2024年10月30日、一橋大学グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は、講師に一橋大学大学院法学研究科教授中西優美子教授をお迎えし、「オンラインプラットフォーム空間におけるEU規制と基本権保護 ―EUデジタルサービス法を中心に―」と題して、第32回GGRブラウンバッグランチセミナーを開催しました。
中西教授はまず、誰がオンライン空間において基本権を守るのかという問題を論じ、EUのデジタルサービス法(Digital Service Act: DSA)を紹介しました。規則の背景と条例を説明しながら、サービス受領者、サービス提供者、違法なコンテンツにより影響を受ける者という、DSAの3つの対象の視点から、基本権について考察しました。また、デジタルサービス法において、複数の主体に役割が与えられていることについても言及しました。
次に中西教授は、オンラインプラットフォーム事業者の義務と、オンラインプラットフォーム事業者とサービス受領者(投稿者)との関係について、それぞれ論じました。まず、オンラインプラットフォーム事業者が、基本権を保護するように義務付けられており、義務違反の疑いがある場合には履行確保制度によって、法的な手続きや必要な措置が取られると定められていることを紹介しました。また、オンラインプラットフォーム事業者とサービス受領者(投稿者)との関係については、利用規約の重要性を強調し、お互いの基本権と義務を解釈した上の、サービス受領者に対する三つの救済制度も紹介しました。
さらに、「信頼できる警告者」の制度についても説明がありました。この制度には、適切なコンテンツであるかどうかを確認する機能に加え、関連する不適切なコンテンツについても通報・対応するメカニズムが法的に規定されています。また、「ふれる」というアニメの例が取り上げられ、言論の自由を深掘りし、熟議の上で出来上がった「欧州メディア自由法」の重要性についても議論がありました。
結論として、中西教授は、DSAは新しい形の規制枠組みの設定でありながら、事業者の権力の行使に当たり、それを規制するための「憲法」でもあるとまとめました。質疑応答セッションでは、具体的にどのような分野でどのように監査が行われているのか、なぜ国家の代わりに巨大なオンラインプラットフォーム事業者が主体として言論の規制や保障を担うことができるのかなどの質問が挙げられました。それに対し、教授は、監査については、DSAの第四章に記載されており、巨大なオンラインプラットフォーム事業者にはシステミックリスクの評価や緩和をする義務があると説明しました。また、言論の規制や保障の主体については、オンラインプラットフォーム事業者は、自らが提供するオンライン空間で、ユーザーに活動してもらっているからこそ、自らに対する信頼を築かなければならないと回答しました。
【レポート作成】
厳豊(一橋大学大学院法学研究科 修士課程)
岸 晃史(一橋大学法学部 学士課程)