2024年12月15日、グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は、「危機に直面する民主活動家(Democracy Advocates at Risk: DAR)」プログラムの公式発表イベントを開催しました。イベントは国立キャンパスのインテリジェント・ホールで開催され、大使館、政府機関、報道機関、NGOなどから参加者が集まりました。また、Zoomウェビナーを利用し、オンラインでも参加者が集まりました。DARプログラムは、政府に抑圧されるアジアの民主活動家を支援することを目的としています。大学やシンクタンクのネットワークを通じて、安全な避難場所を提供し、協力を促進する計画です。本イベントとDARプログラムについては、日本経済新聞、産経新聞、東京新聞など複数の新聞・メディアで報じられました。
イベントではまず市原麻衣子教授(一橋大学大学院法学研究科)が、DARプログラムについて、その背景や目的、範囲、機能、将来の展望などについて説明を行いました。市原教授は、アジアの民主活動家たちが迫害され、欧州や北米に避難するケースが増加している現状を明らかにしました。しかし、地理的な距離や時差により、散り散りに避難した活動家の間ではコミュニケーションの継続が難しいという課題があります。こうした課題を軽減するため、アジア地域内に避難先を確保することが重要であり、DARプログラムはこの課題に対応することを目的としています。DARプログラムは、アジア各国の大学やシンクタンクに所属する研究者のネットワークを構築することで、民主活動家の、安全な避難場所を提供する役割を果たします。また、危険にさらされている民主活動家の情報が寄せられると、GGRがネットワークメンバーと連携し、適切な受け入れ先の確保を図ります。市原教授は、このプログラムの段階的なアプローチについて言及し、年間約10人の対象者を受け入れることを目標にしていると述べました。
マルディ・マパ=スプリド氏(ハビタット・フォー・ヒューマニティ・フィリピンCEO)は、東南アジアの民主活動家たちが直面する具体的な課題と、DARプログラムが果たし得る役割について論じました。タイ、ミャンマー、ベトナム、カンボジア、フィリピンにおける深刻な事例を引き合いに、「DARは、この地域全体で見られる民主主義の後退と権威主義の台頭を背景に、嫌がらせ、投獄、強制失踪、デジタル弾圧など、増大する様々なリスクに直面している」と述べました。マパ=スプリド氏は、東南アジアの民主活動家の安全と幸福を確保するための強固なネットワークの重要性を強調しました。
ガンバ・ダンバ博士(モンゴル政治教育アカデミー)は、まず、「誰もが自らの行動を自由に選択したいと望んでいる」と訴えました。ダンバ博士は、アジアの民主活動家が直面している厳しい状況に言及し、研究者、政府、財団による協力の必要性を呼びかけました。また、北東アジアで人権を擁護する人々がしばしば「二級市民」として扱われていることを指摘しました。最後に、ダンバ博士は、「共によりよいアジアを築いていくことができる」と述べ、地域における協働の重要性とその可能性に対する前向きな展望を示しました。
パネリストによるプレゼンテーションの後には質疑応答が行われ、対面及びオンライン参加者の双方から質問が寄せられました。パネリストは、DARプログラムは政府の直接的な関与を受けることなく、アジア・デモクラシー・ネットワークなどの組織と連携しながら、GGRが事務局の役割を果たしていることを明確にしました。さらに、GGRは、ネットワークに参画する研究者の財政的負担を軽減することを目的とした資金調達活動を今後展開していく方針を示しました。また、DARプログラムの特徴的な意義として、特に人権関連の迫害に直面している民主活動家の保護を目的としたアジア初の取り組みであることを強調しました。現在進行中の3つのパイロット・プロジェクトの詳細は非公開であるものの、これらのプロジェクトは、プログラムを運用していく初期段階にあると説明しました。
【イベント・レポート執筆】
渡邉英瑠(一橋大学国際・公共政策大学院 修士課程)
岸晃史(一橋大学法学部 学士課程)
中島崇裕(一橋大学大学院法学研究科 修士課程)