている。主要な反対国としては、ロシア、ハンガリー、サウジアラビア、イラン、ウガンダなどが挙げられる[31]。
中でもロシアは、SOGI規範の正当性をめぐる争いにおける強力なアクターである。同国は伝統的価値を重視し、SOGI規範を西洋からの脅威であると位置づけている。2010年代初頭には、ロシアが主導する「伝統的価値と人権」に関する決議が国連人権理事会に提出された。これに対して、複数の国家やNGOは、伝統的価値の過度な強調が人権の普遍性を損なうおそれがあり、LGBTIを含む周縁化された人々を抑圧するための言説として用いられかねないと批判した[32]。さらに最近の例として、国連安全保障理事会における議論が挙げられる。国連安保理では2000年代以降、「女性・平和・安全保障(Women, Peace and Security: WPS)」のアジェンダが議論されてきた。このアジェンダは、安全保障という「ハイ・ポリティクス」の領域にジェンダーの視点を導入し、女性の権利の促進に貢献してきた。一方で、このアジェンダはしばしば「ジェンダー」と「女性」を同一視する傾向がある。そのため、近年ではこのアジェンダにより多様なジェンダーの視点を組み込もうとする動きが出てきている。こうした文脈において、2024年のWPSに関する国連安保理の会合で、ロシア代表団は、オリンピックに出場したインターセックスのアスリートに対して「男性である」と非難し、LGBTIの人々を女性の安全を脅かす存在として描いている。その発言に続く、ロシアの主張を紹介する。
この極めて忌まわしい(absolutely disgusting)パフォーマンスは、西洋が世界に強引に押しつけているレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーのアジェンダが、女性の権利と尊厳にいかに多大な害をもたらしてきたかを示している。我々は、多くの伝統的な社会において、女性、妻、母親が何世紀にもわたって築かれてきた形で、政治的・社会的プロセスに影響を及ぼしており、そうした場における彼女らの影響力は、むしろリベラルな思想を掲げる社会よりも効果的である可能性すらあると考えている[33]。
この発言は、SOGI規範を西洋による押しつけとして歪め、伝統的価値や女性の権利に反するものとして位置づけようとするロシアの戦略を例示している。LGBTIの権利擁護を外国のアジェンダと描き出すことによって、ロシアはジェンダーの多様性や平等を推進しようとする国際的な努力の正当性を削ごうとしている。このような言説はSOGI規範を曲解しているだけでなく、ジェンダーを二元的かつ排他的に理解する枠組みを強化しうる。ここでの「伝統」は、LGBTI当事者に対する差別的政策を正当化し、国際的な舞台においてその周縁化を正当化するために機能している。こうした妥当性に対する論争者は、SOGI規範の促進を「彼ら」による「我々」に対する実存的脅威として二項対立的に描き出し、LGBTIの人々を「宗教」「国家」「家族」「女性」「子ども」などを脅かす存在として表象することが多い[34]。
こうした国際レベルでの言説に加え、国家は国内レベルでも差別的な施策を導入・維持している。ロシアは2013年にゲイ・プロパガンダ禁止法を制定し、2022年にはLGBTQ+に関する肯定的、ないし中立的な言説を全面的に禁止する形でこの法律を改正した[35]。ウガンダは、2023年に国際的非難を浴びた反同性愛法を含む複数の反LGBT法を可決している[36]。国際レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスおよびインターセックス協会(ILGA)によれば、2025年時点で、同意に基づく同性間の性的行為を刑罰の対象としている国家は61か国に上る。ただし、この数は1995年の103か国から、2005年には80か国、2015年には75か国と、徐々に減少してきた[37]。
このような反対の姿勢を示す国家が存在する一方で、冒頭に見たようにSOGIの権利を尊重しようとする国家も存在する。SOGI規範に関する研究者は、こうした状況を規範の分極化(norm polarization)として特徴づけている。たとえば、マルクス・ハドラー(Markus Hadler)とジョナサン・サイモンズ(Jonathan Symons)は、世界社会論を修正し、同性愛に対する態度が国家レベルと市民レベルの両方で分断されていることを示した[38]。また、ジョナサン・サイモンズとデニス・アルトマン(Dennis Altman)は、SOGI規範をめぐる分極化の実態について、「相反する規範を採用した2つの国家グループが、規範をめぐって繰り返し衝突している」と分析している[39]。さらに、クリストファー・ヴェラスコ(Kristopher Velasco)は国際的な分極化と市民社会の関係を分析している。SOGI規範が反リベラルな越境ネットワークに取り込まれている場合、市民レベルの人々がSOGI規範に接触した際に、反発が生じると示した[40]。
フィリップ・アユーブとクリスティーナ・ストックルは、これらの議論を踏まえて、SOGI権利の推進派と反対派の間に存在する、敵対するトランスナショナル・アドボカシー・ネットワーク(rival TAN)を理論化した[41]。TANとは、規範研究が焦点を当てる規範の拡散経路の一つである。国際機関、国内およびトランスナショナルなCSOs、国家で構成されるアドボカシーのネットワークが、規範の普及と国家への圧力を担うと想定される。TANは、規範が侵害されているような国家の国内にある市民社会を、国境を越えたアドボカシーのネットワークと結びつけることで、国家に人権規範を遵守させるための圧力をかける。このメカニズムを内包するブーメランモデル[42]やスパイラルモデル[43]といったモデルは、単一のTANがアクターに対して規範を擁護するための資源を提供すると想定していた。しかし、アユーブとストックルの敵対するTANモデルによれば、SOGI規範においては、2つの対立するネットワークが存在している。規範を擁護するTANに加え、規範に抵抗し反対するTANが存在することで、規範に抵抗しようとする国家やアクターは、抵抗側のグローバルなネットワークが提供する規範的主張を利用することが可能になっている。
SOGI規範は、国際的にも国内的にもその正当性をめぐって争われている。言説的にも国内制度的にもSOGI規範の「正しさ」に抵抗する国家が存在し、こうした挑戦は、国家および非国家アクターによって形成されたトランスナショナルなネットワークを通じてさらに強化されている。
規範クラスター
どのように妥当性の論争に対処できるのであろうか。規範研究によれば、規範に対する論争がもたらす負の影響を緩和し、国際規範の正当性を維持するためには、既存の規範クラスター(norm cluster)への埋め込みが重要である。ジェフリー・S・ランティス(Jeffery S. Lantis)とカルメン・ヴンダーリッヒ(Carmen Wunderlich)は、他の規範と孤立した状態にある規範と比べて、より大きな規範クラスターに埋め込まれている規範の方が、論争的な挑戦を受けた際にもより強靱(resilient)であると論じる[44]。その定義によれば、規範クラスターとは、「類似した方向性をもつ、相互に結びついた規範や原則の集合」である[45]。すなわち、類似した規範の集合の中に埋め込まれているほど、規範は論争に対して強靭性をもつ。ランティスとヴンダーリッヒによれば、規範クラスターに埋め込まれている場合、妥当性の論争が持つ規範の強度に対する影響は低減される。規範の強靱性は、①個々の規範とより広範なクラスターとの間に言説的な連関性があり、②制度化されている場合に高まる。たとえば、核兵器廃絶の規範は核不拡散体制という大規模な規範クラスターに組み込まれていることにより比較的強靱である一方、より孤立している暗殺禁止規範は脆弱であると分析している。
