2025年2月3日、グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は、マリウス・N・ペデルセン氏 (ノルウェー防衛技術研究機構 研究員)を講師として、第36回ブランバッグランチセミナーを開催しました。「北極圏における気候変動と中国」と題し、北極圏における気候変動と安全保障の動向について、特に中国の戦略に焦点を当てて議論しました。
ペデルセン氏はまず、北極の気候変動について説明しました。北極は地球上で最も急速に気候変動が進む地域であり、特にロシア側の海域が比較的浅いため氷の融解が早く、新たな海域へのアクセスが可能になりました。また魚類の北方移動が進み、北極圏における資源への関心が高まっています。北極は依然として開発が困難ですが、北極資源を巡る競争というナラティブの形成が、安全保障上の緊張を高め、地域の不安定要因になっているとペデルセン氏は指摘しました。
従来、北極は「北極例外主義(Arctic Exceptionalism)」の下で国際的な緊張から一定程度守られてきました。しかし、近年は地域のブロック化が進み、西側の北極地域にはNATO加盟国が集中する一方、ロシアは中国とのパートナーシップを強化しています。この二極化の進展が、北極圏の安定と協調を支えてきた「北極例外主義」を弱体化させる要因になっていると懸念を示しました。また、気候変動と安全保障の関係について、「脅威増幅要因」としての側面だけでなく、気候変動自体を独立した安全保障上の脅威と捉える考え方も広まっており、両面からの分析が必要だと述べました。
さらに中国の北極戦略についても詳細に論じました。中国は長年にわたり北極への関与を深めており、特に北極海航路の利用や資源開発に強い関心を示し、今後の地政学的動向において重要なプレイヤーとなる可能性が高いと指摘しました。また、政治的な観点からも、中国は既存の国際秩序に異議を唱えており、大国としての影響力を北極でも発揮することを目指していると述べました。一方で、中国は北極における領有権を持たず、貿易ルートの管理や資源アクセスに関する法的権利も有していません。さらに、北極評議会ではオブザーバーの地位にとどまるなど制約もあると指摘しました。今後、北極の政治状況や気候変動の影響により、西側諸国と中露の対立がさらに明確化し、不確実性が一層高まる可能性があると述べました。
質疑応答では、グリーンランドを巡る問題や中国の北極戦略に対するロシアの見方、中国と米国の北極戦略、日本の北極に対する動向、気候変動が国内政治への影響など多岐に渡る議論が展開されました。最後に今後10年間は特にロシアを中心とした議論が重要となり、米国の北極政策も地域の動向に大きな影響を与える要素になると締めくくられました。
【イベントレポート作成】
渡邉英瑠(一橋大学国際・公共政策大学院 修士課程)