2024年8月26日、一橋大学グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は法学研究科および法科大学院と共同で、国際刑事裁判所(International Criminal Court: ICC)の赤根智子所長をお招きしてセミナーを開催しました。
赤根所長は、ICC判事としての責任や課題について詳細に説明しました。まず、自身が下す判決が、国際社会に広範かつ重大な影響を及ぼす可能性があることを念頭に、真剣に取り組んでいると話しました。次に、ICC判事としての独自の課題に言及しました。特に、ICCは国家からの協力に依存するため、日本の協力とICCの活動への日本人の理解は欠かせないと強調されました。赤根所長は、司法の独立を守りつつ、これらの犯罪が発生した政治的・社会的な文脈にも注意を払う重要性を強調しました。
さらに赤根所長は、国際刑事法の歴史的な進展に言及し、ICCが第二次世界大戦後の東京裁判やニュルンベルク裁判のような裁判の延長線上に位置していると述べました。これらの初期の裁判が戦争犯罪や人道に対する犯罪に対して国際法に基づいて個人の刑事責任を問う基礎を築いた一方で、「勝者の正義」と見なされることが多かったと指摘しました。これに対して、ICCは恒久的な機関として設立され、これらの犯罪に対して一貫して公正な対応を行うための包括的な法的枠組みを提供することで将来的な犯罪の防止を目指していると説明しました。
赤根所長は、ICC判事の役割についても言及しました。ICC判事は、国際法に関する深い理解だけでなく、複雑な政治的・文化的問題を乗り越える能力も必要であると説明しました。特に、異なる国から集まった裁判官との協力が必要である点を強調しました。各裁判官がそれぞれ異なる法的伝統や視点を持ち込む中で、最終的な判決にバランスの取れた公正な解釈を反映するためには、国籍の異なる裁判官の間で長い議論や交渉といった調整が必要になると述べました。
ICCの活動が国際社会に与える広範な影響についても説明しました。赤根所長は、深刻な犯罪に対して個人を責任追及することで、国際法への尊重を促進し、将来的な違反を抑止することを目指していると説明しました。ICCの活動が法の支配を守り、人権を保護する、より公正で平和な世界に寄与することを望んでいると述べました。
最後に、赤根所長は、日本人としてICCで裁判官を務める経験に触れました。日本が戦後、東京裁判の判決を受け入れたことが、同国の復興と国際社会への再統合において重要な一歩であったことを指摘し、この経験がICCでの仕事における自身のアプローチに影響を与えていると述べました。赤根所長は、ICCとその手続きの完全性を維持することの重要性を強調して講演を締めくくりました。裁判所が政治的圧力や資源の制約など多くの課題に直面しているが、ICCが国際正義の促進において引き続き重要な役割を果たすことを確信していると述べました。
【イベントレポート作成】
スラストリ(一橋大学国際・公共政策大学院修士課程)
渡邉英瑠(一橋大学国際・公共政策大学院修士課程)