民主主義・人権プログラム
ミャンマーの人たちが望む平和に向けて
出版日2025年2月12日
書誌名Issue Briefing No. 88
著者名チョン・ミンヒ
要旨 *本稿は、2024年3月29日に行われたインタビューをもとに作成された。
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ミャンマーの人たちが望む平和に向けて

聞き手・著者:チョン・ミンヒ
(一橋大学大学院法学研究科博士後期課程)
2025年2月12日

*本稿は、2024年3月29日に行われたインタビューをもとに作成された。

石川航さんが東京外国語大学に入学した頃、ロヒンギャ難民へのジェノサイドに関するニュースが連日報道されていた。国際社会学部で地域研究をしていた石川さんは、専攻を選ぶ時に色んな言語の中でミャンマー語を選択した。ミャンマーに詳しいわけではなかったが、子供の教育支援や難民問題の解決に関わりたいという思いがあった。

大学に入り、ミャンマーの言語、文化、歴史を学ぶ授業を受けた。1年生の夏休みに、ミャンマーの国立大学で約1カ月の短期留学をする機会を得た。ヤンゴン大学の国文学科の学生や先生たちの暖かさで心が落ち着いていたと話す。人の目を気にせず困っている人の手を取ってくれたり、ミスした人に寛容だったりするミャンマーの文化が好きになった。

2021年、ミャンマーにクーデターが起きた。自分や家族の命が危険である中、他人への思いやりを持ち自由や民主主義のために行動するミャンマー人に巡り合えたことは、石川さんの人生に深い影響を与えた。

 

本当は戦いに行ってほしくない

石川さんは在日ミャンマー人夫妻とクラウドファンディングキャンペーンを立ち上げた。クーデターが起こってから、現地の人々から話を聞くことはできていなかった。支援金を持って2023年8月にタイの国境地帯を訪問した。食料と医薬品を避難民に渡し、負傷した若い子たちをケアする人道支援を行った。

病院には、軍の砲撃から逃げてきた人たち、ジャングルで軍と戦い負傷して一時的に滞在している人たちがいた。石川さんより年下くらいの男の子が、「怪我をしているからここにいるけど、薬を貰って良くなったら戦いに行くよ」と言い、戦線に戻ったことは石川さんの印象に残った。ずっと石川さんとやり取りをしていた他の子も、その後戦いに行った。平和って何なのだろうと、考えさせられる時間だった。

「自分の会った人々やそこで友達になった人に、戦いには行ってほしくないです。でも、彼らには自分たちがミャンマーを守らなければいけないっていう思いがあります。防衛のために武器を持つしかないっていう人もいます。そんな中で、今後自分にどういうことができるのかをすごく考えさせられました」。

食べ物がなければどうにもならない現状をみて、食料やシェルター支援の優先順位が高いと考えた。日本で集まった支援をタイバーツに換金し、国境で支援物資を買い、それを現地のミャンマーの人たちに届ける越境支援を続けている。

知ってもらえれば

石川さんがミャンマーのための街頭募金活動に関わっている理由は、市民からの反応が身近で分かるからだ。「お金を集めるだけだったらオンラインでもできます。募金活動では、顔を見せることで信頼性を高めることができますし、ミャンマーの人たちの声を直接街にいる人たちに伝えることもできます」。

毎回10万円前後の支援金が集まり、知ってもらえればミャンマーを応援したいと思ってくれる人はいることを知った。メディアやインフルエンサーがミャンマーのことを取り上げると、支援が一気に集まる傾向もある。市民がミャンマーの状況に無関心なだけではないと石川さんは語る。

石川さんは仲間と一緒に、学校の出張授業で小中高大の学生たちに会う。小学校の児童には、文化や生活、歴史の角度からミャンマーを知ることのできる「ヤンゴンかるた」で遊んでもらう。「ヤンゴンかるた」は、浦安市の教育委員会からの協力を得て公立小学校で使われている。かるたでミャンマーの文化を知ってもらった後、「今ミャンマーでこういうことが起こっているんだよ」と話すと、生徒たちは当事者意識に近い感情を持ち、真っすぐな目で見てくれる。中学校や高校に行くと、国際機関で働くことに興味のある生徒たちが授業後に質問をしてくれる。学生たちは、募金に来てくれたり自ら活動を立ち上げたりする。

 

活動家?研究者?ミャンマー人の味方でありたい

クーデターが起こる前までは、現地の教育支援に関わるNGOで働きたいと思っていた。クーデターが起こったあと、ミャンマーとどういう形で接していくべきかを悩んだと言う。民主化支援に関わったため、ミャンマーに入ることが危険な可能性がある。ミャンマーでの人道支援はなかなか難しい。

ミャンマーの人たちの声にできない声や思いを発信していくことが自分の道だと思った。タイ・ミャンマー国境支援やフィールドワークを通して得た知識を学術的な場で発信し、専門的な立場からミャンマーの人たちの声を届けたい。

「ミャンマーの人たちが望む形での平和の実現を後押ししたいです。ミャンマーを支援してあげているという、上下関係ではないと思います。負の遺産を後代に残したくないという思いで生きるミャンマーの人たちから、たくさん学ばせてもらっています」。

 

プロフィール

立教大学異文化コミュニケーション研究科博士後期課程在籍中。在日ミャンマー人の民主化運動やコミュニティ形成について研究をしながら、フィールドワークや支援活動を行っている。「日本ミャンマーMIRAI創造会」共同代表のほか、「(一社)ミャンマーの平和を創る会(チィチィキンキン)」「ヤンゴンかるた」「NPO法人Border Angeles」などで活動。