SOGI規範は、すでに確立された国際人権規範のクラスターへの埋め込みを高めてきた。SOGIに関する独立した国際条約(たとえば、「SOGIの権利に関する国際条約[46]」)はいまだ存在しない。しかし、SOGI規範は、既存の国際人権規範のクラスターの中に着実に組み込まれてきている。このプロセスは、1994年のトゥーネン対オーストラリア事件(Toonen v. Australia)をきっかけに、国連人権委員会(UN Human Rights Committee)が市民的および政治的権利に関する国際規約(International Covenant on Civil and Political Rights: ICCPR)の締約国には性的指向に関する義務があると表明したことから始まった。続いて、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(International Covenant on Economic, Social and Cultural Rights: ICESCR)、拷問等禁止条約(Convention against Torture and Other Cruel, Inhuman or Degrading Treatment or Punishment: CAT)、子どもの権利条約(Convention on the Rights of the Child: CRC)下の4つの国連委員会が同様の姿勢をとるようになった[47]。
埋め込みの深化は、二つのBFE報告書の比較によって観察可能である。2012年版と2019年版のBFEを比較すると、SOGI規範に関する記述の包摂性が増加し、他の人権規範との結びつきが強まっている[48]。表1は、BFEが示す中核的義務を、それぞれの国際人権法文書と対応させて一覧にした。2019年版では、中核的義務の記述がより包摂的な表現に改められている。たとえば、2012年版では第1の義務が「同性愛嫌悪やトランスフォビアに基づく暴力からの個人の保護」と記述されていた。一方、2019年版では「同性愛嫌悪」や「トランスフォビア」といった形容語が削除され、「暴力からの個人の保護」という表現になっている。これは、SOGI規範の遵守が人権体系とは別個のものではなく、「個人は暴力から守られるべきである」という人権の基本的な原則の延長にあることを明示する表現となっている。また、暴力は同性愛嫌悪やトランスフォビアだけでなく、たとえばインターセックスの人々に対する偏見に起因する場合もある。さらに、SOGI規範は他の国際人権規範との関連性をより強く持つようになっている。図表は、2012年版と比べて、2019年版において関連づけられている国際人権法の数が、第3の義務を除いて増加していることを示している。
表1:二つのBFE報告書におけるSOGI規範と他の国際人権法の連関
義務の 番号 |
2012年版の中核的義務 | 2012年版の関連する国際人権法 | 2019年版の中核的義務 | 2019年版の関連する国際人権法 |
1 | 同性愛嫌悪やトランスフォビアに基づく暴力からの個人の保護 | 世界人権宣言(Universal Declaration of Human Rights: UDHR)(第3条) ICCPR(第6条第9条) 難民の地位に関する条約(Convention Relating to the Status of Refugees: CRSR)(第33条(1)) |
暴力から個人の保護 | UDHR(第3条) ICCPR(第6条第9条) CRC(第33条(1)) CAT(第3条(1)) CRSC(第33条(1)) 女性に対するあらゆる形態の暴力の撤廃に関する宣言(Declaration on the Elimination of All Forms of Violence against Women)(第4条) |
2 | LGBTの人々への拷問及び残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱いの防止 | UDHR(第5条) ICCPR(第7条) CAT(第1条(1)、第2条(1)) |
拷問及び残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱いの禁止 | UDHR(第5条) ICCPR(第7条) CAT(第1条(1)、第2条(1)) CRC(第37条(a)) 障がい者の権利に関する条約(Convention on the Rights of Persons with Disabilities)(第15条) |
3 | 同性愛の非犯罪化 | UDHR(第2条、第7条、第9条、第12条) ICCPR(第2条(1)、第6条(2)、第9条、第17条、第26条) |
差別的な法律の撤廃 | UDHR(第2条、第7条、第9条、第12条) ICCPR(第2条(1)、第6条(2)、第9条、第17条、第26条) |
4 | 性的指向と性自認に基づく差別の禁止 | UDHR(2条、7条) ICCPR(2条(1)、26条) ICESCR(2条) CRC(2条) |
差別の禁止と是正 | UDHR(第2条、第7条) ICCPR(第2条(1)、第26条) ICESCR(第2条) CRC(第2条) CEDAW(第2条(f)) |
5 | 表現、平和的集会、結社の自由の保障 | UDHR(第19条、第20条(1)) ICCPR(第19条(2)、第21条、第22条(1)) |
表現、平和的集会、結社の自由の保障 | UDHR(第19条、第20条(1)) ICCPR(第19条(2)、第21条、第22条(1)) 人権擁護者に関する宣言(Declaration on Human Rights Defenders)(第1条) |
出典:BFE報告書をもとに筆者作成。
他の人権規範との結びつきや規範クラスターへの埋め込みが高まっていることは、SOGIの権利をめぐる国際的なアドボカシーが人権的なアプローチを採用してきたことを踏まえる必要がある。すなわち、SOGIの権利を擁護する運動では、新たな権利を創設することを目的とするのではなく、既存の人権規範を異性愛規範(heteronormativity)の枠を超えて適用することであると強調してきた[49]。たとえば、紛争地域における人権状況をより的確に把握するには、性別を二分法的カテゴリーのみに基づいて判断するのではなく、より多様な性的および性自認をもとにしたデータ収集が必要となる。
本節では、SOGI規範が既存の国際人権規範のクラスターが埋め込まれ、そしてそれが強化されていることを確認した。SOGI規範は正当性の論争に直面している。しかし、理論的には、規範の強靱性を高めていると仮説立てることができる。次節では、こうした規範の埋め込みにどのようなアクターが関与しているのかを検討し、国連の独立専門家であるIE SOGIのアプロ―トと活動内容を分析する。
アクターの関与
規範研究には、構造と行為主体が相互に構成し合うという理論的前提がある。すなわち、規範は構造として、行為主体の行動を制約し、そのアイデンティティを形成する力を持つ。同時に、行為主体はそうした構造の単なる受動的な受け手ではなく、自らの行動を通じて構造そのものを変容させることができる能動的な存在でもある。このような観点から、アクターによる規範の論争が規範の強度に及ぼす影響を分析する研究は、行為主体に焦点を当てたアプローチであるといえる。同様に、規範がより広範な規範クラスターに埋め込まれていく過程も、諸アクターの意図的な行為によってもたらされる。
SOGI規範の国際人権規範クラスターへの埋め込みは、SOGI規範の理念のもとに行動するアクターの意図的な関与の結果である。国連機関や地域人権機関、たとえば米州人権委員会(Inter-American Commission on Human Rights)や人及び人民の権利に関するアフリカ委員会(African Commission on Human and People’s Rights)は、SOGI規範の解釈に積極的に取り組んできた[50]。ヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch)、ILGA、OutRight International といった国際NGOもまた、各国の人権侵害の実態を調査・可視化し、SOGI規範の促進に向けて積極的なアドボカシー活動を行っている。また、国連では、国家アクターが国・地域を超えて構成する非公式の連携体「LGBTIコア・グループ(LGBTI Core Group)」を形成し、意識喚起や協力の促進、交渉の調整、率直な対話を通じて共通基盤の形成を図っている。日本もまたコア・グループに参画している。
