【GGRブラウンバッグ・ランチセミナー】デジタルな未来の姿-あるいは、なぜ我々は帰結の視点から発生の視点へと移行する必要があるのか
日にち2025年5月7日
時間12:40–13:40
開催場所マーキュリータワー3302
イベント概要

2025年5月7日、一橋大学グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は、ブラウンバッグ・ランチセミナー「デジタルな未来の姿-あるいは、なぜ我々は帰結の視点から発生の視点へと移行する必要があるのか」を開催し、アンドレアス・ヘップ教授(ブレーメン大学(ドイツ)メディア・コミュニケーション学教授;メディア・コミュニケーション・情報研究センター(ZeMKI)所長)を講師に招きました。

ヘップ教授はまず、現代における急速な技術変化の中で、「デジタルな未来」と呼ばれる、デジタルメディアによって形成される未来社会の構想が、政治、経済、文化の各領域において重要な役割を果たしていると説明しました。こうした構想は単なる空想ではなく、現実の政策やビジネスの方向性に影響を及ぼしている点が強調されました。

他方、「イマジナリー(imaginaries)」という概念は、しばしば理論的な裏付けがないまま曖昧に用いられていると指摘しました。ヘップ教授は、メディア・コミュニケーション研究においては、こうした未来社会の構想がどのように想像され、実践され、そして社会の中で当たり前のものとして受け入れられていくのかを明らかにする必要があると述べました。

さらにヘップ教授は、この分野における理論的課題として二点を挙げました。第一に、イマジナリーを理解するにあたっては、社会理論やイデオロギー、実践、歴史といった複数の観点を統合的に捉える必要があることを指摘しました。第二に、「デジタルな未来」という用語が多くの場合、明確な定義のないまま使われていることに注意を促しました。

これらの課題に対応するために、ヘップ教授は、デジタルな未来がなぜ重要なのか、初期の利用者が果たす役割、そしてジャーナリズムにおけるコミュニケーション型AI(ComAI)の台頭が何を意味するのかという点に焦点を当てて議論を展開しました。

ヘップ教授は、こうした未来像の形成において中心的な役割を果たすのが「パイオニア・コミュニティ」であると述べました。これらの初期ユーザーや思索者たちは、新たな技術やアイデアを試し、支援を獲得しながらその構想を広めていく過程をたどると説明しました。過去の例として『ホール・アース・カタログ』を挙げ、この出版物が当時の技術思想に大きな影響を与えたことを紹介しました。現代においては、オープンソースAIの開発グループや環境技術に関心を持つネットワークが、同様の役割を果たしていると述べました。
こうしたパイオニア・コミュニティは、単に技術を使用するだけでなく、技術が社会をどのように変えるかを構想する主体でもあると説明しました。彼らのビジョンは、ブログやフォーラム、資金調達を通じて広まり、やがて主流の社会にも受け入れられていくと述べました。とりわけ、ジャーナリズムにおけるComAIの導入は象徴的な事例として挙げられました。2010年代初頭には試験的に用いられていたAIツールが、2019年には社会的な支持を得て本格的に導入され、2024年には報道現場の中核的な存在として定着したと説明しました。
質疑応答では、AIの導入はジャーナリズムの創造性を高めるのか、それとも損なうのかという問いが投げかけられました。これに対しヘップ教授は、あらかじめ決まった未来が存在するという前提そのものが問い直されるべきだと述べました。その上で、どのような未来を私たちが望むのかをまず考え、それに基づいて技術の活用を決定する必要があると指摘しました。
最後にヘップ教授は、生成に関する研究が今後ますます重要になると強調しました。未来社会の構想がどのように生み出され、誰によって推進され、いかなる権力構造を支えているのかを問い直すことによって、私たちは未来像を不可避なものとして受け入れるのではなく、その構築過程を批判的に理解する視座を持つことができると述べました。

【イベントレポート作成】
ビラル・ホサイン(一橋大学大学院法学研究科博士課程)