2024年7月30日、グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は、日本の政府開発援助(ODA)や国際開発を専門とする3人の専門家を招き、「価値観と利害の一致 ―日豪の太平洋・東南アジアにおける民主化支援」と題したブラウンバッグランチセミナーを開催しました。このイベントは、同タイトルの報告書の発刊を記念したものです。
セミナーの冒頭、横浜国立大学教授の志賀裕朗氏は、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)イニシアティブの下、日本のODAがどのように変化してきたかを解説しました。志賀氏は、中国の台頭に対する危機感を反映して、普遍的価値を求める方法が、各国の国内から、国際的な法の支配へと変化してきていることを強調しました。志賀氏は、日本のODAの目的が、地域におけるある国による一方的な変化に対する抑止力として、伝統的な国家安全保障を確保することになったことを指摘しました。例として、関係国への巡視船供与を挙げ、「ODAの安全保障化」と志賀氏が呼んでいる、政府安全保障能力強化支援(Official Security Assistance: OSA)との関連性を指摘しました。また、ODAが普遍的価値を守るものとして正当化されれば、東南アジアを軍拡の渦に巻き込み、日本の安全保障を悪化させかねないとして、現状が日本にとっても被援助国にとっても良いことなのか懸念を示しました。
次に、一橋大学大学院博士後期課程に在籍する兒玉千佳子氏は、20年にわたる日本の東南アジア民主化支援のデータ分析に基づき、東南アジアに対する日本のODAにおける民主化支援のアプローチについて、3つの重要な提言を行いました。第一に、日本のODAにおける民主化支援の額と割合がともに減少傾向にあることを指摘し、アプローチに規範的な目的が加われば、状況は改善するはずだと論じました。
第二に、民主化支援における枠組みの多様化や、他国との様々なパートナーシップの構築により、日本は被援助国の市民社会に加えて、NGO、民間団体を含む様々なステークホルダーの参加を促進することができると指摘しました。
最後に、各国の状況に照らして開発協力の妥当性を慎重に見極める必要があると述べました。これは、権威主義国に関する研究の蓄積を活用し、ODAをどのように活用すべきかについて国内でしっかりとした議論を進めることで可能となります。
3人目のスピーカーである東京大学大学院新領域創成科学研究科サステイナブル社会デザインセンター特任研究員の御代田有希博士は、太平洋における日本の開発援助と民主化支援について概説しました。御代田氏は、日本が3年ごとに開催している太平洋・島サミット(Pacific Islands Leaders Meeting: PALM)が、日本の太平洋外交においてますます重要な位置を占めるようになっていることを説明しました。
太平洋諸国の歴史的、経済的な特徴にとどまらず、日本の民主主義支援について、御代田氏は3カ国(パプアニューギニア(PNG)、フィジー、ソロモン諸島)に絞って分析しました。
御代田氏は、日本からこれら3カ国へのODA額は、東南アジア諸国に対するODA額よりも相対的に少ないものの、受益国に大きな影響を与える可能性があると解説しました。
また、インフラ・プロジェクトが日本からこれら3カ国に対する開発援助の最前線である一方で、その他にもプロジェクトベースの援助が行われていると指摘しました。そこで、FOIPのビジョンに沿い、インフラと並行して民主主義に対する支援と、責任あるガバナンスに対する支援が、より多く提供されるべきだと主張しました。
【イベントレポート作成】
スラストリ(一橋大学国際・公共政策大学院 修士課程)
チョン・ミンヒ(一橋大学大学院法学研究科 博士後期課程)
【日本語翻訳】
岸晃史(一橋大学法学部 学士課程)