こうしたアクターに加えて、2016年に設立されたIE SOGIの活動も重要である。この設置をめぐる言説的な論争を分析したジョエル・M・ヴォス(Joel M. Voss)は、IE SOGIの設置によって「LGBTQI個人の非差別と暴力からの保護を目指す運動に、より大きな正当性と力が付与された」と評価している[51]。IE SOGIの任務は多岐にわたる。具体的には、(a)既存の国際人権文書の実施状況の評価、(b)意識啓発、(c)関係者との対話、(d)国家との協働、(e)多重的・交差的かつ深刻な暴力・差別形態への対応、(f)助言・技術支援・能力構築・国際協力の実施・促進・支援である[52]。任期は3年間で、これまでに3名が任命されている。初代はタイ出身のヴィティット・ムンタボーン(Vivit Muntarbhorn、2016–2017)、2代目はコスタリカ出身のビクトル・マドリガル=ボルロス(Victor Madrigal-Borloz、2018–2023)、そして3代目は南アフリカ出身のグレアム・リード(Graeme Reid、2023–2026)である。いずれもグローバル・サウス出身者が任命されている。さらに2025年7月7日には、国連人権委員会で3年間の延長が決定された。
IE SOGIは毎年、国連総会および国連人権理事会に対して関連テーマに関する報告書を提出している。たとえば2020年の報告書では、いわゆる「転向療法(conversion therapy)」の実態が分析された。IE SOGIは、こうした療法が個人に深刻な心理的・身体的被害を与えることから、非差別原則、健康に対する権利、拷問および虐待の禁止、信教・良心の自由、表現の自由、子どもの権利といった人権原則に違反するものであると結論づけている[53]。
IE SOGIはまた、誘致(invitation)に応じて各国を訪問し、現地でデータ、情報、優良事例を収集し、必要な実施措置を提言している。これまでにIE SOGIが公式訪問を行った国は10カ国にのぼる。具体的には、アルゼンチン(2017年)、ジョージア(2018年)、モザンビーク(2018年)、ウクライナ(2019年)、チュニジア(2021年)、アメリカ合衆国(2022年)、カンボジア(2023年)、イギリス(2023年)、ポーランド(2024年)、アルバニア(2024年)である[54]。訪問の際には、多様な関係者から提出された文書やヒアリングをもとに、LGBTI当事者が直面している社会的・法的課題を調査し、文脈に即した具体的な実施措置を提案している。
IE SOGIの活動は、SOGI規範を国際人権法の文脈の中で明確にし、他の国際人権規範との結びつきと埋め込みを強化している可能性が高い。このような仮説をもとに、以下ではIE SOGIの活動をアプローチと活動内容の観点から分析する。2021年から2023年にかけての作業計画はIE SOGIのアプローチを明示している。専門家の活動の内容と方針が記されており、「交差性(intersectionality)」と「対話(dialogue)」という二つの基本的アプローチが明示されている[55]。IE SOGIによれば、第一のアプローチである交差性の分析は、SOGIを理由とした差別や暴力の根本原因を明らかにするために不可欠である。その分析には、次のような視点が求められる。
ジェンダー、性、性的欲望に関する、ある時代・ある場所において規範的とされる理解がいかにして構築されてきたのかを明らかにするためには、歴史的・社会文化的・政治的・人類学的な要因を含めた多次元的な評価が必要である。その結果として、人々の生きられた経験には、人種、民族、宗教あるいは信条、健康状態、社会経済的地位、移民やその他の地位、年齢、階級やカースト、障害の有無などが複雑に絡み合って反映されている[56]。
交差性の分析のために、IE SOGIは他の国連人権専門家と連携して活動している。たとえば、UNHCRの保護担当補佐官(Assistant High Commissioner for Protection)と協働して、LGBTQ+の庇護希望者や難民が直面する独自の脆弱性に光を当てた[57]。また、適切な生活水準としての住居の権利と差別撤廃に関する特別報告者(Special Rapporteur on adequate housing as a component of the right to an adequate standard of living)と連携し、若年LGBTQ+ホームレスに関する懸念を表明した[58]。障がい者の権利に関する国連特別報告者(United Nations Special Rapporteur on the Rights of Persons with Disabilities)と共に、障害を持つLGBTQ+当事者が直面する困難を取り上げた[59]。
IE SOGIの活動は、安全保障アジェンダにも及ぶ。2022年の報告書では、SOGIと安全保障の問題が取り上げられた。既存の安全保障枠組みでは「ジェンダー」がしばしば「女性」と同一視され、SOGIの多様な側面が見過ごされてきた結果、国家・非国家アクターによるLGBT個人の身体への侵入や、紛争時にLGBTQ+当事者が避難所へのアクセスを持てない事態が生じている[60]。さらに、2023年には、IE SOGIが国連安保理におけるWPSアジェンダへのSOGIの組み込みの必要性を訴え、交差的アプローチの導入を強調した[61]。
第二の基本的アプローチは対話である。対話の対象は国家アクターから、地域機関や市民社会のアクターまで多岐にわたる。たとえば2019年には、IE SOGIは米州機構(Organization of American States: OAS)におけるLGBTI担当特別報告者と共同で、カリブ地域におけるSOGIに基づく差別について協議する場を設けた[62]。国連総会や国連人権理事会への報告書、その他の活動もまた、NGOや学術機関、個人からの提出文書を基に構成されている。IE SOGIはまた、宗教的権威との対話の機会も創出してきた。たとえば、グルジア正教会の総主教、全イスラム教徒のムフティ、ユダヤ評議会の議長、ナンブラのムフティ、カトリックの大司教、首席ラビ、そしてウクライナ、米国、英国の信仰に基づく指導者が含まれる[63]。
また、SOGIに懐疑的または敵対的な立場を示してきた一部の国連加盟国とも、対話の可能性は開かれている。IE SOGIは、「対話を通じて、マンデートの創設や更新を支持しなかった国家とも意見や考えを交換してきた。今後もそうした立場をとる可能性がある国々とも対話を継続していく」と述べる[64]。ただし、こうした対話は無条件ではない。IE SOGIは「友好的な議論を追求する中でも、殺人、レイプ、拷問といった犯罪や差別には、いかなる正当化もあり得ないという共通理解が存在する」と強調している[65]。IE SOGIは一貫して、LGBTQ+の人々を処罰対象とする法律や死刑制度など、差別的な法制度や規制を厳しく批判している。
IE SOGIは、交差性と対話という二つのアプローチに加えて、歴史的・地域的文脈を踏まえた上で、SOGIに関する人権課題に国際人権の視点から対応している。IE SOGIは反対するアクターによる言説的な対抗にも対応している。反対者はしばしば、SOGI規範を西洋からの外的脅威として位置づけ、妥当性を争おうとする。このような主張に対して、IE SOGIを設置する国連決議は「国家、特に開発途上国に対して、国内の関連する議論や意思決定プロセスに影響を及ぼすことを目的として、経済制裁の行使やその威嚇、あるいは政府開発援助に条件を課すといった手段による外部からの圧力や強制的措置が用いられることを非難する」と示している[66]。
