【GGRトークセッション】トランプ2.0-大西洋同盟の黄昏か?
日にち2025年5月19日(月)
時間13:15-15:00
開催場所一橋大学国立キャンパス1302教室
イベント概要

2025年5月19日、一橋大学グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)はGGRトークセッション「トランプ2.0-大西洋同盟の黄昏か?」を開催し、講師にギャレット・マーティン氏(アメリカン大学 国際関係学部 ハースト上級講師/トランスアトランティック・ポリシー・センター共同ディレクター)をお招きしました。このセッションは、青野利彦教授(一橋大学大学院法学研究科)が担当する大学院講義の一環として行われました。

マーティン氏は歴史的な観点からトランプ政権下における米国と欧州間の関係の変化について論じました。マーティン氏は、歴史的に米国と欧州間の意見の不一致は頻繁に見られてきたとしつつ、今日における変化を論じるために、大西洋同盟を支える八つの柱とその現状を評価しました。一つ目の柱は西側というアイディアです。1945年よりも以前に思想的起源があるアイディアであるものの、今日においては米国と欧州双方において妥当性や必要性に疑問が抱かれているとしました。二つ目の柱は、第二次世界大戦という同盟の起源に関わるストーリーです。このストーリーは集合的な記憶として機能してきたものの、世代的な変化につれ共通の基盤が薄れてきていると指摘しました。三つ目の柱は、NATOをはじめとする制度です。トランプ大統領は第一期からNATOへの非難を続けており、大衆も非難を内在化していると論じました。四つ目の柱は、「欧州の大国」としての米国です。米軍は欧州への派兵を行ってきたものの、中東やアジア太平洋といった他の地域に対する関心から欧州におけるプレゼンスは低下しているとしました。五つ目の柱は、欧州における核の傘です。この点に関しては、明らかな変化が見られないため、現時点では評価が難しいと指摘しました。六つ目の柱は、象徴的な役割を果たす民主主義の価値です。米国や欧州で民主主義の浸食や後退がみられると論じました。七つ目の柱は自由貿易です。米国だけでなく欧州においても保護主義的な動きがみられると論じました。最後の柱は共通の敵です。冷戦期にはソ連が共通の敵だったものの、今日においては中国とロシアからの脅威に対しどのように対処するべきかについて米国と欧州の間で合意がないと論じました。

マーティン氏は、このような変化はトランプ大統領個人だけに還元できるものではなく、構造的な要因も背景にあると論じました。まず、グローバリゼーションが生む貧富の差にうまく対処できない民主主義への不満と反国際主義が高まっていると指摘しました。また、米国では1945年以前に見られていた国外への不信感という伝統が再浮上していると論じ、欧州では欧州内の政治的な分裂が高まっていると説明しました。そして、米国のリーダーシップと欧州の求める自律の間のバランスが解決できていないとも論じました。

これまでの分析を踏まえ、マーティン氏は今後のシナリオを分析しました。4年後の新政権まで制度が耐久し太平洋同盟が維持されるという楽観的なシナリオ、米国と欧州が段階的かつ不可逆的に関係を切り離していくという「管理された離婚」のシナリオ、米国の突然のNATO脱退とそれに伴う経済対立の高まりという懸念されるシナリオの三つを挙げました。

質疑応答では、欧州全体の安全保障の展望、フランスによる核の傘の議論、トランプ政権以後の米国の対外関与、大西洋同盟に関する分岐点、米国によるウクライナ戦争における和平への関与、国際主義の将来などについて議論が交わされました。

【イベントレポート作成】
中島崇裕(一橋大学法学研究科修士課程)