【GGRトークセッション】吉田茂の安全保障構想再考: 再軍備と国内治安体制
日にち2025年4月17日
時間17:30-18:30
開催場所マーキュリータワー 会議室
イベント概要

2025年4月17日、一橋大学グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は、GGRトークセッション「吉田茂の安全保障構想再考: 再軍備と国内治安体制」を開催しました。早稲田大学政治経済学術院政治経済学部講師の藤田吾郎博士を講師としてお招きしました。

藤田博士は、1950年代初頭、特に日米講和交渉の時期における吉田茂首相の戦略的アプローチを再検討しました。従来の「吉田ドクトリン」の理解に再考を促し、急速な再軍備への反対姿勢と国内治安政策との密接な関係を強調しました。この関係性こそが、戦後日本の安全保障体制および米国主導の西側陣営との関係を理解する鍵であると指摘しました。

藤田博士は、吉田首相の大規模な再軍備への反対が、単に経済的あるいは平和主義的な理由によるものではなく、国内の安定を維持するための戦略的判断であったと説明しました。吉田は、在日米軍の継続的な駐留を支持しつつ、日本独自の安全保障戦力の拡充(例えば警察予備隊)には慎重な姿勢をとっていました。その代わりに、共産主義的脅威への対処を含む国内治安の強化を通じて、日本を責任ある冷戦時代のパートナーとして位置づけようとしました。1951年1月30日に吉田がジョン・フォスター・ダレス特使に提出した「議題表(Suggested Agenda)」は、吉田の安全保障戦略における転換点であったとされています。この文書の中で吉田は、日米安保協力の強化と、警察・海上保安機関を中心とした国内治安体制の強化という二本柱のアプローチを提案しました。

質疑応答では、吉田茂が再軍備に慎重だったことを踏まえ、日本の憲法体制が安全保障政策に与えた影響に関して質問がありました。藤田博士は、法的な視点は非常に重要であり、憲法第9条が安全保障政策の背景を形作ったことは否定できないものの、吉田の意思決定において決定的な要因とはならなかったと回答しました。

最後に藤田博士は、吉田茂の再軍備に対する慎重な姿勢は、日本が平和主義的なアイデンティティを保持しつつ、西側の安全保障体制に貢献するための現実的かつ戦略的な選択であったと結論しました。本セッションは、吉田のリーダーシップに対する新たな視点を提示するとともに、冷戦初期の日本外交において国内外の要因がどのように交錯していたかを考える機会となりました。

【イベントレポート作成】

ビラル・ホサイン(一橋大学大学院法学研究科博士課程)

中島崇裕(一橋大学大学院法学研究科修士課程)