2023年の報告書では、IE SOGIはSOGIと植民地主義の関係について言及している。報告書は、植民地支配以前に存在していた多様な性・ジェンダー文化を紹介した上で、植民地支配者がこれらの多様性を抑圧し、異性愛規範を強化する法制度や制度的枠組みを持ち込んだと指摘している。こうした手段は、「野蛮」を文明化することを目的とした植民地主義的なプロジェクトの一部として位置づけられていた[67]。たとえば、同性間の性行為を犯罪とするソドミー法のような制度は、現在でも多くの国で残存している。そのうえで、IE SOGIはこうした制度の起源が植民地主義にあることを認識しつつ、それらが独立後の現在でしばしば「伝統」として再解釈され、LGBTQ+個人を排除するために用いられている点を批判している[68]。
上記のようなアプローチをとるIE SOGIの具体的な活動内容を分析する。SOGIとその他の国際人権規範との法的な連関性を明確にしている。たとえば、選挙キャンペーンにおける政治的同性愛嫌悪の利用を取り上げ、LGBTQ+の人々を含むすべての人が平等に政治に参加する権利の重要性を強調している[69]。2024年の報告書では、IE SOGIは64カ国における差別的な法律や政策を特定している[70]。具体的な制限としては、CSOに対する禁止や制限、メディア・ソーシャルメディアでの活動の規制、プライドパレードの禁止、教育における表現や個人のアイデンティティの抑圧、国外からの資金調達の制限などが挙げられる。専門家は、これらの法律が、表現の自由、平和的集会の自由、結社の自由といった基本的な人権を侵害していると指摘する[71]。これらの自由はUDHR、ICCPR、CEDAWといった国際人権文書に明記されており[72]、LGBTQ+の人々を含むすべての人にとって不可欠な権利である。特にデジタル領域における表現の自由は、LGBTQ+の人々にとって重要であり、情報へのアクセスや当事者同士のつながり、自己表現、権利擁護のための手段となっていると指摘する[73]。一方で、こうした権利の侵害は「権威主義的ポピュリストの常套手段(the routine playbook of authoritarian populists)の一部」となっている[74]。たとえばトルコでは、デジタルプラットフォームや放送機関に対する監督当局が、LGBTに関する議論に対して罰金を科したり、反LGBT的なコンテンツを推奨したりしていると紹介されている[75]。
さらに、IE SOGIはプライドパレードなどSOGIに関連する表現の制限について、文化的権利の侵害としても位置づけている。文化的権利は「法律により規定され、他者の権利・名誉、国家安全、公共秩序、公衆衛生および公序良俗の保護に必要かつ比例的な制限のみが認められる」ものであり、過剰な制限は正当化され得ない[76]。健康とSOGIに関しても、IE SOGIは国際人権法および持続可能な開発目標(SDGs)に掲げられた健康の権利が LGBTQ+当事者にとっても基本的かつ適用可能であると強調している。また、思想、良心、宗教または信条の自由に関しても、国家および非国家のアクターが伝統的価値観や宗教的信念の名を装って、LGBTQ+の人々に対する暴力、ヘイトスピーチ、扇動を行い、直接・間接的に差別を永続化することがあると論じている。IE SOGIは、SOGIの多様性を前提とした包摂的な宗教のあり方を模索し、宗教の自由が LGBTQ+の人々にも保障されるべきであると訴えている[77]。
IE SOGIは、グローバル・ガバナンスにおける独立した権威として位置づけられ、2016年の創設以来、任期更新を繰り返しながら活動を継続してきた。その積極的な取り組みは、SOGI規範を既存の国際人権規範群に埋め込む動きを後押ししている。交差性、対話、歴史的文脈の考慮といった方法論を通じて、IE SOGIはSOGI規範と国際人権規範との関係を言説的に結び付けており、こうした行動は、長期的にはSOGI規範のレジリエンスを高め、適用をめぐって争われる場面でもその正当性は共有されるという状況を作り出す可能性がある。
結論
本稿は、SOGI規範について検討し、これらの規範が頻繁に争われている一方で、複数のアクターによる積極的な関与を通じて、国際人権規範クラスターへの埋め込みが徐々に進んでいると主張した。SOGI規範は、SOGIに基づく差別と暴力のない世界を理想とし、その達成のために国家の行動を制約・規定する。しかし、SOGI規範は国際的にも国内的にもその正当性をめぐってしばしば争われている。こうした規範の分極化の中で、支持者と反対者は対抗するTANを構成している。こうした厳しい環境の中で、SOGI規範は既存の国際人権規範クラスターへの埋め込みを深めてきた。この埋め込みは、正当性に対する挑戦に対する強靭性を高める可能性がある。トランスナショナルなCSO、国家、国際機関、国連の各組織が発展に寄与してきた。加えて、2016年に創設されたIE SOGIは、意図的で戦略的なアプローチを通じてこの取り組みに積極的に関与している。
一方で、SOGI規範の強度には依然として大きな不確実性が伴う。進展が見られるとはいえ、多くの国家はいまだにLGBTIの人々が直面する差別や暴力に対処せず、中にはこれらの差別に加担している場合さえある。IE SOGIの活動は、SOGI規範の前進に向けた見取り図を提供し、国家が自国の法制度を国際的な人権に関する義務に整合させるための手引きを与えているが、それが国家に対して直接的に法制度や政策の改変を強制するものではない。アクターによっては、こうした進展を後退させ、LGBTIの人々の人権を政治的利益のために利用することも可能である。その典型例がジョージアである。2018年にIE SOGIが訪問し、国内制度の改善を目指して評価を行った。しかし2024年、ジョージア議会はプライドイベントの制限、レインボーフラッグの公共空間での掲示禁止、LGBTQ+コンテンツを含む映画や書籍の検閲を定めた法案を可決した[78]。この立法は、ジョージアにおける民主主義の後退の一部であり、非自由主義的な戦略が継続していることを示している。このように、SOGI規範は依然として脆弱であり、権威主義的な統治の作法の一部として利用されやすい。IE SOGIが指摘するように、「(LGBTの権利に対する)制限の増加は、逆説的に、LGBTの人々を自身の言葉ではなく、政治目的のために歪められたかたちで『可視化』させることになってしまっている」[79]。
さらに、権利促進の取り組みが、しばしば期待とは逆の結果をもたらすこともある。SOGIをめぐる問題の主流化が、LGBTIの人々に対する新たな害を生み出すケースも少なくない。たとえばウガンダでは、他国におけるLGBTの権利促進の成功がSOGI規範への恐怖を誘発し、2023年の反同性愛法制定につながった[80]。
SOGI規範は、規範クラスターへの埋め込みを高めているが、それでもなお比較的「弱い」規範である[81]。そのため、SOGIに基づく差別や暴力のない世界の実現には、依然として困難が伴う。しかし、IE SOGIの言葉を借りれば、困難に直面したときに求められていることは、後退ではなく、冷静な分析と知識に基づき、一人ひとりが尊厳をもって生きられる世界を「丁寧に紡ぐ」ことである[82]。
謝辞
本稿は、2025年6月16日に出版されたGGR Working Paper No. 12を日本語に翻訳し、内容に若干の修正を加えたものである。原論文は、2024年度秋冬学期に一橋大学で開講された「Gender and International Relations」のタームペーパーをもとに執筆した。本稿の発展にあたり、前田眞理子准教授(一橋大学大学院法学研究科)がくださったご指導および示唆に富むご助言に、深く感謝申し上げる。また、本稿の出版および翻訳の機会を与えてくださった市原麻衣子教授(一橋大学大学院法学研究科)にも、記して感謝の意を表する。
