民主主義・人権プログラム
【GGRトークセッション】選挙公約と政策実現の違い ―タイのデジタル・ウォレット政策を例に
日にち2024年12月11日
時間12:40-13:40
開催場所マーキュリータワー3302
イベント概要

2024年12月13日、一橋大学グローバル・ガバナンス研究センターはGGRトークセッション「選挙公約と政策実現の違い―タイのデジタル・ウォレット政策を例に」を開催し、パリン・ジャルタヴィー氏(キング・プラジャディポック研究所研究員、タイ)を講師に招きました。

ジャルサヴィー氏は、タイの近年の政治情勢における主要な経済政策であるデジタルウォレット・スキーム(Digital Wallet Scheme)を説明しました。このスキームは、対象となる市民への財政支援を通じて経済活動を活性化させることを目的としたものです。2023年3月13日にタイ貢献党(Pheu Thai Party)のキャンペーンの一環としてスキームが発表された際には、16歳以上のタイ国民への一律支援が約束されていました。

しかし、セター・タウィーシン(Srettha Thavisin)政権(2023年8月-2024年8月)の下で、特に財源の明確さと実施の面で、当初の公約と乖離していると批判を受けました。2023年9月には政策研究が財務副大臣に割り当てられ、11月にはスキームの継続が調整の上で確認されました。当初、5600億バーツの予算で借入なしでの実施が計画されていましたが、最終的にはローン法(Loan Act)による5000億バーツ規模へと修正されました。

2024年8月15日から発足したペートンターン・シナワット(Paetongtarn Shinawatra)政権は、連立政権の調整のもとでこのスキームを維持することを公約しました。第1フェーズは2024年9月に開始され、脆弱層に1万バーツが給付されました。第2フェーズでは、対象を50歳以上の市民に拡大することが計画されています。しかし、このスキームは、遅延、対象基準の変更、持続可能性への懸念から批判を受け、選挙公約と実施のギャップが浮き彫りとなりました。

セター政権の修正案では、資金が600億バーツ削減され、受給者層も変更されました。その後、2024年追加国家予算法のもと、脆弱層を優先する形で1,220億バーツの支出が閣議決定されました。ジャルサヴィー氏は、持続可能性、法的制約、インフレ、実施のリスクにおいて課題があると説明しました。

結論として、ジャルタヴィー氏は公約と実行の間にある大きな乖離を指摘しました。経済の活性化を目的としていたスキームであったにもかかわらず、遅延、財源の変更、論争により国民の信頼は低下しました。

質疑応答では、「なぜ政党は予算提案時に情報の一部しか開示しないのか」、「この政策は実際に経済を活性化させるのか、それともインフレを助長するのか」といった質問がありました。前者に対し、対立を避けるための政治戦略と委員会制度の影響だと説明し、後者に対し、経済を実際には活性化していないと考えていると述べました。

 

【イベントレポート作成】

ビラル・ホサイン(一橋大学大学院法学研究科博士後期課程)

【日本語翻訳】

中島崇裕(一橋大学大学院法学研究科修士課程)