2025年1月8日、グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は、「ハイジャックされたヨーロッパ -ナショナリストの政治家はいかにして市民からEUを奪ったか、そしてどうすれば市民の手にEUを取り戻すことができるか?」と題して、第35回ブラウンバッグランチセミナーを開催しました。フランス・パリのHEC経営大学院(École des hautes études commerciales de Paris)より、アルベルト・アレマンノ教授(Alberto Alemanno)を講師として、ヨーロッパ統合と統合後のヨーロッパにおける民主主義のあり方を議論しました。
アレマンノ教授は、いかに各国の政治家が、頻繁に国内の政策課題のために欧州連合(European Union: EU)を操り、失敗の責任を転嫁する一方で、資金援助や貿易取引といったEUの恩恵については手柄を主張しているかを強調しました。ポピュリストのレトリックは、EUを市民から離れた官僚主義として描き、EUと市民の間の溝を広げ、EUの中に民主主義が欠如しているという認識を深刻なものにしていると論じました。EUレベルでの決定は、各国政府を経由するため、しばしば明確さと信頼を欠いている一方で、短期的な各国の優先事項が、移民、気候政策、経済的な連帯といった課題に対してEU加盟国全体で対応する動きに影を落としています。
アレマンノ教授によると、これらの主な要因には、EU機関によるコミュニケーションの弱さ、不透明な意思決定プロセス、市民の関与に対する制限などが挙げられます。欧州議会選挙における投票率の低下とナショナリズムの高まりは、責任の共有よりも主権を強調し、EUの超国家的な理念を傷つけています。これに対処するためには、EUは透明性、説明責任、積極的な市民参加を中心に据えた改革を優先的に実施しなければならない、とアレマンノ教授は論じました。欧州議会の役割を強化し、市民に対して市民としての意識を向上させるようなキャンペーンを通じ、EUの成功をアピールすることで、EU機関とEU市民の間のギャップを埋めることができます。雇用や医療といった地域の関心事に取り組み、教育を通じて欧州人としてのアイデンティティを育むことも、不可欠なステップだと強調しました。
質疑応答では、「EUの規制の中で加盟国と最も緊張関係があるものは何か、それはなぜか」というテーマで、移民、環境政策、貿易、社会問題など、論争の的になっている主な分野が取り上げられました。アレマンノ教授は、それぞれの国に合わせた支援、政策の柔軟な実施、コミュニケーションの改善を通じて、各国の利益とEUの目標・理念とのバランスをとることで、こうした分野での緊張を和らげることができると強調しました。
アレマンノ教授は、EUが、説明責任、透明性、積極的な市民参加の受け入れにさらに取り組む必要があると論じました。それによって、分裂的な国内政治を克服し、加盟国や市民の間の結束を再構築し、加盟国・市民共通の願望を代表する民主的な力であり続けなければならないと締めくくりました。
【イベント・レポート作成】
ビラル・ホサイン(一橋大学大学院法学研究科博士課程)
【日本語翻訳】
岸晃史(一橋大学法学部 学士課程)