[1] 本稿では、「LGBTI」という用語を、クィアやインターセックスを含む性的マイノリティおよびジェンダーマイノリティの包括的な呼称として用いる。これは、国際人権の言説において広く認識されている表現である。ただし、引用文献に従い、「LGBT」「LGBTIQ」「LGBTQI」「LGBTQ+」といった表記も併用する。 [2] ヒラリー・クリントンが用いた「gay rights」という表現は、英語圏ではしばしばLGBT全体の権利を象徴的に指す語として使われる。必ずしも男性同性愛者の権利に限定されるものではない。 [3] Hillary Clinton, “Secretary of State Clinton Human Rights Day Speech: Free and Equal in Dignity and Rights,” U.S. Mission to International Organizations in Geneva (December 6, 2011). (https://geneva.usmission.gov/2011/12/06/free-and-equal/#:~:text=Like%20being%20a%20woman%2C%20like%20being%20a%20racial%2C%20religious%2C%20tribal%2C%20or%20ethnic%20minority%2C%20being%20LGBT%20does%20not%20make%20you%20less%20human.%20And%20that%20is%20why%20gay%20rights%20are%20human%20rights%2C%20and%20human%20rights%20are%20gay%20rights 2025年7月14日最終閲覧) [4] 以下を参照。Cynthia Weber, Queer International Relations (Oxford University Press, 2016), pp. 104-142. [5] 本稿ではクィア国際関係理論(queer international relations theory)の議論を十分に取り上げていないが、同理論が提起する権利促進に対する批判的検討の重要性は見落としてはならない。以下の文献が概念を簡潔に整理している。Katharina Kehl, “Homonationalism revisited,” lambda nordica 25-2 (2020), pp. 17-38. [6] Lucy Middleton, “What Does a Donald Trump Presidency Mean for LGBTQ+ Rights?” Context (April 16, 2025). (https://www.context.news/socioeconomic-inclusion/what-does-a-donald-trump-presidency-mean-for-lgbtq-rights 2025年7月14日最終閲覧) [7] ILGA, “Area 1 Legal Frameworks: Same-Sex Marriage and Civil Unions,” ILGA Database. (https://database.ilga.org/same-sex-marriage-civil-unions 2025年7月14日最終閲覧) [8] この過程については以下を参照。Francine D’Amico, “LGBT and (Dis)united Nations: Sexual and Gender Minorities, International Law and UN Politics,” in Manuela Lavinas Picq and Markus Thiel, eds., Sexualities in World Politics: How LGBTQ Claims Shape International Relations (New York: Routledge, 2015), pp. 54-74; Anthony J. Langlois, “Making LGBT Rights into Human Rights,” in Michael J. Bosia, Sandra M. McEvoy, and Momin Rahman, eds., The Oxford Handbook of Global LGBT and Sexual Diversity Politics (Oxford Handbooks, 2020), pp. 75-88.国際人権法の観点からは、谷口洋幸「国際人権法とLGBTQ」『国際女性』35巻(2021年)、pp. 99-104。 [9] Phillip Ayoub and Kristina Stoeckl, “The Global Resistance to LGBTIQ Rights,” Journal of Democracy 35-1 (2024), p. 60. [10] Peter J. Katzenstein, “Introduction: Alternative Perspectives on National Security,” in Peter J. Katzenstein, ed., The Culture of National Security (Columbia University Press, 1996), p. 6. [11] Thomas Risse and Kathryn Sikkink, “The Socialization of International Human Rights Norms into Domestic Practices: Introduction,” in Thomas Risse, Stephen C. Ropp, and Kathryn Sikkink, eds., The Power of Human Rights: International Norms and Domestic Change, Cambridge Studies in International Relations (Cambridge: Cambridge University Press, 1999), pp. 1-38. また、 Emilie M. Hafner-Burton and Kiyoteru Tsutsui, “Human Rights in a Globalizing World: The Paradox of Empty Promises,” American Journal of Sociology 110-5 (2005) pp.1373-1411. [12] Phillip Ayoub, “Contested Norms in New-Adopter States: International Determinants of LGBT Rights Legislation,” European Journal of International Relations 21-2 (2015), pp. 293-322. [13] 鈴木賢『台湾同性婚法の誕生—アジアLGBTQ+燈台への歴程』(日本評論社、2022年)、pp. 319-323。この説明は、国家の同一化への着目の分析を提唱するシャーロット・エプスタイン(Charlotte Epstein)の主張や、規範をヒエラルキー創出の手段と捉えるアン・タウンズ(Ann Towns)の議論とも符合する。詳細については以下を参照。