民主主義・人権プログラム
香港に自由をもたらすのは、私たちだ
出版日2025年1月8日
書誌名Issue Briefing No. 85
著者名スラストリ
要旨 * *本稿は、2024年3月21日に行われたインタビューをもとに作成された。
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香港に自由をもたらすのは、私たちだ

聞き手・著者: スラストリ
(一橋大学公共政策大学院修士課程)
2025年1月8日 

* *本稿は、2024年3月21日に行われたインタビューをもとに作成された。

東京大学大学院に進学するため2015年に来日したアリック・リー氏(Alric Lee)は、建築家として3年間働いた。短期プロジェクトを行っていた最中の2019年、彼は反逃亡犯条例デモの熱気に包まれた香港を訪れた。自由を求める香港の運動がアイデンティティの可視化を欲していると察知した彼は、友人と彫刻をデザインした。これは、リー氏がその後設立したグループ、「レイディー・リバティー香港(Lady Liberty Hong Kong)」の始まりでもあった。それはまた、フリーランスの建築家として活動する傍ら、人生を完全に運動に集中する転機ともなった。

レイディー・リバティー香港創設

彫刻の製作は当初から、一人でできるものではなかった。「このアイデアをオンライン・フォーラムに投稿したところ、多くの人が反応し、協力を申し出てくれました。それがレイディー・リバティー香港の始まりでした。」多くのデザイナーやエンジニアが、この運動に貢献したくても公然と参加できず、貢献する方法を見い出せずにいた。「このプロジェクトは、異なる分野の人々に新たな機会を生み出す、共同運動でした。最初の一週間は参加者が10人にとどまりましたが、その後、オンライン・キャンペーンのような異なる性質の活動に組織化され、出版社、写真家、作家も参加するなど、拡大していきました」、とリー氏は述べる。

このプロジェクトが国内外のメディアから注目されるにつれ、アートやデザインを効果的に活用するアプローチに大きな意義を感じる賛同者も増えた。「その後は、デザインとエンジニアリングの専門知識を生かして国内外での活動を持続させるべく、アート展やチャリティセール、オンラインメディアキャンペーンなどのプログラムを開始しました」、とリー氏は言う。政府がこのような活動を行う場所を制限していたため、政府からの直接的な圧力がなくとも、香港でリー氏のミニ彫刻を展示している店は反対意見を公然と示していると見られ、問題視された。展示の最中に、イベントが防火規則を守っていないとか、店の土地目的に合致していないなどと主張する検査官も頻繁に訪れ、行政による嫌がらせを受けた。

リー氏自身も抑圧を経験した。政府によって銀行口座は凍結され、家族の仕事は彼の活動と全く関係がないにもかかわらず、警察から嫌がらせを受けた。そのため、レイディー・リバティー香港は、拠点を香港と日本に分割することとした。香港の自由の女神の彫刻を展示する際も、最初は展示物として展示していたところから、備品、材料と位置付けを変更した。そして彫刻を少しずつ日本や海外に移送した。

香港の国家安全維持法に対応して

香港の新しい国家安全維持法(National Security Law)の第23条は「外国からの敵対的宣伝や扇動(Foreign Hostile Propaganda)」に向けられており、香港人や香港の外国人だけでなく、海外にも影響を及ぼしている。よく知られているように、中国政府は、2019年の反逃亡犯条例デモが、外国からの干渉によるものだという見解を示していた。中国政府は、「香港は中国の一部であるべきではない」という意見を発信する外国メディアに香港人が洗脳されていると考えたのだ。そう位置付けることで、中国政府は、中国の支配下に置かれることを香港人が望んでいないという根本的な原因から目を背けた。「香港人の関心を外国政府や外国に向けることで、中国政府に対する敵意の矛先を逸らすのが中国政府の常套手段です。中国国内にどんな問題があろうとも、彼らはそれを外国人のせいにします。その非は決して自分たちの責任ではなく、市民に外国を憎ませようとする。そのような戦術が香港でも行われているのです。」

リー氏は以前の著作で、香港人の共同体意識は弱体化しつつある、あるいは地域と時間を超えて異なる形に進化しつつあるという見解を示した。2019年以降、多くの香港人が海外に移住し、さまざまな場所を経験し、現地の生活様式を取り入れた。香港のディアスポラグループ(香港以外に住む香港人の集団)の間では、香港人アイデンティティをどのように維持するか、そして民主化運動を海外からどのように持続させるかについて、多くの議論が交わされてきた。地元社会に溶け込むことを好む人もいれば、香港の生活様式を維持し、香港人としてのアイデンティティを主張したい人もいる。どうすべきかについては、さまざまなやり方や意見がある。「しかし、最終的な目標は皆同じで、香港を自由にすることだと思います」、とリー氏は語る。

香港の成功は、香港が力を取り戻し、人々が恐れることなく自由に暮らせるようになったときに訪れるだろう。「そのためには、小さなことから集中し、自分自身が今この瞬間にできることから始めなければならないと思います。そうすれば、力を取り戻すことができると思います。」世代間に隔たりがあれば、自国で過去に何が起こったかを知らない世代の責任感に影響が生じる。しかし親は、香港で今何が起こっているかについても子供に伝える責任がある。そうすることで、単に昔のような生活をするのではなく、コミュニケーションや教育を重視する生き方をすることができる。「人生の最も重要なゴールは何かを考え、生き方を変えるべきです。」

身近なところから活動を始めることは重要だ。何故なら、個々人の間に障壁を作り、人々の間の信頼関係、そして家族間の信頼関係さえも破壊するのが共産主義のやり方だからである。社会に存在するどんな小さな不信感の芽も摘み取ろうとする活動は、NGOや人権団体に任せるべきものではなく、我々がみな責任を持って行うべきことである。「まず自分たちで行動すべきだと自覚し、助け合う必要があります。ものごとはそのように始まります」、とリー氏は締めくくった。

 

 

【日本語翻訳】
岸 晃史(一橋大学法学部4年)

プロフィール

香港出身。大陸をまたいで学ぶ。英国で学士課程を修了し、2017年に東京大学で工学修士号を取得。2019年の民主化デモの最中にレイディー・リバティー香港グループを設立。象徴的な香港の自由の女神像を制作したことで知られるレイディー・リバティー香港は、運動を支持する香港人のアイデンティティを形成する上で特筆すべき役割を果たす。彼の指揮の下、レイディー・リバティー香港は600万香港ドル以上を集め、さまざまな人道的イニシアチブに貢献した。2023年、アルリックは活動の幅をさらに広げ、日本香港民主連盟の専務理事に就任。この組織は、日本における香港人の声を拡大し、東アジアの民主化推進グループ間の連携を強化することに焦点を当てている。