2025年2月28日、一橋大学グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)はマイチョーウー氏(スポークスパーソン、Association of United Nationalities Japan会長)、ミョーミンスウェ氏(We For All ディレクター)、根本敬教授(上智大学名誉教授)、長田紀之氏(日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員)をパネリストにお招きし、GGRウェビナー「ミャンマーに対する地政学的対立の影響」を開催しました。
根本教授は、中国・ロシア・アメリカという三大国の視点から、ミャンマーの地政学的立ち位置を整理しました。中国は最長の陸上国境を接し、民間警備隊の活用などを通じて軍事政権との関係を強化しつつも、国境貿易や国内における権益を優先し「不安定なミャンマー」の継続を望んでいると指摘しました。ロシアは冷戦期からミャンマーを戦略的に重視してきたものの、クーデター後に関係を深めた現在でも、両国にとって積極的に協力する相手とは言えないと述べました。アメリカは2011年以降民主化を支援してきた一方で、クーデター以後は制裁を強化し、さらにトランプ政権による人道支援の停止により、市民の間での信頼も低下していると指摘しました。
長田氏は、大国間対立がミャンマーに与えてきた影響を歴史的観点から論じました。前近代におけるミャンマー周辺の国際関係は、多中心的かつ不均衡な権力分布に特徴づけられ、ミャンマーの王国が地域の大国として機能していたと説明しました。植民地期にはイギリスによる統治が官僚制度や国境を規定し、ビルマ・ナショナリズムの形成にも影響したと述べました。戦後は冷戦の大国間対立の下で非同盟中立路線を取り、民主化と経済自由化の試みは軍政の弾圧や対外制裁の影響で限界があったと分析しました。現在のクーデター後の情勢は、長期的に維持されてきた構造を変える可能性があると指摘しました。
ミョーミンスウェ氏は、クーデター後のミャンマーで深刻化する治安悪化や経済崩壊、市民への徴兵圧力、オンライン詐欺の横行などの現状を報告し、中国の影響力拡大とそれに伴う主権侵害を強く批判しました。国際社会による関心と圧力の必要性を訴えました。マイチョーウー氏は、シャン州の状況を取り上げ、民族間の連帯とともに中国の影響下で悪化する安全保障環境を説明しました。特に中国からの技術支援や民間軍事企業の台頭が緊張を高めていると述べました。
質疑応答では、武装抵抗の背景やクーデターの予測可能性、空爆戦術の変化、アメリカや日本の対応への認識が議論されました。民主化勢力への国際支援の重要性や、アメリカや中国と国軍の間の関係が議論され、アメリカからの支援が不安定な中において日本の役割が期待されました。
【イベントレポート作成】
中島崇裕(一橋大学大学院法学研究科 修士課程)
岸晃史(一橋大学法学部 学士課程)