Charlotte Epstein, “Who Speaks? Discourse, the Subject and the Study of Identity in International Politics,” European Journal of International Relations 17-2 (2011), pp. 327-350. Ann E. Towns, “Norms and Social Hierarchies: Understanding International Policy Diffusion ‘from Below’,” International Organization 66-2 (2012), pp. 179-209. [14] Fernando G. Nunez-Mietz and Lucrecia García Iommi, “Can Transnational Norm Advocacy Undermine Internalization? Explaining Immunization against LGBT Rights in Uganda,” International Studies Quarterly 61-1 (2017), p. 200. [15] OHCHR, Born Free and Equal, Sexual Orientation and Gender Identity in International Human Rights Law, HR/PUB/12/06, OHCHR (2012). [16] OHCHR, Born Free and Equal, Sexual Orientation, Gender Identity and Sex Characteristics in International Human Rights Law. HR/PUB/12/06/Rev.1, OHCHR (2019). [17] Ibid. [18] Kelly Kollman, “Same-Sex Unions: The Globalization of an idea,” International Studies Quarterly, 51-2 (2007), pp. 329-357. [19] Phil Orchard and Antje Wiener, “Introduction: Norm Research in Theory and Practice,” in Phil Orchard and Antje Wiener, eds., Contesting the World: Norm Research in Theory and Practice (Cambridge: Cambridge University Press, 2024), pp. 1-26. [20] Antje Wiener, A Theory of Contestation (Springer, 2014). [21] Nicole Deitelhoff and Lisbeth Zimmermann, “Things We Lost in the Fire: How Different Types of Contestation Affect the Validity of International Norms,” International Studies Review, 22.1 (2020), pp. 51-76. [22] Antje Wiener, Contestation and Constitution of norms in Global International Relations (Cambridge University Press, 2018); Amitav Acharya, “How Ideas Spread: Whose Norms Matter? Norm Localization and Institutional Change in Asian Regionalism,” International Organization 58-2 (2004), pp. 239-275; Alexander Betts and Phil Orchard, eds. Implementation and World Politics: How International Norms Change Practice (OUP Oxford, 2014). [23] 規範の強度の定義と測定については議論がある。以下を参照。Michal Ben-Josef Hirsch and Jennifer M. Dixon, “Conceptualizing and Assessing Norm Strength in International Relations,” European Journal of International Relations 27-2 (2021), pp. 521-547. [24] Jeffrey S. Lantis and Carmen Wunderlich, “Resiliency Dynamics of Norm Clusters: Norm Contestation and International Cooperation,” Review of International Studies 44-3 (2018), pp. 570-593. [25] この分類については以下を参照。Orchard and Wiener, op.cit. [26] 第三段階の研究全てが規範の強度について論じているわけではない。 [27] Ryder McKeown, “Norm Regress: US Revisionism and the Slow Death of the Torture Norm,” International Relations 23-1 (2009), pp. 5-25; Diana Panke and Ulrich Petersohn, “Norm Challenges and Norm Death: The Inexplicable?” Cooperation and Conflict 51-1 (2016), pp. 3-19. [28] Wiener, Contestation and Constitution of Norms. [29] Lisbeth Zimmermann et al., International Norm Disputes: The Link between Contestation and Norm Robustness (Oxford University Press, 2023). [30] 深刻な違反に直面したとしても、規範が消滅することは極めて少ないと論じる研究もある。以下を参照。Sarah V. Percy and Wayne Sandholtz, “Why Norms Rarely Die,” European Journal of International Relations 28.4 (2022), pp. 934-954. [31] Ayoub and Stoeckl, op.cit. [32] Cai Wiskinson, “Putting ‘Traditional Values’ into Practice: The Rise and Contestation of Anti-homopropaganda Laws in Russia,” Journal of Human Rights 13-3 (2014), pp. 363-365. [33] UNSC, UNSC 9700th meeting record. S/PV.9700, UNSC (2024), p. 19. [34] Ayoub and Stoeckl, op.cit. [35] Human Rights Watch, “Russia: Expanded ‘Gay Propaganda’ Ban Progresses Toward Law,” Human Rights Watch (November 25, 2022). (https://www.hrw.org/news/2022/11/25/russia-expanded-gay-propaganda-ban-progresses-toward-law 2025年7月14日最終閲覧) [36] Human Rights Watch, “Uganda: Court Upholds Anti-homosexuality Act,” Human Rights Watch (April 4, 2024). (https://www.hrw.org/news/2024/04/04/uganda-court-upholds-anti-homosexuality-act 