民主主義・人権プログラム
レジリエンスの証 - 抑圧・人道支援・ディアスポラ活動に関するカレンニー族の若者の視点
出版日2025年1月17日
書誌名Issue Briefing No. 87
著者名ニン・テ・テ・アウン
要旨 * 本稿は、2024年3月14日に行われたインタビューをもとに作成された。
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レジリエンスの証
-抑圧・人道支援・ディアスポラ活動に関するカレンニー族の若者の視点

聞き手・著者: ニン・テ・テ・アウン
(一橋大学国際・公共政策大学院修士課程)
2025年1月17日

* 本稿は、2024年3月14日に行われたインタビューをもとに作成された。

ミルクティー同盟日本のメンバーであるモーテッヤン(Moe Htet Yan)氏は、カレンニー族に属し、ミャンマー・シャン州南部のペコン・タウンシップ出身である。グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は今回、モー氏にインタビューを行った。モー氏は、ミャンマー国内の少数民族と、そのディアスポラの日本における多面的な経験に焦点を当て、苦闘、レジリエンス、希望について貴重な洞察を提供してくれた。ミャンマーの軍事政権が、2021年以前から広範な人権侵害と差別によって、継続的かつ組織的に少数民族の権利を迫害・抑圧している状況を踏まえると、このインタビューは特に重要といえる。

「新聞配達を通して奨学金を貰えたため、学費を払わずに済みました」、とモー氏は話す。モー氏は2019年に来日し、日本語学校に入学した。日本語の勉強を終えた後、読売理工医療福祉専門学校で2年間、クロスメディアを専攻した。彼は日本の気候に適応するのに苦労したと語った。「日本の気候、特に冬の早朝に慣れるのは簡単ではありませんでした。仕事や勉強の準備が必要だったので、4時間くらいしか眠れないこともありました。」外国語を勉強しながら、自身や故郷にいる家族のためにお金を工面した。異国の地で生き延びようとモー氏がいかに奮闘したかが窺える。

次にモー氏はある重要な瞬間を語った。「ある朝、ミャンマーで軍がクーデターを起こし、選挙で選ばれた政府を追放したという悲惨なニュースを見ました。」この状況に突き動かされ、モー氏は自分の声が日本政府や国民だけでなく、国際社会にも届くよう、抗議活動や募金活動に参加するようになった。新聞配達、語学学校への通学、そしてまた別のアルバイトと、スケジュールをやりくりするのは大変だった。にもかかわらず、彼は軍事政権に対抗して民主主義と人権のために戦っているミャンマーの人々への支援を続けた。

少数民族に属するモー氏は、2021年のクーデター以前から、軍事政権による少数民族コミュニティに対する残虐行為や人権侵害を目の当たりにしてきた。「軍事政権の軍隊が、少数民族武装組織(Ethnic Armed Organization: EAO)と戦うために私たちの村を通過したとき、EAOとの繋がりが疑われると、村人の何人かは逮捕され、殴り殺されました。当時、私たちに救いの手はなく、私たちの状況を国際社会に伝えることさえできませんでした。」モー氏の発言は説得力のある証言である。彼とカレンニー・コミュニティがいかに軍事政権による残虐行為を目撃してきたかを如実に物語っている。

クーデター後、軍政によって家屋や土地、田畑までもが破壊されたため、しばらくの間、モー氏の家族も国内避難民となった。特に彼の祖母の家には、軍事政権が放った砲弾が直撃した。「軍事政権の兵士たちから身を隠している間、私は家族と連絡を取ることができませんでした。軍事政権は密かに行動すべくインターネットを遮断し、ミャンマー人と国際社会とのつながりを断ち切りました。」モー氏は、家族が軍事政権の兵士たちから逃れようとする間に遭遇した困難を語った。彼の語りからは、国際社会が深刻な人道危機と軍事政権の恣意的な行動に対処する必要があることが明らかに見てとれる。

インタビュー中モー氏は、日本政府によるミャンマーへの人道支援に感謝の意を表した。一方で、「日本政府はミャンマーへの人道支援資金を増額していますが、この援助が必要としている人々に効果的に届いているかどうか分析することを強く求めています」とも述べた。同時に、国連難民高等弁務官事務所、国連児童基金、国連世界食糧計画、災害管理に関するASEAN人道支援調整センターなどのNGOや国際機関を通じてだけでなく、国民統一政府(National Unity Government: NUG)やカレンニー州暫定行政評議会(Karenni State Interim Executive Council: IEC)にも直接、人道支援資金を提供するよう提言した。モー氏の提言は、日本政府と国際社会の双方に、人道支援資金が提供される経路を再評価し、危機的状況にある人々をより効果的に支援することを目指すよう喚起するものである。

モー氏は、人道支援資金を国民統一政府とカレンニー州暫定行政評議会に直接提供するよう提言した。モー氏の提言は、日本政府と国際社会の双方に、人道支援資金が提供される経路を再評価し、危機的状況にある人々をより効果的に支援することを目指すよう喚起するものである。

 

モー氏は視点を大きく転換し、現地の複雑な問題に立ち向かう若者たちに支援の手を差し伸べるため、一歩を踏み出した。彼はこの情熱的な活動を通し、活気に満ちたカヤン国際ネットワークの世界に深く関わっている。「このダイナミックな集団には、日本、オーストラリア、タイ、マレーシア、シンガポール、イスラエル、アメリカ、ノルウェーなど、世界中から元気なカヤンの若者たちが集まっています」、とモー氏は振り返る。この活気あるコミュニティの一員として、モー氏は積極的にミーティングを企画し、毎月の集まりに参加し、熱心に貢献し、多くの充実した活動を行っている。

2021年のクーデター以前から、軍事政権による組織的な抑圧に耐えてきたミャンマーの少数民族の悲惨な現実が、モー氏とのインタビューで浮き彫りになった。モー氏らは人道支援を確保するため、粘り強く取り組んできた。しかし、日本政府や国際社会からの資金が軍政の財源を不用意に補強してしまうため、モー氏らの希望はたびたび打ち砕かれてしまう。しかし、このような混乱の中でも、モー氏のような個人に代表されるミャンマーディアスポラという形で、希望の光が現れている。アドボカシーをはじめとするたゆまぬ活動を通じて、ミャンマーディアスポラは民主主義と人権を守るため、国内でもグローバルな規模でも尽力している。モー氏の取り組みは、支援ネットワークを構築し、虐げられた人々の声を増幅させてきた。彼の取り組みからは、ミャンマーで民主主義を取り戻すために、国際的な連帯と支援を結集するうえで、ディアスポラが極めて重要な役割を果たしているということがわかる。自由と正義を求める闘いが続くなか、モー氏の貢献はより明るく民主的な未来を求めるミャンマー国民のレジリエンスと決意の証となっている。

 

【日本語翻訳】
熊坂 健太(一橋大学大学国際・公共政策大学院修士課程)
中島 崇裕(一橋大学大学院法学研究科修士課程)

プロフィール

日本のソフトウェア開発会社に勤務するエンジニア。2019年から日本に滞在。2021年の軍事クーデター直後、カレンニー族の若者として日本で革命活動に参加。カレンニー族や故郷の国内避難民を含むミャンマー人のためのキャンペーンに積極的に参加している。カレン二―族の地域は、乾燥地帯の抵抗勢力の拠点とミャンマー南東部との間に戦略的に位置するため、軍事政権にとって重要な地域である。ミャンマーでは、タウンジー大学で歴史を学んだ。