2024年10月23日、グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は、チェコの研究機関「シノプシス(Sinopsis)」から、オルガ・ロモヴァー博士(Olga Lomová)とカテリーナ・プロチャスコヴァ氏(Katerina Procházková)の2人の中国専門家を招き、「人権に関する中国政府の認識」に関する国際ワークショップを開催しました。このワークショップには、国際関係、中国地域研究、その他の関連分野の学者や学生約30人が参加し、中国共産党の人権に対する考え方について講演者の見解を議論しました。
ジャーナリストのプロチャスコヴァ氏は、シノプシスについて発表しました。彼女はまず、プロジェクト設立の由来と動機を紹介し、他の機関とのパートナーシップ、プロジェクト、出版、その他のアウトリーチ活動について言及しました。また、官僚制度、プロパガンダ、中国共産党中央統一戦線工作部、外交問題など、現代中国と中国が世界にもたらす影響に関する主な研究成果を紹介しました。
次にロモヴァー教授は、中国研究の分野とシノプシス独自の中国研究へのアプローチを紹介しました。ロモヴァー教授は、シノプシスでは言語能力と「文脈と視点」に重点を置いていることを強調し、中国地域研究に対する統合的なアプローチが必要であると主張しました。また、シノプシスでは硬派な国際関係学や政治学から距離を置き、言語学、文学、現代史、政治、社会などさまざまな視点から中国の世界認識を理解しようとしていることを強調しました。
続いてロモヴァー教授は、シノプシスによる中国研究の動機について述べ、人権問題におけるチェコ共和国と中国の立場の違いを強調しました。ロモヴァー教授は、人権が共産主義後のチェコ共和国のアイデンティティの特徴であり、外交政策の基本的な考え方であるとして、チェコ国民が中国との関係強化の意味を誤解している可能性を示唆しました。
さらに、ロモヴァー教授は、世界人権宣言の形成に関する自身の文献研究について紹介しました。当時の文書によると、人権宣言の起草段階では、ヨーロッパ、イスラム教、共産主義の国々の代表者たちの間で、国家や宗教、義務よりも人権が優先されるべきかどうかについて議論が行われました。ロモヴァー教授は、C.L.Hsia(夏晉麟)とP.C.Chang(張彭春)という中国の外交官が、議論の中で中国の声を上げることに貢献したことを強調しました。ロモヴァー教授によれば、中国の代表は、異なる文化的伝統を調和させることができるように、宣言の内容の順序を変更し、その結果、文化を超えて受け入れられる文書になったといいます。中国代表はまた、本文の階層的な配置にも貢献しました。つまり、まず一般原則が他のすべての具体的な権利を定義し、簡単で専門的でない言葉で表現し、その結果、世界人権宣言の個人主義的かつ普遍主義的な文言が生まれたということです。
ロモヴァー教授は最後に、世界人権宣言の起草における中国代表の実際の普遍主義的な立場と、起草における役割について、現代中国の視点と史実に食い違いがあると指摘しました。現在の中国において、外交官たちは儒教的な人間の尊厳という価値観を推し進め、それは現代の中国共産党の「中国の特色ある人権」というプロジェクトと同一視されています。そしてその結果、中国が世界人権宣言の起草過程で先駆的な役割を果たし、世界的規模で人権保護の解決策を提案したとされています。この主張をもとに、中国は中国共産党の人権解釈を脱植民地化に関する言説の基本的な信条として支持し続け、グローバルな人権ガバナンスに対する現在の姿勢を維持しているとしています。
質疑応答では、チェコとハンガリーの中国政策の違い、外交における中国の人権言説における儒教の利用、中国における多様性・公平性・包摂性(DEI)の推進、地政学的・宗教的緊張の中での世界人権宣言の実現などについて活発な議論が行われました。
ロモヴァー教授は、グローバル・ガバナンスにおける人権言説の主導的で優位な地位を理解するために、世界人権宣言の初期に中国の代表が行った歴史的かつ傑出した貢献を見直すことの重要性を強調しました。また、中国の人権言説体系の構築は、中国のグローバル・ガバナンスへの参加の可能性を示していると指摘しました。
【イベントレポート作成】
岸晃史(一橋大学法学部学士課程)