2025年7月14日最終閲覧) [37] ILGA, “Area 1 Legal Framework: Criminalization of Consensual Same-Sex Sexual Acts,” ILGA database. (https://database.ilga.org/criminalisation-consensual-same-sex-sexual-acts 2025年7月14日最終閲覧) [38] Markus Hadler and Jonathan Symons, “World Society Divided: Divergent Trends in State Responses to Sexual Minorities and Their Reflection in Public Attitudes,” Social Forces 96-4 (2018), pp. 1721-1756. [39] Jonathan Symons and Dennis Altman, “International Norm Polarization: Sexuality as a Subject of Human Rights Protection,” International Theory 7-1 (2015), p. 62. [40] Kristopher Velasco, “Transnational Backlash and the Deinstitutionalization of Liberal Norms: LGBT+ Rights in a Contested World,” American Journal of Sociology 128-5 (2023), pp. 1381-1429. [41] Phillip M. Ayoub and Kristina Stoeckl, The Global Fight Against LGBTI Rights: How Transnational Conservative Networks Target Sexual and Gender Minorities (NYU Press, 2024). [42] Margaret E. Keck and Kathryn Sikkink, Activists beyond Borders: Advocacy Networks in International Politics (Cornell University Press, 1998). [43] Risse and Sikkink, op.cit. [44] Lantis and Wunderlich, op.cit. [45] Ibid., p. 576. [46] D’Amico, op.cit., p. 71. [47] Holning Lau, “Sexual Orientation: Testing the Universality of International Human Rights Law,” University of Chicago Law Review, 71-4 (2004), pp. 1689-1720. [48] BFE, (2012), op.cit.; BFE, (2019), op.cit. [49] Langlois, op.cit. [50] BFE, (2019), op.cit., p. 3. 地域的な進展については以下を参照。 Ending Violence and Other Human Rights Violations Based on Sexual Orientation and Gender Identity: A Joint Dialogue of the African Commission on Human and Peoples’ Rights, Inter-American Commission on Human Rights and United Nations (Pretoria University Law Press, 2016). (http://www.ohchr.org/Documents/Issues/Discrimination/Endingviolence_ACHPR_IACHR_UN_SOGI_dialogue_EN.pdf 2025年7月14日最終閲覧) [51] M. Joel Voss, “Contesting Sexual Orientation and Gender Identity at the UN Human Rights Council,” Human Rights Review 19 (2018), p. 3. [52] UNHRC, Resolution Adopted by the Human Rights Council: 32/2. Protection Against Violence and Discrimination Based on Sexual Orientation and Gender Identity, A/HRC/RES/32/2, UNHRC (2016). [53] UNHRC, Report of the Independent Expert on Protection Against Violence and Discrimination Based on Sexual Orientation and Gender Identity, A/HRC/44/53, UNHRC (2020). [54] OHCHR, “Country Visit: Independent Expert on Sexual Orientation and Gender Identity,” OHCHR. (https://www.ohchr.org/en/special-procedures/ie-sexual-orientation-and-gender-identity/country-visits 2025年7月14日最終閲覧) [55] Victor Madrigal-Borloz. “Protection Against Violence and Discrimination Based on Sexual Orientation and Gender Identity, Work Programme 1 January 2021 – 31 December 2023,” United Nations Human Rights Special Procedures. [56] Ibid., p. 3. [57] OHCHR, “UN Rights Experts Urge More Protection for LGBTI Refugees,” OHCHR (July 1, 2019). (https://www.ohchr.org/en/press-releases/2019/07/un-rights-experts-urge-more-protection-lgbti-refugees?LangID=E&NewsID=24764 2025年7月14日最終閲覧) [58] OHCHR, “The Right to Housing of LGBT youth: An Urgent Task in the SDG Agenda Setting,” OHCHR (August 9, 2019). (https://www.ohchr.org/en/statements-and-speeches/2019/08/right-housing-lgbt-youth-urgent-task-sdg-agenda-setting?LangID=E&NewsID=24877 2025年7月14日最終閲覧) [59] OHCHR, “LGBT Persons with Disabilities,” OHCHR (October 27, 2023). (https://www.ohchr.org/sites/default/files/documents/issues/sexualorientation/statements/2023-10-24-joint-stm-SOGI-disabilities.pdf 2025年7月14日最終閲覧) [60] UNHRC, Resolution Adopted by the Human Rights Council: 50/10. Mandate of the Independent Expert on Protection Against Violence and Discrimination Based on Sexual Orientation and Gender Identity, A/HRC/RES/50/10, UNHRC (2022). [61] Statement by Victor Madrigal-Borloz, Integrating the Human Rights of LGBT Persons into the Security Council’s Mandate for Maintaining International Peace and Security, United Nations Human Rights Special Procedures, March 2023. [62] OHCHR, “first Joint Consultation Discussing the Inclusion of LGBTI Persons in the Economic, Social and Cultural Sphere,” OHCHR (October 1, 2019). (https://www.ohchr.org/en/press-releases/2019/10/first-joint-consultation-discussing-inclusion-lgbti-persons-economic-social 2025年7月14日最終閲覧) [63] UNHRC, Report of the Independent Expert on Protection Against Violence and Discrimination Based on Sexual Orientation and Gender Identity, A/HRC/53/37, UNHRC (2023), para.3. [64] Victor Madrigal-Borloz, op.cit., para. 5(a). [65] UNHRC, Report of the Independent Expert on Protection Against Violence and Discrimination Based on Sexual Orientation and Gender Identity, A/HRC/35/36, UNHRC (2017), para. 38. [66] UNHRC, Resolution Adopted by the Human Rights Council: 32/2. Protection Against Violence and Discrimination Based on Sexual Orientation and Gender Identity, A/HRC/RES/32/2, UNHRC (2016), preamble. [67] UNHRC, Report of the Independent Expert on Protection Against Violence and Discrimination Based on Sexual Orientation and Gender Identity, A/HRC/53/37, UNHRC (2023). [68] Ibid. [69] UNGA, Report of the Independent Expert on Protection Against Violence and Discrimination Based on Sexual Orientation and Gender Identity, A/79/151, UNGA (2024). [70] UNHRC, Report of the Independent Expert on Protection Against Violence and Discrimination Based on Sexual Orientation and Gender Identity, A/HRC/56/49, UNHRC (2024). [71] Ibid., para. 76. [72] Ibid., para. 12-16. [73] Ibid., para. 7. [74] Ibid., para. 76. [75] Ibid., para. 39. [76] Policy Position, United Nations Special Rapporteur in the Field of Cultural Rights and the United Nations Independent Expert on Protection Against Violence and Discrimination Based on Sexual Orientation and Gender Identity. Cultural Life and SOGI. United Nations Human Rights Special Procedures (October 2023). [77] UNHRC, Report of the Independent Expert on Protection Against Violence and Discrimination Based on Sexual Orientation and Gender Identity, A/HRC/53/37, UNHRC (2023). [78] Felix Light, “Georgian Parliament Approves Law Curbing LGBT Rights,” Reuters (September 18, 2024). (https://www.reuters.com/world/europe/georgian-parliament-approves-law-curbing-lgbt-rights-2024-09-17/ 2025年7月14日最終閲覧) [79] Report of the Independent Expert on Protection Against Violence and Discrimination Based on Sexual Orientation and Gender Identity, A/HRC/56/49, UNHRC, 2024, para.1. [80] Nunez-Lucrecia and Iommi, op.cit. [81] Ben-Josef Hirsch and Dixon, op.cit. [82] Address by Victor Madrigal-Borloz, United Nations Independent Expert Against Violence and Discrimination Based on Sexual Orientation and Gender Identity, Weave Industriously. Listen Deeply. Speak Kindly. Sydney World Pride Human Rights Conference (March 2023).
一橋大学大学院法学研究科修士課程在籍。研究分野は国際関係論、特に国際規範とLGBTQ+の権利。2022年から一橋大学グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)で研究助手として勤務している。また、2024年からキャンパス内のLGBTQ+学生と支援者向けの安全なスペースの運営にも携わっている。